JINSEI STORIES
滞日日記「パリごはんの再放送を見ていたら、なんと、マノンちゃんから電話が」 Posted on 2022/11/04 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、昨日は生まれてはじめて、テレビ画面を通してNHKBSの「パリごはん」を見ることが出来た。
ちょうど観ている最中、あのニコラ君のお姉ちゃんマノンちゃんからメッセージがフランスの携帯に飛び込んできたので、・・・わわわ、びっくり仰天・・・。
テレビどころではなくなったのであーる。
WhatsAppの電話のテレビ電話に、変更・・・。
「どうしたの? 今ね、ちょうど、あの番組、ほらNHKのあれ、わかる? ムッシュのごはん、ええと、その夏のバージョンが再放送されているんだ」
「へー、ふふふ」
興奮する父ちゃん、仏語が出ない~。
「昨日、十斗とニコラと三人でご飯食べたんだってね?」
あまりに急だったので、話も要件も、まとまらない父ちゃん。というか、仏語を忘れてしまって、途中、日本語になったり、英語になったり、大慌て。
「うん。なんかお祝いみたいなのをしたの」
「なんのお祝い?」
「十斗が大学生になったでしょ?」
「ああ」
ぼくはやっと落ち着いたのだった。
「そっちは何時?」
「朝ですよ」
「そうだねよ。あ、冬時間かぁ。時差8時間になったものね。じゃあ、そっち9時?」
2人のその後はとっても気になっていたけれど、もう二人とも大人になったし、ニコラは中学生、マノンも高校生なので、とやかく心配してもうざかろうと、距離を保っていた。
フランスの子たちはとにかく、子供扱いされるのが嫌いで、みんな大人ぶる。ぼくの時代は、ぼくなんかが一番いい例だけど「いつまでも子供でいたい」学生ばかりだった。
でも、フランスは大人扱いされたい子たちばかり。なのでか、マドモアゼルという呼び方も一応なくなってしまった。今は、みんな「マダム」なのである。
この二人はコロナ禍の大変な時期に、親が離婚をし、すぐに双方が再婚をし、二人は居場所がちょっとなくて、ご近所だったので、うちが避難所となった。
NHKの番組の最初の頃、ニコラがよく出演してくれてたっけ。一緒におにぎりを作ったこともある。
でも、ぼくは田舎に引っ越したし、彼らもパリの郊外、中心部から一時間半は北にあがったところの住宅地で暮らしているし・・・。
なんでも、今一時的にお母さんの方の親夫婦と一緒に暮らしているようだった。
「そうなんだ。元気にしているの?」
「していますよ。私は大学に行きたいから、今、十斗がそうだったように学校選びとか、いろいろ大変で」
「マジか? もうそんな年齢なの?」
「はい」
元気のいい声が戻ってきた。
「大人になったら何を目指すの?」
「私、ジャーナリスト」
「ほお、それすごいね」
「で、大学生のあいだに日本に留学したい」
「あ、いいね、それはお手伝いできるかも」
「ニコラは最初から日本の大学に行きたいと言ってるけど、さぁ、どうなることかしら」
「ニコラ、大きくなったんでしょ?」
「ええ、162センチ」
「ひゃひゃひゃく、ろ、ろ、ろくじゅーにー?」
ぼくはびっくりした。おにぎりやピザを作ってた頃はめっちゃ小さかったのに。
そうか、だから、あんなにちょっとごつい顔になっているんだ。フランス人、子供の頃は天使のようで、大きくなると体格もぐんと逞しくなるし、背がまず伸びて、顔を縦長、頭は小さくて、確かに、あの子はもうすれ違ってもわからないかもしれないな。
三人の中では一番、顔が変わる子だと思う。
十斗だって、あんなに逞しくなったのだもの・・・。
「うち、引っ越したから、遊びにおいでよ。今は日本だけど12月、クリスマス会をやろうよ。パリの方の家で」
「いいですね」
「あ、ちょっと待って、テレビ観ない?」
携帯をテレビに向けた。再放送中の「パリごはん」を一緒に観ることになった。
昔は1分300円くらい通話料がかかっていたけど、今は、タダ。便利な時代である。しかもテレビ電話付き・・・。
「わ、すごい。ムッシュ、日本のテレビに出てる」
「そうだよ。これにニコラも出たことあるんだよ」
「へー、でも言わない方がいいですよ」
「え? なんで?」
「だって、出演料を要求されますよ。間違いなく」
「マジか」
「マジマジ、笑。けっこう、しっかりしています」
ぼくらは笑いあった。
「ニコラの写真、ある?」
「なんで? 」
「みてみたい。後ろ姿でもいいから、視聴者の人に大きくなった姿を見せたいな」
「それは、出演料要求されない範囲ですね」
ぼくらは笑いあった。
久しぶりにマノンの元気な声を聴くことができて安心をした父ちゃんであった。
ニコラとマノンは今お母さん方の実家に住んでいる。ご両親はそれぞれ新しい家族が出来ていて、落ち着くまで彼らが子供たちに会いに来るシステムらしい。
あ、お父さんの家には泊まりに行くみたい、二週間に一度の頻度で・・・。
どちらにしても、彼らの両親は今、とっても幸せなのだそうだ。子供たち二人はどうか、と訊いたら、これがベストだと思う、という答えがマノンから戻ってきた。大人~。
ニコラとマノンの祖父母さんは70代だけれど、元気なのだそうだ。
ともかく、めでたし、めでたし、なのかなぁ。
十斗とこの二人がこうやって繋がっていることは素晴らしいことであった。
つづく。
今日も読んでくれてありがとう。
番組、手で顔を隠しながら見ていたのですが、マノンから電話があって、普通にみられるようになりました。あはは。でも、まぁ、こんな日もあったよなぁ、というドキュメンタリー番組としては、個人的にですけど、老後の愉しみになりそう。パリに戻ったら、秋冬編の撮影をどんどんやりますけど、料理、何を作ろうかな・・・。お楽しみに。
さて、お知らせです。
増刷のお知らせが届きました「父ちゃんの料理教室」がついに8刷になったのだとか・・・。書店でご注文いただけますと、まもなく、お手元に届くと思います。