JINSEI STORIES
滞日日記「キラキラした目の学生たちを、遠くから見守る羊飼いのような父ちゃん」 Posted on 2022/08/14 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ドアを開けると、若者たちがぼくを待ち受けていた。
「ああ!!! わあ、みんな元気かい? はじめまして」
学生さんたちがぼくを取り囲んだ。
ZOOMを通して、去年からずっと繋がっていた・・・、顔見知りだけど、実際に会ったのは今日が初めての若者たち。
彼らはぼくが設立した新世代賞の第5回目の運営を中心的にやったメンバーたちだ。
去年の中盤、フランスはまだコロナが酷く、対面で審査会や受賞式をやることが出来なかった。ところが、今年、第6回新世代賞も彼らが運営をやってくれることになったので、一度、顔合わせをやろうということになったのだ。
下北の駅前にある学生寮(下北カレッジ)の講堂くらいある広々としたラウンジのソファに腰を下ろし、中心メンバーたちと向かい合った。
緑に囲まれた学生寮、風が抜けるような爽やかな空間である。
ZOOMでしか知らなかった彼らの顔を実際に見ることが出来て、思わず、笑顔になった。とはいえ、みんなマスクをしているから、本当の顔はわからない。ただ、目がきれいだ。
ぼくは語った。
「君たちが思うようにやればいい。ぼくは少し後ろに下がって、野球部のコーチみたいになって、君たちが大活躍できるよう、端っこから応援をしているよ」
キラキラした目でぼくの話を聞く学生たち。(厳密にいうと、大学生が中心だけれど、若い社会人もいる)
この春にパリのカフェで待ち合わせた山岡君と椎名君もいた。
「あのあと、イギリスに行ったのはいいけど、陰性証明書が間に合わなくて、結局、飛行機に乗れなかったのです。倍くらいお金がかかってしまいました!」
「えええ、やっぱり。そんな気がしたんだよなー」
※その時の模様はこちらの日記で読んでみてください。この学生寮の二人がぼくに会いにパリまで来た珍道中が描かれています。
https://www.designstoriesinc.com/jinsei/daily-2917/
ぼくは6年前に「新世代賞」をスタートさせた。自分はソニーオーデションやすばる文学賞などの新人賞を通してこの世界に出ることが出来た。
恩返しではないけれど、若い芸術家や表現者たちがもっと自由に自分の才能を外に向けて発信できる場所を創りたかった。
なんとか、新世代賞は5年も続けることが出来た。
でも、ぼくのような年配の人間がいつまでも運営するのはよくない。
25歳以下の人たちのための新世代賞なのだから、若い人こそが運営をやるべきじゃないか、と思ったのだ。
第5回から彼らと一緒にやるようになった。
一緒にやってきた秘書の菅間りえこさんは、彼らのお母さんのような気持ちで、彼らにバトンを渡すために奔走をしていた。審査会の日に連絡がつかなくなり、彼女はそのまま、この世界から旅立ってしまった。
第1回の新世代賞からずっと彼女がこの賞を創造してくれたのである。
そのバトンを渡す途中だった。でも、菅間さんの思いは学生さんたちにちゃんと届けられていたのである。
彼らは第6回新世代賞も引き続き運営してくれることになった。去年よりも、メンバーが増えている。山岡君と椎名君も手伝ってくれるに違いない。
「あのね、ぼくはやっぱり、文化が大事だと思うんだ。でも、ぼくはもう大人になり過ぎたから、ぼくがいつまでもああだこうだ言ってちゃダメなんだ。この新世代賞は、荒野に蒔いた種みたいなもので、それを大樹に育てるのは若い君たちであってほしい。君たちが好きなように作ったらいいんだと思う。ぼくはそのお手伝いにまわるから、思う存分やってほしい。そこで終わるなら、そこまでなんだ。そして、この世界のどこかで創作を続けている表現者たちを発掘し、世に送り出したらいいんだ。そういう運動を経験すると、社会の中での自分の役割も見えてくるよ。みんなで目標をもって活動をするともっと目がきらきらしてくるよ。楽しいことをやりながら、大樹に育ててほしいんだよ」
こういうことを話したのだった。
彼らが一番驚いたのは、
「あ、ぼくね、来年、大学でゼミのクラスを受け持つことになるかも」
すると、学生たちが、
「わああ、行きたい」
と言ってくれたのだ。なんか、めっちゃ嬉しかったぁ。
彼らと去年から、オンラインで繋がってきたのだけど、その「わああ」にぼくこそ感動してしまったのであーる。
彼らと別れてタクシーを待っていると、一人の学生がやってきた。
「辻さんですよね」
「はい」
「ぼくは新世代賞にはかかわってないんですけど、辻さんが来た、と誰かに聞いたので、その、話したくて・・・・あの、ぼく、外国に出たいんです」
ミュージシャンっぽい子だった。この子も目がきらきらしていた。
「どこの学生?」
「上智です」
「へー、いいね。外国に出て自分を試すのはとっても素晴らしいことだよ。でも、気を付けて」
「はい」
こぶしを作って、握手のかわりに、ぶつけあって、お別れをしたのだけど、なんだか、嬉しかった。多分、うちの息子とかわらない世代の子たちなのだ。
若者の活躍の場をもっと創ることがこの日本を、この世界を正しく導く一つの方法だと思って疑わないのであーる。
彼らとの合言葉は「えいえいおー」であった。
なぜか、えいえいおーのおじさん、なのである。
ぼくがえいえいおーをやるとみんなが笑顔になるのが何よりうれしいのである。
ご覧頂きたい。
青年たちが作ったTikTokがある。インスタにアップしてもらった。えへへ、なかなかやるじゃないの~。
※ 小田急線のサイネージ広告に出ています・・・新世代賞、応援をください。
つづく。
今日も読んでくれてありがとう。
久しぶりの下北沢、帰りは少し歩いて、懐かしい風景を眺めながら、次の仕事場へと向かった父ちゃんなのでした。えへへ。
新世代賞の応募締め切りは残り10日ほどとなりました!