JINSEI STORIES

退屈日記「飲み屋で衝撃の出来事があり、不意にお爺さんになった父ちゃん」 Posted on 2022/10/28   

某月某日、宿にこもって受験生のように映画の編集作業をしている。
コンビニでいろいろと買い込み、編集画面とにらめっこ、集中していたのだけど、昨夜は、さすがに疲れて、知り合いの鉄板焼き屋さんに3年ぶりに顔を出した。
女将が自ら鉄板で焼く。長崎の女将できっぷもいい。
コロナ禍だったから、ずっと顔を出せずにいたので、なんにも変わってない店の雰囲気とか女将の顔をみて、ちょっと安心をした。
ところで、ぼくの隣にまたまた座っていた若いムッシュが(かっこいい人で、ジャケットも縦縞で、俳優みたいな人だったが)、酔っぱらっておられ、「俺のアメックスがない」と騒ぎ出した。
お連れの美しいマダムが一緒に探しだしたが、見つからない。
女将まで出てきて、「コンビニで現金をおろしてきてね」と言った。
その人はどうやら常連らしい。
寄ってたかって鞄からジャケットのポケットやら、あらゆるところを探したのだが、ない。
「俺の、俺のアメックス、どこだ。俺のアメックス!」
かなり酔っぱらっているので、大騒ぎになった。
俺のアメックスがまるで音楽のように店内に響き渡り、おとなしい店の雰囲気を壊しまくった。当然、ぼくの隣の席なので、ぼくも巻き込まれた。
「どこかで落とされたなら、早く停めた方がいいですよ」
などと余計なことを口走ってしまった。
お連れのマダムが、前に立ち寄った焼き鳥屋さんに電話をしたが、すでに閉店。
ムッシュは、自分は45歳で、頑張ってきたのに、マジやばいよ、と叫びだした。45歳か、いい年齢だな、と思った。
「俺のアメックス~」

退屈日記「飲み屋で衝撃の出来事があり、不意にお爺さんになった父ちゃん」



10分くらい騒いだところで、男性がそのカードを左手で握りしめていたことが発覚し、一同、拍子抜け、騒ぎが収まったのだった。そんなものであーる。
「すいません。お騒がせいたしました」
とその男性が、ニヤニヤしながら言ったのだ。どういうやり取りがあったのか、覚えてないのだけど、
「あの、お客さんはおいくつですか?」
と不意に聞かれた。
なんで、年齢を聞いてきたのか、よくわからないが、ぼくの存在が気になったのかもしれない。ところがその直後、父ちゃん的には、超衝撃的な出来事がおこったのである。
「63歳ですよ」
だいたい、これを言うと、皆さん驚かれ、えええ、お若い、とお世辞でも言ってくれるのだけれど、そのアメッ君、たら、
「ああ、そうですか。ぼくは45歳です」
とのたもうたのであーる。
(おい、いったい、なんだよ。そのリアクション、自信なくすじゃねーか。へー、お若く見えますね、くらいリップサービスしてくれよ、とか心の中で怒りに震えた父ちゃん)
アメッ君は、帰っていった。
残された父ちゃんは、63歳が確定した。
夏から続いた映画撮影と気管支炎のせいで、免疫力が下がっているのはわかっている。
お腹がゆるいし、肌もささくれだっている。
きっと、今のぼくは63歳と打ち明けても、誰も驚かない年相応な顔をしているということなのだ。そんな、・・・。

退屈日記「飲み屋で衝撃の出来事があり、不意にお爺さんになった父ちゃん」



ぎゃああああ、そんなー、ぼくは「お若いですねー」と言われないと自信を無くすタイプなんだよ。なんだよ、アメックス野郎、ぼくまで落ち込ませて、去って行きやがって。
ということで、ぼくは自信をなくして、夜の街へと出た。力が入らず、顔を隠して、街灯の下の光を避けながら宿へと暗い道を選んで戻ったのである。
そして、失意の中、寝たのだ。
ううう、こんなに衝撃的な出来事はない。ぼくは初期高齢者が決定してしまった。
もうだめだ。もうだめだ。
俺のアメックス~。どこだ、俺のアメックス~。

ということで、今日は長年、ぼくの体調管理をやってくださっているマッサージ師O先生に宿までお越しいただき、2時間みっちりと若返りの健康マッサージをやって頂いたのであーる。
O先生の指圧マッサージは、マッサージというよりも整体に近い。
身体を整えていく整体である。骨をばらし、リンパを流し、肉にエネルギーを与え、血管をよくし、気の道を整えてくださるのだ。じわじわ気力が出てきた・・・。
年相応でいいじゃないですか、と周囲の人には言われるのだけど、ぼくは嫌だ。バンパイヤのように生き血を吸ってでもがんばってつややかにいきたいのである。あはは。
愚か者といわれようが、腹が出てないことを誇りに思っていきたい。もう時代は終わったとか、絶対、自ら思いたくないしぶとい人間なのであった。
しかし、アメッ君、君のおかげでぼくは自分の老化に気が付くことが出来たよ。ありがとう。次回、会う時に、もう一度、年齢を聞いてみてほしい、みてろよ、
「合言葉は熱血!!!!!!!」

退屈日記「飲み屋で衝撃の出来事があり、不意にお爺さんになった父ちゃん」



つづく。

ということで今日も読んでくれてありがとうございます。
息子に、前に、言われたんです。「パパはほんとうに若い。パパみたいな友だちのお父さんはいないから、ぼくはうれしいんだ。歳が離れていても」ぼくと息子の歳の差は45歳なんですね。ぼくが若くないと息子が悲しがるから、見た目、若くいてやりたいんです。あいつ、実はよく見てるんですよ、父ちゃんのことを・・・。あはは。
さて、お知らせです。
「ボンジュール!辻仁成のパリごはん〜 2022 夏〜」の再放送が決まりました。小さな声で、よっしゃー。
11月3日、文化の日の夕方の放送になります。
●再放送「ボンジュール!辻仁成のパリごはん〜 2022 夏〜」
【BSP】 11月3日(木) 午後4時35分~〜5時34分

地球カレッジ

退屈日記「飲み屋で衝撃の出来事があり、不意にお爺さんになった父ちゃん」

えへへ! ピーターさんかと思った・・・



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