JINSEI STORIES

第六感日記「またまた霊を呼び寄せた父ちゃん。お札を取り出し枕元に置く」 Posted on 2022/10/23 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、映画最終章の新クランクイン(三日後、クランクアップ予定)前夜なのだけど、俳優の村井くんと食事をして、宿に戻り、明日に備えて、寝たのが深夜の丑三つ時。
爆睡に近い状態で眠りに落ちることになったのだけど、夜中に、夢なのか夢じゃないのか、わからない状態になった。
うおおおおおおお、来たなー。
気が付いたら、金縛り、である。
しかし、朝から映画の撮影があるので、ここは幽霊さんと戦って体力を消耗することが出来ない。やばい・・・。
父ちゃんの長年から霊的経験かするに、この幽霊さんは、この宿の方ではなく、浮遊されてここに来た感じなのである。
なぜなら、この宿は夏も泊まったが、悪い気がない。どこぞの方じゃ・・・。
だいたい、まず、夢の中で、実態のない、血なまぐさい非常に恐ろしい夢を見る。
で、目が覚めるのだけど、足の方からじわっと身体が動かなくなってくる。
来た、と思った時にはすでに遅く、だいたい、抑え込まれているという流れだ。
う、うごけない。
おそるおそる、薄目をあける。
父ちゃんの肩を押さえつける「腕の先」が見えた。



金縛りだと思った。
必死でこの呪縛から抜け出ようとするが、体力を温存したいので、
「南無阿弥陀仏」
を必死で唱えた。
頭の中心に、意識を集中させ、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、と念じ続けるのである。
だいたいはこれで去ってくれる。
ある瞬間に、縛られた肉体が緩んでくるのだ。
悪霊ではない。霊感が強い父ちゃんなので、浮遊霊が近寄って来たのである。
南無阿弥陀仏を十回くらい唱えたところで、鎖がほどけるようにすっと身体が楽になった。
父ちゃんは素早く起きて、持参している塩を鬼門に盛った。
それから比叡山延暦寺の元三大師のお札を枕元に設置した。(旅の最中は常備している)
邪気がたまるツボがある。
頭のてっぺんのチャクラの中とか、腕の肘の付け根とかに。
そこに指先を置き、すっと邪気抜きをやる。これが実に効きます。
数度、邪気払いをやった。
これで邪気は消えてくださった。
南無阿弥陀仏じゃ。



身体が清まったか確認をしてから、布団に戻り、ぼくは再び眠ることになった。
今度はお花畑にいるような優しい夢を見た。そして、撮影の朝を迎えることになる。
朝起きると、枕元にお札があったので昨夜のことを思い出した、という次第であった。
手を合わせ、信仰はないのだけれど、祈りを捧げてから、ベッドから起き上がった父ちゃんであった。
よし、行くか。

第六感日記「またまた霊を呼び寄せた父ちゃん。お札を取り出し枕元に置く」



つづく。

ということで、今日も読んでくださり、ありがとうございます。
さて、映画の撮影に出かけます。昨夜、丑三つ時の戦いのせいで、ちょっとだけ寝不足ですが、大丈夫。心地よく、映画芸術と向き合ってきます。えいえいおー。

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