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パリの螺旋階段、はじまりとデザイン Posted on 2022/10/08 ルイヤール 聖子 ライター パリ
曲線美が魅力の螺旋階段は、フランスのいたるところで見られます。
首都パリにもたくさんあって、アパルトマンや美術館、何気なく入ったカフェにも、本当に素敵なデザインの螺旋階段が設置されています。
フランス語では螺旋階段のことをescalier en colimaçon(エスカリエ・アン・コリマソン)と言うのですが、これはノルマン語でカタツムリを意味するカリマコン(calimachon)が語源なのだそうです。
かなり古い歴史を持つ螺旋階段は、フランスでどのように始まって、どのように発展していったのでしょうか。
私がこれまでに出会った素晴らしい螺旋階段に触れながら、ご紹介していけたらと思います。
※パリ9区、ギュスターヴ・モロー美術館の螺旋階段
フランスで螺旋階段が本格化したのは、中世時代のことです。
当時、石造りの建物ではすきま風がたくさん吹き込むため、階段は居室の外に作られていました。
とはいっても一般の住宅に取り入れられることはなく、主に設置されたのは要塞化されたお城であったそうです。
理由の第一には省スペースで済む、というのがあって、美観を追求するというよりは機能的な役割を果たしていました。
踊り場を省くことで経済的・時間的な節約に繋がり、物流をスムーズにすることができます。
もう一つは防衛目的です。中世時代の螺旋階段は狭く、必ず時計回りで作られていました。
これは城攻めのときに、攻撃側(階段を登る側)が持つ右利きの武器が、螺旋階段の支柱にぶつかったりして稼働範囲を鈍らせる目的がありました。
つまり守備側(降りる側)の方が優位に剣を触れるため、螺旋階段は籠城戦に有利とされたのです。
※フランス・ロワール渓谷にあるシャンボール城の螺旋階段。当時に手すりはなく、軸となる柱で支えられていました
https://www.instagram.com/p/CgpZbx1tyT_/?igshid=MDJmNzVkMjY=
出典:シャンボール城公式インスタグラムより
それでは左利きの兵士を集めれば良いのでは?とも思いましたが、当時では左利きは不吉とされ、魔女狩りの対象にもなっていたそうです。
そのため左利きが兵士として採用されることはまずありませんでした。
中世末期に大砲が登場すると、螺旋階段は防衛目的ではなくなり、快適さと美観が優先されるようになりました。
伝統的な螺旋階段はそのままに、できるだけ荘厳な雰囲気になるように工夫され、宗教施設では木造のものも登場します。
その作品群からは当時の職人たちの卓越した技量がうかがえます。
特にクリエイティブなセンスが求められた建築家にとっては、螺旋階段のデザインは欠かせないテーマでもありました。
ですから踊り場や手すりが美しければ美しいほど、格調の高さを表しているとなります。
※プティ・パレ美術館の螺旋階段。手すりのデザインが優雅です
今では時計回り・反時計回りのどちらでも良くなりましたが、螺旋階段は部屋の中央にあることが多く、入って最初に目に入るものであるため、引き続き機能性と美しさの両方が求められています。
また素材も進化しており、現在ではスチールに木製のステップを組み合わせたり、ガラスを使ったりと、芸術・装飾的なオブジェとして配置されることもあるようです。
※パリのブティックにある螺旋階段
※凱旋門の中
パリでは凱旋門や教会など、ほとんどの古い建物に螺旋階段が設置されています。
個人の住宅で見かけることも多々あり、レトロな雰囲気をもたらしてくれる螺旋階段は今、パリで再流行の兆しを見せているとのことです。
そんな螺旋階段は伝統的でもモダンでもどちらも素敵で、首都圏の住宅事情にとてもよくマッチしていると思います。
こうした美しい螺旋階段に出会うことは、パリ滞在の楽しみの一つでもあります。
Posted by ルイヤール 聖子
ルイヤール 聖子
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猫と香りとアルザスの白ワインが好き。