JINSEI STORIES
滞仏日記「父ちゃんがいくところ常に犬の影、まとわりつくストーカー三四郎」 Posted on 2022/10/12 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、朝、起きると、三四郎を散歩に連れ出し、ピッピとポッポ(おしっことうんち)をさせる。
だいたい、朝の9時くらいである。
アパルトマンに戻り、ぼくはコーヒーを淹れて飲むのだけど、その間、ずっとぼくの足元でうろうろしている。
ぼくがどこかに行こうとしても、くっついてくる。
今日は、特に事務関係の仕事はない日なので、(基本は会議とかがある時だけ、スタッフさんがやって来る)、長谷っちもお休みだ。
ぼくは、オフィス区のボレー(雨戸)をあけ、光を室内に呼び込んだ。三四郎はずっと足元にいる。うろちょろするので、時々、踏んずけそうになる。
「さんちゃん、邪魔なんだけど」
三四郎はお構いなしである。すたすた、あとをついてくる。まとわりつく~。
前のアパルトマンは玄関=三四郎の部屋で他の部屋への出入りは禁止だったが、室内でピッピもポッポもしなくなったし、エリックがちょっと多めに来て、掃除をしてくれることになったので、とりあえず、移動できる空間が広くなった。
ぼくがオフィスを移動すると、三四郎もついてくる。ぼくがキッチンに行くと三四郎もついてくる。ぼくが食事をする時も、振り返るとそこに三四郎がいる。
24時間、三四郎はぼくの横にいるのであーる。
これは凄いことじゃないか、ストーカー犬???
でも、ずっと一緒である。
正直、可愛い、と思ってなければ、こんなに一緒にいることは不可能だと思う。
昼、ぼくはソーセージを焼いた。
ジャガイモは小さめにカットしてポワレに。横のフライパンでソーセージとズッキーニを焼いた。
三四郎が足元でうろちょろするので、思うように動けない。そりゃあ、ソーセージの匂いがね~、わんちゃんにはたまりませんわな。あはは。
今日のランチは、モンベリア産の燻製ソーセージとジャガイモのポワレ、そしてビールはイタリアのモレッティ。実に美味しいのであーる。ふー。
しかし、三四郎が股の間から顔をだす。
「あのな。そこは危険地帯! 父ちゃんの股間!!!!」
「くうううん」
「ダメ。自分、さっき食べたっちゃろが?」
「くうーん」
「ダメ、そんな顔してもあげない」
ぼくは飛び乗ってこようとする三四郎を払い落しながら食べないとならない。あげたいけど、太ってきたので、いかんいかん・・・。
「くうううん」
ぼくをじっと見上げる三四郎に、しかし、降参。
しかたなく、ズッキーニを小さくカットして、あげてしまう。
三四郎が食べることを意識するようになり、塩胡椒は使用してない。ソーセージは犬の身体によくないので、ソーセージの香りがうつったズッキーニを!
納得のさんちゃんであった。あはは。
ぼくが昼寝をするときも、ベッドの下で、丸くなって寝ている三四郎。
ぼくがトイレに行く時も、トイレの入り口で待っている三四郎。
ぼくがお風呂に入る時も、風呂マットの上で丸くなって寝て待つ三四郎。
ぼくが歯を磨いている時も、ぼくの足元でぐるぐる回っている三四郎。
ぼくがコーヒーを飲んでいる時も、ぼくの膝とかに飛びついて、なんかちょうだい、とおねだりをする三四郎。
やれやれ、とか思いながら、ぼくは世話好きだから、嬉しかったりする。幸せ。
あはは。
※これは、美味かった!!!! 燻製ソーセージ。ドイツ人もびっくり。
※ 最近のお気に入り、パパロンチーノ!
お散歩は朝、昼、夕方、夜は必ず、それ以外にも様子をみて、さらに、何度か連れ出すことがあるので、ずっと一緒である。
買い物の時だけ、三四郎は一人でお留守番になる。ま、それでも、20分程度かな。
夕方、ぼくはしょうがないから、ソファでパソコンを打つ。
その横にぴったりと寄り添う三四郎。
「お前ね、ずっと、パパしゃんにまとわりつく気? 他にすることとかないの?一人の時間とか活用しない気?」
「くううん」
「猫しゃんとか、窓辺でぬくぬくできるんだよ。なんで君はパパしゃんにそんなにべったりなの?パパしゃん、また日本に行くんだけど、どうするの? そんな寂しがり屋で生きていけるの?」
すると、こんな顔をするのであーる。やれやれ。
今日は前回日本で手に入れた「オホーツク海の塩らーめーん」なるものをいよいよ食べる。
オホーツクの塩と海水100%で作っている日本では有名なインスタントラーメンらしい。400円もしたのだ。
ぼくは高校時代函館だったので、ラーメンといえば塩である。震える。
そこで、ホタテとイカを焼いて、ラーメンに載せる。どや、函館っぽくなる。
お好みでバターかな。ふふふ、と盛り上がっていると、足元で、三四郎が、パパしゃーん、と大騒ぎしだした!!!!
「これはダメだよ。君は食べられないよ。塩とか百年早いよ。ホタテは千年早いからね。あかんべーだ」
「くうううううん」
ううう、か、可愛いいから、ホタテの一部をしゃぶって、ちょっとあげちゃう、ほら、美味しいよ。甘やかしの父ちゃんなのであった。
えへへ。
※ ホタテ、イカ、バター、生唐がらし、ワイン、塩昆布、醤油少々、煮込むのだ。残った魚介は、白ご飯に、タレごとかけて、食べるのだ。うみゃー。
※ 店主のうんちく、素晴らしい。
つづく。
今日も読んでくださって、ありがとうございます。
三四郎はね、なんだろう、いると世話しないとならないから大変なんだけど、ぼくは昔から子供とか動物好きだから、お世話出来る相手がいてくれるのはほんとありがたいのです。何より、可愛い。腹が立つこともありますけど、お互い生き物だから、喧々(犬々)諤々しながら、笑、こうやって、ほのぼのと生きている次第です。ああ、毎日が楽しいね、さんちゃーん。