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パリ最新情報「二国をつなぐ、思い出のピロシキ。パリに専門店がオープン!」 Posted on 2022/09/10 Design Stories
ロシアによるウクライナ侵攻開始から、およそ200日が経過した。
戦況を伝える報道は減っているが、現地では今も奪還に向けての激しい攻防戦が繰り広げられている。
パリでは開戦当初、ロシア料理店等にいわれのない誹謗中傷が発生していた。
休業に追いやられた店もあり、パリに暮らすロシア系の人々は大変な心の痛みを背負ったという。
しかしそんな中、果敢にも新店をオープンさせた一人の女性起業家が存在する。
エレナ・ビクティミロワさんは、ロシアのウクライナ侵攻開始からわずか3カ月後にピロシキ専門店である「Pirojki bar(ピロシキバー)」をパリ9区に出店した。
彼女はロシア国籍だが、父親がロシア人で母親がウクライナ人と両国にルーツを持っている。
料理人を目指し、パリの調理学校ル・コルドン・ブルーに入学するために7年前には渡仏を果たしていた。
※写真手前がエレナさん、奥の女性はウクライナ避難民だった
ロシア軍がウクライナ侵攻を開始したと知った時、エレナさんの悲しみは非常に深く、2週間ほどは満足に食事もできなかったという。
ウクライナ人の母はキエフ地方の小さな村出身で、元軍人だったロシア人の父と恋に落ち、ロシアの首都サンクトペテルブルクへと移り住んだ。
父と母の間には二国に対する大きな連帯感があって、エレナさんはそんな両親の愛情をたっぷりと受けて育った。
愛する家族がよく作ってくれたピロシキは、ロシアでもウクライナでもよく食べられており、両国をつなぐ思い出の味でもあった。
※PAIXはフランス語で平和を意味する
エレナさんはこれまで、パリでハンバーガーのテイクアウト専門店を営んでいた。
しかしウクライナ侵攻が始まってからはそれを閉め、ロシア・ウクライナの両国を「食を通して結びつけられないか」と考える。
9区にテナントを見つけると、どちらの国にも縁のあるピロシキ専門店を迷わずオープンさせた。
店頭にはジャガイモ、牛ひき肉などが入った風味豊かなピロシキのほか、ロシア風ラビオリ「ペルミニ」、チェリー入りの甘いラビオリ「ヴァレニキ」などが並ぶ。
提供する商品はすべてその場で作られていて、ウクライナ人とロシア人の2人の祖母のレシピに基づいているという。
「祖国ではおやつというより、週末に家族と集まる時にピロシキをよく食べていました」とエレナさんは語ってくれた。
ロシアでは本来オーブンで焼くスタイルが主流で、主食やおかずになりそうな具材ばかりではなく、ジャムやフルーツの煮込みが入ったものもあり、ピロシキ作りに特別なルールはないのだとか。
ピロシキが「家庭の味」と言われるのは、こうして材料を自由に組み合わせられることや、地方や家庭によって味が異なることに由来するそうだ。
※こちらのサラダはロシア・ウクライナでクリスマスメニューともなっている
ピロシキバーを通して、両民族に平和と団結のメッセージを送るエレナさん。
開店当初はやはりソーシャルメディア上で誹謗中傷があったというが、彼女がそれに屈することはなかった。
今ではウクライナから避難してきた従兄弟たちを引き受けるほか、避難民をピロシキバーで採用し、厨房で肩を並べて働いている。
※ロシア・ウクライナの国旗カラーが施されたシマウマのアート。ベルギーのアーティストから寄付され、二頭が一緒に水を飲んでいる様子が描かれた
彼女の将来の夢は、パリ15区できちんとしたテラス席付きのレストランをオープンすること。
そのレストランにはエピスリー(食材店)も併設し、ウクライナに残る親戚の農場で作られた野菜や保存食を販売していきたいとのことだ。
二つの店を切り盛りすることで、さらに平和のメッセージを送っていきたいとエレナさんは話してくれた。(る)