JINSEI STORIES

滞仏日記「大衝撃、ジュリアから『三四郎が病気になった』と連絡あり!!!」 Posted on 2022/09/29 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ということで、人生というのは予定通りに行かないものである。
なんでぼくは毎日、こんなに大変な目にあわないとならないのか、マジ、本当にわからない。
昨夜は復調傾向にあり、咳の質が変化してきていた。薬が効いてきたのだ。治りかけているのが、わずかに実感できるようになった。
昨夜、3時間程度熟睡が出来た。その後は、うつらうつらしたけれど、いつもよりは元気になっていた。
そこで、一気に片付けをすることに。午前中は頑張って段ボールに次々詰めていった。
昼は栄養を付けないとならないので、行きつけのカフェに顔を出し、久しぶりに美味しいカフェ飯で腹を膨らませた父ちゃんなのだった。



しかし、午後、不意に大変が押し寄せてきた。大量の本を段ボール箱に詰め込んでいると、ジュリアから驚きのSMSが舞い込んだのであーる。、
「三四郎が病気になりました。昨日、今日と二回吐いて、下痢です。そして、時々、震えているの。出来れば、引き取りに来てもらい、お医者さんに連れて行ってあげてください。私は今、南仏なので、三四郎を病院に連れていくことが出来ません。ステファンは夜のシフトの仕事に入ってしまうので、この状態で預かり続けるのはよくない、という判断です。大丈夫ですか? 15時にうちまで来れますか? 一応、ムッシュの電話番号をステファンにも伝えてあります。ムッシュにも教えますので、家の前に着いたら、電話をしてください」
マジか!!! えらいことになった。
ぼくはとるものも取らず、車を走らせることになった。

滞仏日記「大衝撃、ジュリアから『三四郎が病気になった』と連絡あり!!!」

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ぼくの家からジュリアの家まで、すいていれば3,40分で着くのだけど、今日に限って、大渋滞であった。いったい、どうなっているのだ。
治りかけていたのに、不安から、再び、咳が・・・。泣きたい。三四郎のことが心配過ぎる・・・。ぼくの気管支炎がうつった? まさか!?
ジュリアの家に到着し、メッセージを送ると、ステファンが三四郎を抱えて出てきた。おおおお、どうなってるんだ。
ぐったりしている。
見たこともないほど憔悴しきっているのだ。
「何があったの?」
「ムッシュ、よくわからないんですけど、昨日、不意に吐いて、その後、下痢なんです。今日もまた吐いたので、ちょっと心配になって。それに、ほら、震えています」
ぼくの腕の中で、三四郎はうなだれ、しかも、時々、震えている・・・。
ぼくは、三四郎を後部座席に座らせ、再び、パリ中心部へと車を走らせるのだった。
帰りは高速を使ったので、30分ほどで獣医先生のクリニックに着いた。あらかじめ予約をしておいたから、ちょうど、到着の時間に診察してもらえることになった。

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診察室で待っている間も、三四郎は診察台の上でぐったりしていた。
時々、うつろな目でぼくを見る。
「サンシー、何があった? 」
「・・・」
「おいおい、冗談はよせよ。そんな元気のない姿、つら過ぎるよ」
そこに先生が登場。
「どうしたのかな? 私のかわいいベイビー」
と笑顔で言い、三四郎を抱きしめたのだった。
この三日間の出来事をステファンから聞いた通り、先生に伝えると、
「うーん。よくないわね。ちょっと診察してみますね、身体をおさえていおてください」
と言った。
先生は体温計をとりだし、まずは、三四郎の肛門に突き刺した。平熱ね・・・。
目の中を見た。うううん。聴診器で肺や心臓の音を聞いている。
看護師さんを呼んだ。受付をやっている看護師さんがやってきて、三四郎を動かないように羽交い絞めにすると、先生は注射器を取り出し、それを三四郎の臀部に突き刺したのである。ぎょえ、いきなりの注射だ。
し、しかも、三本も打った!
「先生、それはなんですか?」
先生の説明はあまりに難しく、ぼくには意味不明であった。
ただ、
「その人の家で、何かよからぬものを食べた可能性があります。その場合に効く三種類の注射を、打っておきました。たぶん、これでちょっとしたら元気になると思いますよ」
「ありがとうございます。重病とかではないんですね?」
「大丈夫ですけど、様子をみましょう。もし、明日も下痢をしたり吐くような感じが続くならば、もう一度、連れて来てください」

滞仏日記「大衝撃、ジュリアから『三四郎が病気になった』と連絡あり!!!」

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ということで、今、さんちゃんは、今、我が家のいつものベッドで寝ている。お気に入りの顔を食いちぎったウサギのぬいぐるみを横に置いて、静かにしている。
元気のない三四郎なのであーる。
父ちゃん、引っ越しどころではなくなってしまったが、さすがに、これ以上、延期することは出来ない。やれやれ。
人生というのは、次から次に、今日もまた、大変の連続なのであった。

つづく。

ということで、今日も読んでくださり、ありがとうございました。
今夜は、三四郎の様子をみながら、小説でも書くことにします。気管支炎になった父ちゃん。今度は三四郎が病気という、災難が続く辻家ですが、ぬあんと、引っ越しまで、あと、3日!
はい、そんな心配で眠れない、父ちゃんからのお知らせです。
10月31日にオンライン講演会「プロの編集者から学ぶ。物書きを目指す方々への最強アドバイス」を開催いたします。
今回は、辻仁成のエッセイ集「息子とぼくの3000日」や、小説「孤独にさようなら」を担当した現役担当編集者2名を招いて、編集者サイドから考える、作家のあり方、物書きになるための道、新しい書き手へ向けての編集者側からのアドバイスなどを、オンライン講演会形式でお送りいたします。父ちゃんが物書きへの道を語りつつ、その都度、お二人にご意見を聞いて、より、深い講座にさせてみせます。ごほごほ。本当に一つ上の書き手を目指される方々に必要な講座となるでしょう。
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