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滞福日記「父ちゃんの日本滞在中に、シェフをしてほしい、という依頼が舞い込む」 Posted on 2022/10/23 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、日本にいるあいだは、あまり料理が出来ないのが一番のストレスなのである。ところが、この日本滞在中に東京で料理会をやってもらえないか、と某料理団体から出張シェフ依頼が舞い込んだから、さあ、大変。
スケジュール帖を覗くと、な、なんと、その日は映画の仕上げの最中で、しかーも、監督はオフの日、なのであったぁ。
おおお、出来る~。
二つ返事で、やります~、となった、父ちゃんなのである。
お客さんは20人程度ということなので、腕がなるなる法隆寺であった。

滞福日記「父ちゃんの日本滞在中に、シェフをしてほしい、という依頼が舞い込む」

※ アフレコで、6歳児、蓮司役のそーたくんと助監督のT君。大型新人なのであーる。



今日はアフレコからの衣装合わせだったが、その合間に、献立を考えはじめている気の早い父ちゃんシェフ・・・。おいおい、今は映画に専念せんかー、と映画Pに怒られそうなのだけど、やはり、楽しいことを考えて運気をあげながらの撮影だからこそ、捗る、というものである。
どんな会場で、どういうゲストたちで、どういう料理を出せばいいのか、不意にてんてこまいになってしまったではないか~。あはは。
ということで、そわそわしながらも、夕方、俳優の村井良大君と衣装合わせ会場で約3年ぶりの再会となったのである。
「監督、お元気でしたか?」
「おおお、村井くん。元気そうだねー」

滞福日記「父ちゃんの日本滞在中に、シェフをしてほしい、という依頼が舞い込む」



衣装合わせのあと、助監督のTをつれて、三人でレストランに行った。
そこで、方言指導をしたのであーる。
ぼくじゃなく、助監督さんが村井くんに指導したのを、横で、ぼくは聞いていただけ。時々、
「それでよかとよ」
とちゃちゃを入れる監督父ちゃん。あへ。
そして、そこの料理がめっちゃおいしくて、方言指導をしながら、つい、父ちゃんは料理会の構想へと頭が傾斜してしまったのであーる。す、すまん、村井くん。
※それにしても村井くんは、どんどんいい感じの俳優に成長しているのである。これは映画「中洲のこども」にとっては朗報であった。
最初に出てきたのが「馬刺し」で、次が「ゴマ鯖ならぬ、ゴマかんぱち」それから「明太子ピザ」とか「さがり肉のステーキ」とか「特大オムライス」とか、ザ・日本の洋食屋&地元料理のオンパレードで、ひゃああ、とうなった父ちゃん。
人生はやはり、美味しいもの、が大事なのだった。

滞福日記「父ちゃんの日本滞在中に、シェフをしてほしい、という依頼が舞い込む」



映画どころではなくなり、美味しいご飯を参考に、自分がやる料理会の献立を考えてしまったのだから、いかんいかんいかん。
背筋をのばして、村井くんと映画談義へ・・・。
「村井くん」
「はい」
「ぼくはね、村井くんに、日本を代表する映画俳優になってもらいたいんだ」
「ありがとうございます」
「村井くん、今まではどこかハンサムな村井くんでよかったけど、30歳を超えたからには、ハンサム男優を残しつつも本格的な映画俳優を目指そう」
「どんなふうにでしょう」
「新境地だよ。村井くん。熱血だよ、村井くーん」
「はあ・・・(苦笑)」
「さあ、食べよう。美味しいものをがんがんたべて、明日に備えよう。うまいものを食べないと新境地にはいけないんだよ。さあ、食べろ~」
そのとなりでオムライスをがんがん食べている助監督のTくんであった。
その時、料理会の主催者さんから、フルコースの献立を考えてください、というメッセージが携帯に飛び込んだのであーる。
ゥうう、震える。
がぜん、楽しくなってきた父ちゃんであった。
美味い!!! 
やっぱり、人間は美味しいものを食べると元気になるのである。
「村井くん。DSの読者の皆さんに、村井くんを紹介したいから、一緒に写真いいかね~」
「もちろんです」
「日本の夜明けのような顔で一緒に写真を撮ろうじゃないか。熱血~」
ということで助監督Tくんに撮影をしてもらったのだった。(大事な撮影前なので、映画人はどんな時もマスクなのである)
3年ぶりの記念撮影で、決め!!! 
※村井良大からのお知らせ、彼の舞台は年明けの1月くらいからになりますよ。ファンの皆さん、お楽しみに。

滞福日記「父ちゃんの日本滞在中に、シェフをしてほしい、という依頼が舞い込む」



いよいよ明日から村井良大のシーンがスタートし、この3日間で、映画は完成となるのであーる。よっしゃ。
そして、父ちゃんは、宿に戻り、寝る準備をしながら、「どんな料理を作ろうかな」と考えてしまったのであーる。おっと、映画Pに叱られるので、内緒ですですですです。
苦しかった長年の映画撮影のゴールが見えてきたところでの料理会だなんて、おいおい、素晴らしいご褒美じゃないか。
このタイミングで父ちゃんにシェフを依頼するだなんて、タイミングのいい、にくい料理団体である。
映画撮影が終わり、最後の編集作業が終わると、父ちゃんは少し、自由になる。
ここからは仕上げ部隊が作業をするので、その作業の合間に、父ちゃんはこっそりとシェフをやる、という寸法だった。
デザートは新作の「ほうじ茶のブランマンジェ」に決定でいいだろう。
20人というお客さんを相手にするには、アシスタントが二人もいれば十分だろう。
料理仲間に連絡をし、人員を確保した。ふふふ、手早い。
映画からの料理会、素晴らしい人生の流れではないか。
ともかく、興奮し過ぎないうちに今日は休むことにしよう。
まずは、映画を終わらせることが先決である。
さ、皆さん、ご一緒に。
「合言葉は熱血!」

滞福日記「父ちゃんの日本滞在中に、シェフをしてほしい、という依頼が舞い込む」



つづく。

ということで、今日も読んでくださり、ありがとうございます。
映画の最終コーナーを曲がろうか、というところで不意に舞い込んだこの料理会ばなし。いやあ、盛り上がらないわけがないですね。ちょっと元気が出てきました。本当に、料理が趣味でよかったでございます。小躍りいたします。ワクワクのない人生はいけません・・・。えいえいおー。

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