JINSEI STORIES
退屈日記「息子から相談があるという連絡、身構える父ちゃん。にゃ、何だ!?」 Posted on 2022/10/17 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、昨夜、SMSに息子から「ちょっと話したいことがある。電話してもいい?」とメッセージが入っていた。
肋間神経痛を治したいので昨夜は早めに寝た。朝までメッセージに気が付かなかったのであーる。
朝、三四郎を散歩に連れて行った時に、
「ごめん。寝てた。今からならいつでも電話出れるよ」
とメッセージを送ったら、かかってきた。
「あ、パパ」
「うん。どうした?」
「今日、ちょっとそっちに行ってもいい?」
「え? あ、うん。いるけど。電話じゃダメなの?」
「会ってちゃんと話したいんだ」
げげげ、なんだろう? こういうの嫌だぁ、気になるのである。
早く要点だけ言えよ、とせっかちな父ちゃんは思うのだけど、そういう雰囲気ではない。なんとなく、抱えているものがあるような、陰鬱な青春期特有の暗さが・・・。
「ま、いいけど・・・。じゃあ、ランチでもするか?」
「うん」
「学校は何時に終わるの?」
「10時半に終わる。そしたら、そっちに行くね」
げげげ、なんじゃあ、このめっちゃ気になる青年の相談事・・・
ということで、三四郎にご飯を与えた後、ぼくは考え込んでしまった。
いつもはSMSなどで要求とかお願いがあれば、即座に、言ってくる。
電話もつながったのに、会って話す、というのは、いったい何事か・・・。
ぼくはコーヒーを淹れてから、ソファに座り、窓の外の薄暗いパリを眺めながら、考え込んでしまった。
もしかして、しまちゃんと結婚したい、とか・・・
げげげ、そんなー、まだ18歳なのに? うっそ~。
それはあり得ないだろう。だって、親友じゃないか。恋人ではないと宣言していたじゃないか? あれは嘘なのか!!!!
いや、あいつはだいたいころころと意見がかわる。
あり得ることである。パパが反対をして、思い余って2人で入水自殺なんてされたら、パパはいったいどうやって老後を生きていけばええんじゃあ、とコーヒーを片手に泣きそうになった。ううう・・・。
「待て。早合点するな」
曇り空のパリに向かって、呟いた、父ちゃんであった。
「そんなわけはないか」
と鼻で笑って余裕をぶっこいた父ちゃんだったが、今度はもっとすごいことを思い付き、ぐぐっと、暗雲が再び立ち込めた。
「ま、まさか」
まさか、しまちゃんが妊娠した、とか、
げげげげげげげげげげげげげのきたろう~、父ちゃんはソファからずり落ちてしまった。
そうか、それなら、電話では言えないな。
ありえる、と思ったら、父ちゃん、どー―――ん、と暗くなった。
でも、出来たなら、父ちゃんが育てるぞ、と思ってしまうところが、父ちゃんなのであーる。えへへ。
ベビー用品のネットを検索している気の早い父ちゃん。懐かしいなぁ、十斗もこんなの頭にかぶっていた時、あったっけ・・・ほのぼの・・・ちゃう!!!
ふと、足元で、三四郎がぼくを見上げている。
『わんわんわん、パパしゃん、そんなわけないでしょ?』
あはは、三四郎、お前が一番冷静だね・・・。そんなわけないか。
父ちゃん、再び、コーヒーに口を付けたのであった。
と、とにかく、あいつが来るのを待つしかない。そうだ、待とう・・・。ああ、3時間後だ、長すぎる、死んでしまう・・・。
色即是空
つづく。
今日も読んでくださって、ありがとうございまする。
いやぁ、なんだろうなぁ、なんか、重大な相談であることには間違いなさそうだし、親としてはいろいろと考えをめぐらしてしまいますね~。大学を辞めたいとか、言い出すのかなぁ、とそんなわけはないか、さて、今日はいろいろと頑張らないとならない父ちゃんになりそうです。気管支炎あけの肋間神経痛おやじ。