JINSEI STORIES
滞日日記「新展開、やっと息子の部屋が見つかり、本契約という段階になった」 Posted on 2022/07/27 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、フランスのママ友から「息子くん、アパルトマン決まったみたいねー」とワッツアップメッセージが届いた。
「え? 聞いてない」
「あら、そうなの」
慌てて、どうだったの? なんか決まったみたいだね、アパルトマン、よかったね、ととんまなメッセージを息子に送る父ちゃん。笑。
「うん」
と超短文息子メッセージ。以上。
いつものことなので、驚かないけれど、なんで、パパに直接言わないのか、それは永遠の謎。
ママ友たちの話を総合すると、大学までトラムで一駅の好立地、アルバイト先へもメトロで一本、しかも、部屋が広い。
ベッドがおける小さな寝室と勉強部屋が分かれている。広めのキッチンが付いている。なるほど・・・、悪くないし、ぜいたくなスタートじゃないか。
家賃はちょっと高めだけれど、彼は日本の大学初任給くらいのお給料をバイトで稼ぐようだから、パパは家賃と学費(とはいえ、フランスは無料)を、息子は自分の食費とお小遣いをバイト代でまかなう、ということになりそう・・・。
頭を過ったのは、詐欺にあいかけた前のアパルトマンの件、今回はちゃんと不動産屋を通している。どうやら中国系の不動産屋らしい。一階が、中国人経営の美容院とのこと・・・。
それとは別にもう一つのアパルトマンからもOKが届いたようだ。こちらは、大学まで歩いて15分くらい、陸の孤島で、周辺にはバスも電車も通ってない。
部屋は狭いけど、中二階の部屋がついていて、そこが気に入っているらしい。
ただ、親がサインをしないとならない、というので、難しそうだ。中国系不動産屋の物件は、電子サインで、契約が完了できる・・・。これらすべてママ友情報・・・、あへ。
しかし、選択の余地はなさそうであーる。
ママ友情報によると、ぼくのメアドと電話番号はすでに、不動産屋に渡っているということなので、メールで電子契約書が届き、その中の何かをクリックすると、ぼくの携帯に暗証番号が届き、その暗証番号を電子契約書に打ち込めば、ページが開かれ、サインが出来るという仕組み。台湾とか韓国の出版社とも最近はこの電子契約で仕事を成立させているので、だいたいの仕組みはわかってる。えへん。コロナのせいで、便利になった。笑。
しかし、息子は18歳にもなって、親に直接連絡をせず、周辺の大人たちから、こうらしいよ、と情報を集めないとならないのはちょっと理解に苦しむ?
そもそも、メッセージを毎日、たくさん、送っているのに、既読にならないのはなんでなんだろう? ちらっと見ているけど、既読にしない作戦のようであーる。
そのくせ、ぼくのいとことは長電話をして、パパが好きだ、などと戯言を言うとるらしい。一体、この青年心理をどういう風に受け止めたらいいというのであろうか、悩むぞよ。
ともかく、やっとアパルトマン探しも一段落した。明日(たぶん、日本時間の今日)、ぼくのもとに電子契約書が届き、サインをしたら、鍵がもらえるという手筈、のようだ。
ちなみに、ぼくの新居の方も先ほど、不動産屋から連絡があり、
「窓の工事の見積もりが大家によって受理されたので、工事に入ります。現在はトイレやお風呂の破損個所の修理もやっています。あと、廊下にあったクローゼットに新たな損傷が発見されましたが、大きなダメージはありません。あなたが引っ越しをする日までに、これらの問題が解決されていることをお約束します」
だいたい、こういう内容なのである。翻訳機にかけたような文体は、まさに、翻訳機による翻訳なので、ご勘弁頂きたいけど、超訳すると、入居までには全部直ってるから安心してね、ということのようであーる。えへへ。
そこで、引っ越しの手順ということになるのだけど、ぼくはママ友たちや、ブリュノやブノワなど近所の顔役たちに引っ越し屋を紹介してもらおう、と思っている。
運送屋さんを選ぶ、三つの条件は以下・・・。
1, 息子の荷物をまず、一度、先に運んでくれるところ。
2, 次にぼくの荷物を新しいアパルトマンへ運んでもらい、
3, さらに、地下室などにある古い家具を全部引き取ってくれるところ。
3が大事、断捨離引っ越しにしたいのである。
捨てられずに持ち続けてきたこの20年間の様々をここで一気に処分し、ぼくらは身軽になる、という寸法であーる。
ぼくの新居は寝室とサロンだけの狭い空間なので、そもそも、バカでかいソファとかは入らない。ゲスト用のベッドなども捨てる。
引っ越し業者さんがそれを横流ししてくれても、再利用してくれても自由。
ぼくは知らないうちに過去を清算する、という作戦であった。
なんだかんだいって、ついに、ぼくら辻家の新しい生活地が決定したので、パリに戻ったら、慌ただしくなるね。
ちなみに、ぼくの契約は8月4日頃に終了することがメールに明記されていた。鍵は、9月1日に貰える。めでたし。
今日も読んでくれてありがとう。
さて、父ちゃんからのお知らせです。
明日、28日、日本時間の夕方18時半から、オンライン・講演会を開催いたします。ぼくがどうやって小説と出会い、小説を書き始め、どうやって作家になり、どうやって作品を生み出しているのか、小説家のこれまでのすべてを語ります。生涯一作品は書いてみたいと思っている皆様、ぜひ、ご参加ください。
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