JINSEI STORIES

滞日日記「なんてことをしてくれたんだ、三四郎!でも、それはぼくの責任だ」 Posted on 2022/08/21 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、三四郎を預けている(椅子や古い家具の)修復家、マント・フミ子さんから、驚くべきメッセージが届いた。
な、なんと、三四郎が修復中のアンティーク椅子の足を噛んで、一部を壊してしまったのであーる。唖然となった。
写真を見せてください、とお願いしたが、いいえ、たいしたことはなく、余計な心配をかけてしまい、申し訳ございません、と言うばかり・・・。
真面目な方なので、たいしたことあるのじゃないか、と逆に勘繰る、父ちゃん。
余計な修復を増やしてしまった、いや、そもそも修復できるのだろうか、っていうか、何世紀の椅子だろう・・・父ちゃん、強張る・・・ううう。
マントさん、きっと、動揺して、メッセージを送ったものの、ぼくが責任を感じると思って慌てて、送信取消にしたが、それはぼくが読んだ後のことであった。そうですか???
ますます、三四郎がやらかしたことの内容が気になって、仕方がない・・・。
あの子の噛み癖は半端ない。
アンティークの椅子だから、弁償出来るようなものでもないだろうし、ひたすら、申し訳ないと思っていると、マントさんから、
「ジャムを作っていたので、ちょっと目を離して、サンシを仕事場に一人にさせてしまったのがいけなかったのです。気にしないでください。なんとかなります」
と続報が来た。
在仏歴30年超の大先輩マダムに、大変な被害を与えたのは、他でもない、このぼくである。えらいことになった。三四郎の噛み癖、なんとかしなければ・・・。

滞日日記「なんてことをしてくれたんだ、三四郎!でも、それはぼくの責任だ」

※ 撮影のあとは、自分を取り戻すために、行きつけのバーで、ちょっと贅沢な時間・・・。パリを懐かしみながら、泡で、・・・



そういえば、ジュリアも言ってたっけ。
三四郎にかかるとあらゆるものが破壊されてしまうのよ、と・・・。
他の犬たちと比べても、その威力、回数も、執念も、行動力も、犬一倍凄いのだとか・・・。噛んだら離さない、そうだ、ぼくはよく知っている、あいつの噛む執念。
きっと三四郎にとって、そのアンティークの椅子は噛み心地のいい古さだったのであろう。
あの子は、そもそも、落ちてる木の枝が大好きで、しかも、だいたい、食べてしまうのであーる。(ドッグフードよりも、太い枝が好き。ドッグフードは残すが、木枝は完食)
アンティークの椅子なんか、日本人にとってのスルメイカみたいなものだった?
ひゃあ、それにしても、何世紀の椅子だろう・・・。
椅子の足を美味そうに齧る三四郎の横顔が脳裏を過って離れない・・・。
・・・目の前が暗くなる。
そういえば、「パリごはん」NHKのプロデューサーSさんから、前回のライブの前に「噛み癖を治す犬のおもちゃ」なるものを頂いた。
噛むとしゃきしゃきと音の出る太陽のカタチをしたぬいぐるみで、それをもって帰るので、試してみたいが、なんとなく、三四郎には効かないような気がしてならない。
でも、プロデューサーさん、太鼓判を押されていたので、・・・ま、かけてみるか・・・。

滞日日記「なんてことをしてくれたんだ、三四郎!でも、それはぼくの責任だ」

※ 疲れた顔をしていたら、和食のシェフが、こんなのを作ってくれて、元気になった!!! オードブル・中洲!



昨日、貴族の館の管理人、ブリュノさんから、運送屋を紹介してもらった。
その地域ではかなり信頼できる人物のようで、戻り次第、一度見積もりを取りに来てもらうことになった。(息子の部屋の引っ越し、ぼくの新居への引っ越し、古い家具の処理、などを一気にお願いすることになる)
映画撮影がひと段落したら、休む間もなく、引っ越しが待っているというぼくの人生・・・。いやはや、待ったなしであーる。
今回の引っ越し、この20年間、使い続けてきた古いソファなどを捨てて、新しいものに買い替えるつもりでいる。
息子が大学生になることを記念して、想い出と、おさらばじゃ。
三四郎が破壊しにくい家具を揃えないとならない。(そんなもの、ある?)
夏休みで停滞していた銀行保証を大至急終わらせ、不動産屋で鍵を貰い、今のアパルトマンの大家さんに引っ越すことを書き留めで伝え、新しい家具を探し、ガスとか電気とか、あれやこれや、様々な手続きが待っている。
三四郎と始まる二人暮らし、はたして、どうなることであろう。

滞日日記「なんてことをしてくれたんだ、三四郎!でも、それはぼくの責任だ」



つづく。

今日も読んでくださり、ありがとう。
そろそろ、疲れがたまっております。普通の人はバカンスといって、夏のあいだは休むんですけど、父ちゃんは、ずっと日本でお仕事、頑張っています。で、BSのドキュメンタリーも自撮りで毎シーズン撮影しているし、エッセイとか小説連載とか、ライブとか、映画とか、いったい、いつ休むんだ、と皆さん、心配になりますよね? 今も胸の中心に汗疹が・・・。これで健康診断で赤信号だったら、思い切って二年くらい休もうと思っていたら、全く問題ないって・・・、緑、進めってことはもっと働けということでしょうか? 人間のあさましさを痛感する毎日でございます。パリに戻ったら、三四郎と海に行くのが今のぼくの夢。ああ、休みたい・・・。

地球カレッジ

滞日日記「なんてことをしてくれたんだ、三四郎!でも、それはぼくの責任だ」

※ 中洲ののらはでかい!!!! 懐く・・・・。



自分流×帝京大学
第6回 新世代賞作品募集