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パリ最新情報「パリ市から車が消えた日。年に一度の『車なしの日』が開催される」 Posted on 2022/09/20 Design Stories
パリ市の広さは、東京23区のおよそ6分の1程度しかない。
しかし人口密度で言えば東京の約1.2倍、ニューヨーク市の約2倍にあたるほか、観光客の出入りはこの夏だけでも約990万人を記録した。
このような一極集中型の大都市で懸念されるのは、やはり深刻な大気汚染だ。
パリ市長のアンヌ・イダルゴ氏はこうした汚染問題に以前から真剣に取り組んでいる。
特に大掛かりな政策としては年に一度の「Journée sans voiture(車なしの日)」というのがあって、今年は9月18日にパリ全域で開催された。
この日は11時から18時まで、電気自動車を含む車の走行がパリ市内で全面的に禁止となった。
走行が許可されたのはバス、タクシー、緊急車両、地域住人(要居住証明)のみで、違反すれば罰金135ユーロ(約18900円)が科せられる。
2015年からスタートした「車なしの日」は今年で7年目を数える。
一部の大通りでは歩行者天国となり、通行人のほかに自転車、ローラーブレード、スケートボードが颯爽と走る光景があちこちで見られた。
パリの自転車といえば、パリ市主導のレンタル自転車システム「Vélib(ヴェリブ)」が2007年から始まったが、これは着実に市民の移動手段の一つとして定着している。
18日当日にはこのVelibもイベントを牽引し、プロモーションコード「PARIS RESPIRE(呼吸するパリ)」を入力することで、45分間無料で利用できるサービスを提供した。
イダルゴ市長は「目的はパリからすべての車を取り除くことではなく、別の移動手段に切り替えることです」と述べている。
同市長は「Paris Respire(呼吸するパリ)」を就任以来のテーマとして掲げ、クリーンな空気を実現することを目標にしてきた。
そうした努力の甲斐あってか、パリでは現在車離れが進んでいる。
自動車の利用は1990年から45%も減少しており、代わりに自転車を利用する人の数は10倍にもなった。
さて車なしの日から一夜明けたパリでは、はっきりとした効果が報告されている。
パリ地域の大気観測機関Airparifによると、9月18日(日)における二酸化窒素の濃度は午前10時〜午後5時の間に通常より20%も低くなった。
ピークとなった午後1時〜2時の一時間では30%も減少し、何時も車の往来が激しいシャンゼリゼ通りやコンコルド付近などでは特に顕著だったという。
また騒音に関しても空気以上の改善が見られた。
パリの主要道路周辺に設置した測定局では、通常の日曜日の40%に相当する騒音軽減があったといい、この日のパリは文字通り「息をしている」という結果になった。
“将来的には車よりも自転車の方が多くなるだろう”と言われるパリだが、一方では新たな問題も浮上している。
それは、自転車による「逆渋滞現象」だ。
例えばパリ1区、セバストポール大通りでは9月15日の一日だけで約19,000台もの自転車走行が記録された。
これは市内でも史上最高の数だったといい、それに伴った混雑・自転車の追い越し等が今、パリの新たな問題となっている。
そのため首都圏では駐輪場の増設、自転車走行者のマナー問題にも焦点が当たっている。
イダルゴ市長率いるパリではこうした大胆な改革が進んでいるが、大胆過ぎるが故の苦悩も抱えている。
しかし市長は、車が減ることで人々にとっても有害な環境汚染がなくなる、と強調しており、車に支配されていたパリの主役を「人」へ戻そうと取り組む。
2022年、車なしの日では自転車に関するさまざまなイベントも実施されたため、今後は空気の改善だけでなくマナーの向上にも期待が寄せられる。(内)