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退屈日記「だんちゅう料理会の途中、突然、母さんが救急車で、と弟から連絡があり」 Posted on 2022/11/20 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、朝の日記で書いた通り、昨日の料理会は大盛況で、とっても楽しい会なのであった。
ところが、料理会が中盤に差し掛かった頃、携帯にラインメッセージが入っていることに気が付いた。
ちょうど、イカのトマト煮込みを出し終わった辺りだったが、メッセージは、弟の恒ちゃんからであった。
2時間くらい前のメッセージである。
普段ならば、すぐに気が付くのだけど、何せ、23人分の料理を作っている最中だったので、・・・。
「母さんの呂律がまわらなくなり、手足がしびれるというので、救急車を頼み、今、病院にむかっています」
え? 
そこで、植野さんやゲストの皆さんに気づかれないように、一瞬、場を離れ、ぼくは弟に電話をかけることに・・・。
「何があったの?」
「うん、今、脳神経内科の先生が検査をしてくれているところ。兄貴はだんちゅうイベントだよね? ともかく、結果出たら、知らせるから、待っていて」
「そうか、すまん。あとちょっとで終わるから、すぐ宿に戻るよ」
となった。
そこからは不意に不安になったが、顔に出さないよう、つとめた。
だんちゅう料理会が終わったら、ぼくは打ち上げなどには参加せず、即座に会場をあとにした。誰にも言わなかったが、植野さんは気が付いていた。
「何かありましたね。大丈夫ですか?」
さすが、編集長だな、と思った。顔には出さないよう心掛けていたのだけれど・・・。
「いや、大丈夫ですが、ちょっと、戻らないとならなくなり、すいません。片付けをできず、先に失礼します」

退屈日記「だんちゅう料理会の途中、突然、母さんが救急車で、と弟から連絡があり」



宿に戻ると、弟からメッセージが届いていた。
MRIなどを撮って、脳神経内科の先生が見た感じだと命に及ぶ状況ではなく、高齢なので、前に手術したところなんかが原因の、一過性の脳障害であろう、と書かれてあった。
ぼくは電話をかけた。
「福岡に飛ぶか? 明日の朝一番で」
「いや、大丈夫。そんなに重い感じじゃないんだ。それに、今は、もう、だいぶ、よくなっている。来ても何も出来ないから、兄貴くるとぼくが兄貴の面倒まで見ないとならないから、来ないでよ。(ぎゃふん)よくなっているから、今のところ大丈夫。母さんは今、看護師さんが24時間つきっきりの脳卒中病棟に入った。月曜日からリハビリと検査かな。もう、手足も動いているし、看護師さんに「自由がない」って小言を言ってるらしいから、(笑)でも、兄貴、母さんは高齢だからね、これはしょうがないんだ」
「そうか、ちょっと安心をした」
「でもね、パリ行きは無理だな。今は母さんに言えないけれど」
「え? あ、そうだね」
母さんの夢は、生きている間に、オランピア劇場でのぼくのライブを観ることなのである。
「恒ちゃん、なんか、オランピアでライブやれそうな感じなんだよ。実は、昨日、今日で急に動きだしている。母さんに見せたかったけれど、こんな感じだと難しいね。パリの病院は福岡の病院みたいに対処できないし。フランス語だし」
「うん。救急車の中で、思ったよ。もうすぐ90歳だからね。長生きしてもらいたいから、毎日毎日、丁寧に生きてもらわないと」
電話を切った後、一気に疲れが出て、ソファの上で気を失った父ちゃんであった。
一瞬爆睡をして、目が覚めて、ラインを確認したが、何も入っていなかった。
映画もぼくの手を離れたし、料理会も終わったので、ぼくは明日にでもパリに帰れる状態だが、もう数日、母さんの状態を見守って、東京で待機することになった。
人生というものは実に手ごわい。

退屈日記「だんちゅう料理会の途中、突然、母さんが救急車で、と弟から連絡があり」



つづく。

今日も読んでくれて、ありがとうございます。
実は、今日、急逝した秘書の菅間理恵子の一周忌なんです。早いものであれから一年が経ちました。最近、いないんだ、とよく思います。こういう時、菅間さんがいたらどうやって対応してくれていたかな、と思ったり、最後はつらかったのかな、とか、いろいろと考えますね。感謝しかありません。お祈りをして過ごしたいです。
それにしても、今回の日本滞在、大変でしたね。(まだ、その途中ですが、まだ、なんかあるのかなぁ・・・)映画の仕上げ中に、不意に歯の問題がおこり、手術をしたらこれが大手術、でも、このタイミングに歯を治せたことは結果としてよかった。それもなんとか乗り切ったところでの、母さんの入院・・・。感動したり、不安になったり、いろいろとありました。ちょっと、さすがに疲れきりました。でも、なんとか、もうちょっと頑張っていきたいと思います。まずは、待機です。

地球カレッジ

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