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退屈日記「さようなら、ニコラとマノン。またいつかね」 Posted on 2022/09/07 辻 仁成 作家 パリ

退屈日記「さようなら、ニコラとマノン。またいつかね」

某月某日、なんと、引っ越しがあったのは息子だけではなかった。
この夏の終わりに、ニコラとマノンも引っ越していたのだ。
9月の新学期にあわせて、いろいろ動きがあった。今朝、マノンから、パリからRERで1時間の隣の県に引っ越したんだよ、ムッシュ、お世話になりました、とメッセエージが届いたので、びっくり!!!!
お父さんはお仕事の都合で新しい家族と南の方に引っ越し、ニコラとマノンはお母さんの方に残ったのだけど、露とウクライナの戦争による世界的なインフレのせいで、物価の高いパリではやっていけない、という判断になったようだ。
詳しいことはあとで二人のお母さんに電話で聞いてみるとして、
「そうか、でも、いつでも遊びにおいでね」
とメールを送っておいた。
新学期にあわせて、学校を移動させたのであろう。
どういう町なのだろう。マノン、写真を送ってくれよ~。
ぼくは、とりあえず、三四郎を朝の散歩に連れ出した。

退屈日記「さようなら、ニコラとマノン。またいつかね」



退屈日記「さようなら、ニコラとマノン。またいつかね」

ここに越してきて4年が過ぎた。
そのうち、まる2年はロックダウンなどの制限のある生活を送った。そのことで街の人たちとは強い絆を持つことが出来た。
ぼくが引っ越すことはもう街中に広まっており、
「寂しいじゃないか」
と会う人会う人に言われる。←有難いことであーる。
やっぱり、コロナ禍を共に乗り越えてきた仲間だから、ね。ぼくも寂しいよ。
そしたら、あのピエールが、
「お別れ会をやろう」
と言い出した。
「ま、そんな大げさなことしないでも」
「いや、みんな集まるよ。ビュッフェ形式にして、楽しい夜にしよう」
ならば、うちでもいいんだけど、と思ったが、引っ越しの準備もあり、しかも、大勢だと、入りきれない。
マーシャル一家、アドリアンとカリンヌ、ロジェのご夫婦、リコの夫婦、ジャンフランソワ、モジャ男、カフェの人たち、管理人のブリュノ、ドラガー、大家のブノワ、本屋のクリスティーヌ、ワイン屋のエルベやニコ、スーパーのシダリアにロミ、ピエールに、シェフのメディにネジュラ、香港人のメイライ、シンコー、娘ノリリエンヌ、そして、和食屋のパトリックもいるし、彼らの家族、数え上げたら、最低でも、20人以上はいる・・・。
この通りのどこかのカフェかバーを借りてささやかな立食のお別れ会をやればいい。
パリで暮らしだして20年、はじめてのお別れ会になる。それだけ、ぼくはここの人たちと親しくなった、ということであろう。
そして、彼らはぼくの日記の主な登場人物たちであった。

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退屈日記「さようなら、ニコラとマノン。またいつかね」

素晴らしい出会いだった。
思い返すと、じわっと、涙がでる。昨日、バーの経営者リコと奥さんのエメちゃんに、引っ越すよ、と言ったら、天を仰いで悲しい顔をされてしまった。オラジオのお母さんのアレクシーにも、はー、マジですか、とため息をつかれた。
日本に帰るたびに、お土産を届けていたし、それももうなくなるなァ、と思った。
そこにニコラからSMSが入った。
「新しい学校は楽しいよ。ムッシュに会えないのは残念だけど、でも、行こうと思えば、そんなに遠くないからまた遊びに行けるから悲しまないでね」
そうだ、ぼくも引っ越すけど、また、ここに、遊びにくればいいのである。
息子も、電車で40分の場所にいる。昨日も会いに来たじゃないか。
一生の別れではない、また、会えばいいのであーる。
一期一会か、それにしても、素晴らしい出会いであった。

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つづく。

今日も読んでくれてありがとう。それにしても、こんなに友だちだらけになったのは、やはりコロナによるロックダウンのせいだったと思う。地区の人たちが力を合わせて、励ましあい、乗り切ったからこその友情なのかもね。いい思い出しかない・・・。
さて、そんな寂しん坊、父ちゃんの小説教室、第二弾を、9月24日(土)に開催いたします。今回の課題のテーマは「食」「食べるもの」「食について」の小説です。「一杯の掛け蕎麦」のような食べることをモチーフにした掌編小説、もしくは長編の冒頭を、原稿用紙10枚以内で。締め切りは9月20日。書き始めてくださいませ。詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

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