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滞日日記「番犬デビューした三四郎。父ちゃんは歯のことが心配で引きこもり」 Posted on 2022/11/09 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、朝一番で歯科クリニックに行き、CTをとった。
とりあえず紹介していただいた大学病院の方から「CTがほしい」と連絡がった、というので、映画の仕上げスタジオに行く前にクリニックに立ち寄ったのだ。回転式のCTだった。あとは、この過密スケジュールの中、歯の治療が出来れば助かるのだが・・・
その後、新宿のスタジオに行き、カメラマンの大ちゃんと合流、カラコレという作業に入った。
映画が大切なのだけど、歯茎の奥に隠れている虫歯の親知らず(本人知らず)のことが、気になり、どういう治療になるのだろう、と想像して若干、気が重い父ちゃんなのであった。
今は、映像の光り合わせ(グレーディング)作業中なので、息子のような大ちゃんカメラマンに任せて、スタジオを昼前に去った。えへへ。
(相談をした知人が、同じような手術で全身麻酔だったと聞いて、じつは相当びびっている父ちゃんなのであーる、ううう~、熱血!!!)
やることがなくなり、ごろごろしていたら、三四郎を預けているマントふみこさん(昼間は弟子の長谷っちやスタッフさんが面倒をみている)から、メールが届いた。
「ぼんじゅーる、むっしゅ辻」

滞日日記「番犬デビューした三四郎。父ちゃんは歯のことが心配で引きこもり」



「三四郎とはうまくやっております。彼はとっても若々しく、元気で、しかし、いい意味で臆病で、賢い番犬になりました。と申しますのも、私のアパルトマンは狭く、私は毎晩、三四郎と一緒です。一応、辻さんとのお約束「ベッドにはあげないで」のルールは守ることにして、ベッドの横の低いソファで寝かせています。彼はそこがとっても気に入ったようで、ぼろぼろになった顔無しのうさぎさんを投げてあげると、そこからジャンプして、狩猟犬のように走り回っています。私の家はリビングに薄い扉がついており、その向こう側が廊下。エレベーターホール前なので、人の出入りが多く、三四郎君は誰かの声が聞こえると、ドアまで走って、ウウウ、と威嚇をします。時々、大きな声が響くと、わん!普段、吠えないわんちゃんですから、血といいますか、狩猟犬の筋があって、頼もしい限りです。半年前、斜め前の家に泥棒が入りました。ドアが壊されて警察がやってきたことがあり、その時はさすがに怖くて眠れない夜が続きました。なので、三四郎君がいる間は、枕を高くして眠れるので、私的にはとっても安心なのです。実に頼もしい番犬です。「さんちゃん、吠えちゃダメよ」と注意をすると、こっちを振り返り、きりっとした顔で、「でも、マダム、ぼくが守ります」みたいな態度といいますか、凛々しさを見せつけてくるので、それが、とても人間のようで、愛おしくて仕方がありません。愛犬を失くしてからずっと一人で生きてきましたが、もうそろそろ、悲しみも癒えつつあるので、三四郎のような頼もしい子犬を育ててみたい、と思うようにもなりました。

滞日日記「番犬デビューした三四郎。父ちゃんは歯のことが心配で引きこもり」



朝は、起きたら近くの公園まで散歩に行き、そうしていると長谷川さんがやって来て、受け渡しの儀式となります。夕方はその逆です。三四郎は遠くに長谷川さんを見つけると、大喜び、もう、しっかり懐いているようですね。私たちの連携もばっちりです。一緒にカフェに行くこともあります。日本人が少なくなったパリですが、昔からずっとこうやってパリで生きている日本の方がいるのだ、と思うと、心強く感じます。戦争だ、コロナだ、と大変な時代ですが、ますます遠くに感じる日本でのお仕事、無理をなさらず頑張ってください。歯の治療の日記を読みましたが、日本で手術をされた方が安心ですね。まさに、こういう時代ですから、それにこしたことはありません。それでは、映画の完成や、もろもろのご報告を楽しみにしております。歯の治療がうまくいきますよう、お祈りをして。ふみこ拝」

滞日日記「番犬デビューした三四郎。父ちゃんは歯のことが心配で引きこもり」



鬱鬱としていたら、夕方、クリニックの先生から連絡があり、大学病院で治療を受ける日程が出た、とのことだった。
ぼくの日本滞在中に、抜歯まで終えて飛行機に乗ることが出来そうである、よかった。
高度一万メートルの気圧のせいで歯が痛くなるのだけは、なんとしても避けたかったので、一安心である。
年齢的に、こういう違和感からの新たな問題というのが増えてきそうだ。
でも、違和感を感じたら、こうやって早めに対処しておく方がいい。
夢を実現させるためにも、まずは健康でないとね、・・・あはは。
今回、違和感を感じたタイミングでちょうど日本だったことも幸いした。
ほかにも、いくつかささやかな違和感があるので、定期健診はちゃんとやっておこう、と自分に言い聞かせた父ちゃんなのであった。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
明日から再び映画の仕上げ作業に全精力を傾けたいと誓ったげんきんな父ちゃんのです。えへへ。昨日、こういうタイミングでポーランドからライブの依頼が舞い込んだのだけど、12月3日だったから断ってしまって、やっとけばよかったかなぁ、でも、まぁ、ちょっとパリで落ち着かないとね・・・、年末だし・・・。

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