JINSEI STORIES
滞日日記「息子と一緒にコンビニに行き、大仕事の前に、生活必需品を爆買いした」 Posted on 2022/08/16 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、お盆なので、母さんと弟と息子とぼくと四人で、美味しいものを食べた。
息子は、ぼくの母さんが「ちょっとボケているのじゃないか」と心配している。
たしかに、87歳なので、衰えはあるが、でも、元気だ。ぼくと息子に挟まれて、嬉しそうにしている。終始、にこにこ、そわそわ、嬉しいに決まっている。
「母さんはボケてないぞ」
「だって、パパみたいに、同じことを何回も言うじゃない」
ちょっと、ちょっと、それって、パパもボケてると言いたいのか? 笑。
「同じことを何度も質問するのは辻家の伝統なんだよ」とぼく。
「でんとうなの? じゃあ、ぼくもいずれパパやババみたいになるの?」
あはは。
「だからね、わたしは巨人のファンなのよ。何度も言わせないで」
「知っているよ」と息子。
「え? なんで、知っとると?」と母さん。
「西鉄が巨人に逆転優勝した時に、巨人がかわいそうで、ファンになったんでしょ?」とぼくが言うと、
「いや、結局は、長嶋茂雄が好きなんだよ」と弟。
「いいや、今は大谷選手が好きなのよ」
と話がまとまらない。大谷選手、・・・。
野球が盛んじゃないフランスからやってきた息子には、巨人軍のことも西鉄ライオンズのことも、大谷選手のことも、さっぱり、わからない、あはは。
「あのね、ひとなり、あんた、一度、野球の楽しさを知った方がよかばい!」
でも、このお盆の時期に、家族で食事が出来たのは幸せなことであった。
母さんと弟と別れた後、ぼくは息子と二人で、コンビニに向かった。
実は、同じホテルに泊まっている。
ぼくが福岡で新作映画の撮影をしている間、息子はぼくの母さんたちと雲仙に行ったり、福岡の友だちと遊んだり、あるいは、時々、撮影現場に応援(撮影部の助手)で顔を出したりする、予定・・・。
息子にとって、福岡は第二の故郷のような場所なのであった。(映像に関心があるので、撮影を覗きたい、とも言っている)
ぼくらはたくさん、語り合った。
珍しく、息子は饒舌だった。
「パパ、凄かったよ」
「へ、なにが?」
「ビルボードのライブ」
今頃かよ・・・。笑った。この子は普段は無口だけど、喋りだすととまらなくなる。
「ECHOESをたくさん、歌ってくれて嬉しかった。今の世界に合ってると思う」
「へー、そう思うのか?」
「うん、なんか、他はと違う。歌詞も独特だし、歌い方も、好きだな。実は最近ずっと聞いていたんだ。だから、ビルボードでやってくれた時、まるで自分たちのジェネレーションの歌に聞こえた。ジェントルランドとか」
ほえー、こんなこと、言う子じゃなかったので、ちょっと、驚いた。
コンビニでいろいろと物色している最中もライブの話が続いた。
「もっとやればいいのに」
「やるよ。パリに戻ったら、レコーディングもやるんだ」
「そうなんだ」
「ECHOESのセルフカヴァーを、マリオやジョルジュたちと作ろうと思ってる」
「それは聞きたい」
「うん、10曲選ばないとならない。そうだ、お前が選曲してくれてもいい」
「じゃあ、ストレンジ・ピープル」
あはは・・・。
「うずらの卵が買いたい」
不意に、息子がそんなことを言い出した。
なので、一緒にうずらの卵を探し出した。
日本の味付けうずらの卵が大好物なのである。ツー過ぎる。
他にもいろいろと買った。
ぼくらは、抱えきれないほどのコンビニ商品を抱えて、宿路についたのであーる。
「ところで、撮影、手伝えるの?」
と、その帰り道・・・。
「うん」
「映画は、めっちゃ厳しい世界だぞ」
「うん。たのしみ」
最近、息子は仲間たちと映像制作をやっている。
プロモーションビデオの撮影がメインだけれど、いずれ、映画を撮りたい、と言い出している。
「大ちゃんは、凄いカメラマンなんだ。彼のチームも、みんな最高、いい連中だ」
「じゃあ、そこに参加させてもらおうかな」
「大ちゃんの撮影技術を学んだらいいよ。いろいろと教えてくれると思うよ」
「うん!」
目が輝いた息子君なのであった。父親の仕事の現場に、息子がいる、というのも変な話だけれど、・・・蛙の子は蛙、ということなのかもしれない。
秋から大学生になる息子くん、束の間のバカンスを利用して、父親の撮影現場で、学ぶことになりそうだ。父から子へ、これはいい勉強の機会であろう。
まったく、新しいスタッフで、新しい映画を撮り始めた父ちゃん。
ちょっと、今日は、精一杯だったので、詳しくは明日以降の日記に譲ることにします~。
えへへ。
つづく。
今日も読んでくれて、ありがとう。
ということで、新作映画の撮影が福岡でスタートしたのだけど、なんか、「ナタリー」などにすでに記事が出ていましたね。今、気が付きました。(マジか)隠していたわけではないのだけど、ライブもあったし、コロナ禍だからね、慎重に駒を進めておりました。今、バタバタしているので、詳しくはまた次の日記で・・・。
ただ、100%、全く、新しい映画になります。