JINSEI STORIES
退屈日記「ぼくの田舎では牡蠣の自動販売機しかない。自動販売機の哲学」 Posted on 2022/11/02 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、仕事がひと段落したので、逆にやることがなくなり、東京の青空を見上げて、ちょっとのんびりとしている。
今日は本当に何も用事がなく、缶コーヒーを買いに近くの自動販売機まで出かけてみた。建物を出て2秒。あはは。
清々しい快晴だったので、深呼吸をした。
いろいろと大変なことが山積中だが、今日は忘れてみようと思った。
青山とか、新宿御苑とか、散歩でもすればいいのだけど、ここがまた出不精な父ちゃん・・・。それでもコーヒーを飲まないと一日が始まらないので、WONDAのブラックを買った。美味しいね。
フランスの凄いところは自動販売機が街角に一切ないところ。
隠すつもりはなかったのだけど、先日、投資家さんと話が盛り上がった時、
「実はぼくはノルマンディに家があるんですけど、内緒にしてるわけじゃないんですけど」
と言ったら、
「は? みんな分かってますよ。あの映像をみたら、誰でもノルマンディだって、わかるでしょ? モンサンミッシェルに近い、その辺でしょ」
と言われ、あまりに図星だったので、もう逃げられない、と思って観念した父ちゃんであった。
あはは。すいません。実は、ノルマン人なんです。これからは誇りをもって生きます。ノルマン辻。
去年、日本大使館の書記官の皆さんとごはんを食べている時にも
「ノルマンディで暮らせるの、羨ましいなぁ」
といきなり言われて、呑みかけていたワインを吹き出しそうになった。
ばれてる。
「わ、わかりますか?」
「少なくとも、パリに住んでいる人間は皆さん、辻さんはノルマンディにアパルトマンを買ったらしいよ、と噂してますけど」
いや、別に隠すつもりはないのだけど、でも、言いふらすことでもないので、黙っていただけのこと、こうなったら、ノルマン人として、もう黙っておくことはできない・・・。
ノルマンディに住んでいる人のことを「ノルマン」という。「パリジャン」みたいな言い方で、誇り高い。あはは。「博多っ子純情」みたいなものかなぁ。
ノルマンディというところは、日本だと、東京における逗子とか九十九里とか、そういう距離感の避暑地ということが言えるだろう。
パリから近いところで一時間半、遠くても3時かちょっとで行くことが出来るのであーる。
ツアーでもやります?
ということで白状をすると、ブルターニュにも近いし、オンフルールにも行きやすい、ノルマンディのとある村に住んでいるのだ。
あ、モンサンミッシェルも近い。(ノルマンディは新潟県のように細長く、東はモンサンミッシェルまでがノルマンディとなります)
で、話が長くなったのだけど、ぼくの暮らす村に唯一あるのが牡蠣の自動販売機。
清涼飲料水の自動販売機は一切ないのだけど、牡蠣の自動販売機がある。(写真が見つからないので、次回に)
す、すごいでしょ? 牡蠣の自動販売機、まだ試したことはないので、ちょっと怖いですけど、次回、ぜひ、試して、リポートしますね。箱に詰め込まれ梱包された生牡蠣がどかっと出てくるらしい・・・。生ですよ!!!(自分で牡蠣をむかないとならないのであーる)
しかも、しかも、一年中、夏でも生ガキ自動販売機!
イメージするとやばいですね。
隣町にはピザの自動販売機もあった。あはは。
パリにはオペラ地区に日本の自動販売機コーナーみたいなものがある。漫画好きな若者がそこで買って、日本的文化を楽しんでいる。
しかし、ぼくの知る限り、そこしか見たことがない。
高速の休憩所にはコーヒーマシーンの自動販売機があるが、それは全世界共通だ。
実に話が脇道にそれたが、ようは、日本にいると、自動販売機でコーヒーを買う楽しさがあって、嬉しい、ということである。
逆に、欧州風のカフェが少ないので、喫茶店はあるけど、テラスでコーヒー飲みたい派の父ちゃん、缶コーヒーを買って公園のベンチで黄昏れオヤジになって一息ついている。
秋空を見上げてのむ、コーヒーは美味しい。残ったのでもって帰り、パソコンの横においたら、すっきりした。これだ。企業戦士みたいな父ちゃん・・・。
自動販売機で、何を買うか、迷っている時がぼくは好きだ。キリンとアサヒの自動販売機が並んでいたので、両方から少しずつ買った。お茶を飲み比べたり、コーヒーを飲み比べたりして、日本を満喫している父ちゃんなのでありました。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
今朝、増刷のお知らせが届きました。「父ちゃんの料理教室」がついに8刷になったのだとか・・・。ロングセラーになっていて、なんか、嬉しいですね。
さて、明日の文化の日は、NHKの「パリごはん、夏版」が再放送になりますよ。その時間、ぼくはちょっと生で観ることが出来そうです。
11月3日、文化の日の夕方の放送になります。
●再放送「ボンジュール!辻仁成のパリごはん〜 2022 夏〜」
【BSP】 11月3日(木) 午後4時35分~〜5時34分
お知らせです。
新世代賞、受賞作品5作品は、10月30日〜11月13日の2週間、小田急車両の中吊り広告でランダムに掲示されています。小田急線ご利用の皆さん、眺めてやってくださいませ。