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滞日日記「超緊張した、息子が父ちゃんのライブを見に来たので、ど、ど、どうしたらいよかと」  Posted on 2022/08/13 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ついに、ついに、横浜ビルボードのライブの日となった。
実は、この会場の端っこに十斗がいた。いとこのミナが連れてきたのである。
ところで、十斗のやつは、なんといっても、ぼくのライブには来たがらない。
パリのライブに至っては、この十年、ほぼ全滅、・・・。
そういえば、彼が小学生だった頃に一度、渋谷のライブハウスに無理やり連れて行ったことがあった。
離婚直後のことで、なんだか知らないけれど、当時のレコード会社が、メディアの批判を真に受け、ぼくのツアーから手を引くと言い出し、一人で回らないとならなくなった。
世にいう「自腹ツアー」である。(勝手に、そう、決めてる、えへへ)
その時、渋谷のライブハウスになぜか息子がやって来たのだった。
引率したのは菅間さんだった、と記憶している。
けれども、その時も、息子は本番のあいだ、会場にやってこず、楽屋で、ぼくのライブが終わるのを待っていたのであーる。あはは。
音楽は嫌いなのかな、と思っていたが、その直後、彼はビートボックス(ヒューマン・ビート・ボックス)を始める。
それからヒップホップへと移って行った。ぼくの影響が多少はあるのだろうか。
とにかく、よくわからない、「息子心と秋の空」なのだった。
で、今回は、ミナちゃんが来るというので、仕方なく、くっついて来、ぼくが用意した端っこの関係者席からの観劇となった。
さて、あいつはどういう気持ちで父ちゃんのライブを見ていたというのであろう。
最近、彼は「ECHOESが大好き」と公言しているので、ちょっとずつ、ぼくへの反発も薄らいでいるのかもしれない。・・・あはは。

滞日日記「超緊張した、息子が父ちゃんのライブを見に来たので、ど、ど、どうしたらいよかと」 

※ 歌う父ちゃんをじっと見ている息子くん。撮影、ミナ。



ま、とまれ、本当に楽しいライブだった。パーカッションのノブさん、ベースのトキエさん、ピアノのキョンさんとの息もばっちり合って、いやぁ、音楽って最高~。
おっと、ゲストのトランペット奏者、TOKUちゃんも実にいい味だしていた。
そのプロの演奏をあいつはどういう気持ちで受け止めていたのだろう。
多分、大きくなってからはじめて観る父のステージなのだと思う。
終演後、バンドマンたちは楽屋で軽く乾杯をした。
な、なんと、セカンドステージの後、ノブさんの奥様の、夏木マリさんがいらっしゃったのであーる。おおお、マリさんじゃないか、と思ったのは、父ちゃんは夏木マリさんの「印象派」というダンス舞台のファンだったから・・・。
楽屋でメンバーと歓談していると、なんと、そこに息子がやってきたのだった。まるで、トイレはどこですか、と言いに来た人のような、たんたんとした感じで・・・。
「あ、うちの、息子です」
いつも、日記やツイッターで書いているからか、メンバー全員、息子の存在を知っていて、なぜか、そこで、盛り上がってしまった・・・。えへへ。
さて、父ちゃんの関心ごとは、息子が父ちゃんのライブをどう思ったのか、ということであった。

滞日日記「超緊張した、息子が父ちゃんのライブを見に来たので、ど、ど、どうしたらいよかと」 

※ 黄色い人が、夏木マリさん!!!

滞日日記「超緊張した、息子が父ちゃんのライブを見に来たので、ど、ど、どうしたらいよかと」 

※ 楽屋は和気あいあい!!!



宿に戻る道すがら、車の中で、なんとなく、聞いてみた。
「どうだった? 今日のライブ」
「凄くよかった」
へー、褒めるなんて、珍しい。
「何が?」
「ベース、すごい。パーカッションも、素晴らしい。ピアノからは目が離せなかった」
あはは、父ちゃんが入ってない・・・。
「全員の映像を撮ったよ。みんなすごく個性的なんだもの」
「へー。プロはやっぱすごいだろ?」
「うん、よかった。やっぱりライブはいいなぁ、と思った」
「お前も、パリでやらないと・・・。どんどん、外で演奏していかないと」
「うん」
ともかく、毎度のことだけど、口数の少ない辻父子であった。
でも、数年後、このライブは息子の人生になにがしかの影響を与えていることは間違いないのであーる。いつか、息子のライブを、ぼくは客席から見ることが出来るのだろうか。きっと、そう、遠くない日に、それが現実するような気がする。

つづく。

今日も読んでくれて、ありがとうございます。
なぜか、息子はみんなに最初から好かれ、みんなとラインの交換なんかをしていました。とくに、あの、夏木マリさんが息子の音楽を気に入ってくださったみたいで、もしかすると、夏木マリさんとのコラボが実現する日が来るのかもしれない、実現しないのかもしれない。。。。運命やいかに、でしょうか・・・。

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