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退屈日記「息子がニコラとマノンと三人で食事をしたらしい。おお、新しい展開」 Posted on 2022/11/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、なんだか息子からたくさんメールが来るようになった。きっと、ぼくを心配しているのに違いない。
「体調、大丈夫?」
「いや、けっこう、きついから、マッサージさん頼んだ。いつもの先生で、やってもらうとなんとか歩けるようになる(大げさに言っていた。なんのために?)」
「忙しすぎるよ。食べてるの?」
「さっき、コンビニで買った。写真送る」
「いらないよ。そんなもの」
「あはは」
「映画は? 大人の事情は解決したの?」
「それは大人たちがやってると思う。今日からポスプロがスタートする。君の曲、あと1分半長いバージョンを作って送ってほしい。2019年のスタッフもいるから、エンドロールが長くなる」
「オッケー」
その時、ピンポーン。
「マッサージの先生だ!」
「うん、よく揉みほぐしてもらってね」
電話を切った。息子に心配されるだけで、なんとなく幸せな父ちゃんなのであーる。
先生に、背中が曲がっている気がする、とお伝えし、背中の写真を撮影してもらった。
「長年、ギターを弾かれているから、どうしても、曲がるんですよね」
長年って、半世紀だもんなぁ。前は若くても、背後はおじい様な父ちゃん。
この写真、お爺ちゃんにしか見えない・・・。ううう。

退屈日記「息子がニコラとマノンと三人で食事をしたらしい。おお、新しい展開」



指圧マッサージが終わると、背筋が伸びた。
ぼろぼろの身体を一時的にマッサージで流しているのに過ぎない。
根本的な体質改善には、規則正しい生活と自炊に限る・・・今は、なかなか難しい。
コンビニで買った、おにぎりとおからを食べた。(写真のは、少し前のもので、あくまでもイメージです。サントリーの角の小瓶がうつっていますが、あくまでもイメージに過ぎません。この量はぼくが食べきれる量ではありませんので、イメージに過ぎません)
今は映画のポスプロ作業中だけど、その合間を縫って、来年以降の演劇やライブ、小説やエッセイ、NHKのパリごはんの打ち合わせ、などがある。次回来日は、来年夏以降まで戻れそうにないので、ここでしっかりと打ち合わせをやっておかないとならない。
そりゃあ、息子が心配をしてもしょうがない。
映画がストップしていた件だけれど、尻を叩いたら、慌ててみんなが動いた。尻を叩かなければ、多分、ずっとまとまらなかっただろう。ぼくは約束を守らない人間は嫌いだ。ぼくがいつまでもまとまらないなら中断すると叫んだので、あっという間に契約書が出来てきた。(まだ手元には届いてないので、届くまでは、なんともいえない。とにかく、遅い)
すると、息子から1枚の写真が届いた。
それはぼくを励ますための写真なのだった。
びっくりした。ニコラとマノンと十斗が三人で食事をしている写真である。
「えええ、なに、これ」
これまではあくまでも、ぼくを介して、息子はこの二人と仲良くしていた。自主的にあったことはなかった。でも、三人で和食? いや、エビフライのようなものを食べている。オペラ地区の日本食レストランかもしれない。
ニコラ、懐かしい。最初はだれかわからなかった。顔がとがって、長方形になってめっちゃ西洋風になってる。フィリップ殿下みたいな感じ。
マノンは美人になっている。その横に、十斗がいた。一番お兄ちゃんの顔である。
連絡をとりあって、会った、ということであろう。
ぼくは東京にいるのに、彼らは落ち合って、仲良くご飯を食べた、ということだ。夜の写真だから、昨夜、レストランに行ったんだろうな。
ニコラは中学生になった。マノンは高校生かな、そして十斗は大学生なのだ。
ある意味、一番きついコロナの時期を共に同じカルチエで乗り越えた三人なので、緩やかな兄弟のような関係になっているのかもしれないね。
こうやって、三人が繋がっているのが、父としては嬉しい。マノンが美人さんになっていて、びっくりした。そりゃあ、女の子の成長ったら、早いんだろうなぁ。
「よろしく、ニコラとマノンに伝えておいてね。パリに戻ったら、遊びにおいで、と言っといて」
「わかった」
みんな、どんどん、大人になっていく・・・。
親はなくとも子は育つ。そして、子供たちは子供同士でこうやって繋がって新しい関係を結んでいくということなのである。
ぼくはちょっと安心をした。
ストレスはマックスだけれど、映画の完成に向けてもうひといき、全力で頑張っていきたい。

退屈日記「息子がニコラとマノンと三人で食事をしたらしい。おお、新しい展開」



つづく。

今日も読んでくれてありがとう。
文化の日ですが、今日はポスプロのスタッフさんらとミーティングがあり、今後の進め方などを協議します。そのあと、日テレの松村さんとミーティング。なんか、舞台を、演劇をやりましょう、ということで会います。明日は、大阪の泉ホールの支配人、松田さんから、ストラヴィンスキーの「兵士の物語」をやってもらえないかという話が来ていて、おおお、ついに、クラシック、と燃える闘魂の父ちゃんなのですが、未来を語り合うのは楽しいですね、。さて、実現するのはどれだ!!! 熱血~。

退屈日記「息子がニコラとマノンと三人で食事をしたらしい。おお、新しい展開」

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