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パリ最新情報「『鉄の貴婦人』エッフェル塔、全面改修が必要だと非公開文書で明らかになる」 Posted on 2022/07/26 Design Stories
今年3月31日、エッフェル塔は133歳の誕生日を迎えた。
エッフェル塔は年間600万人もの観光客が訪れる場所で、凱旋門と並びパリのシンボルとなっている。
フランス革命から100年を記念し、パリ万国博覧会に向けて建てられた塔であったが、その建築期間は2年2ヶ月と、19世紀の技術では異例中の異例と言えるスピードであった。
またエッフェル塔は当初から「La Dame de fer(鉄の貴婦人)」という愛称でも親しまれている。
これは「塔」が女性名詞であるのはもちろん、塔を支える4つの支柱が「足」と呼ばれ、その周りにレースのような美しい装飾が施されていることからその名が付いたものだ。
そんな貴婦人のメンテナンス作業は定期的に行われており、およそ7年に一回、一度に約60トンものペンキを使って塗り直されている。
建設時から130年ほどの間にはすでに19回の塗り替えが行われ、現在はパリ五輪に向けて20回目の作業が進行中だ。
ところが2022年6月末、仏誌マリアンヌはこの塗り替え作業に関する非公開の文書を同紙で暴露してしまう。
エッフェル塔が実は「非常に悪い状態」にあり、「ひび割れとサビに蝕まれている」という内容が明らかになってしまったのである。
仏誌マリアンヌは、2014年から塗装会社がエッフェル塔の状態を調査したレポートを入手していたという。
報告書にはメンテナンスの不具合や被害の大きさが警告されており、現在進行中の塗装キャンペーンは「最も費用がかかるだけでなく、おそらくエッフェル塔の歴史の中で最も非効率的なものになるであろう」と報告されている。
さらに塗装会社によれば、これまでエッフェル塔に塗られた新しい塗料のうち、全体に付着しているのはわずか10%でしかなかったそうだ。
エッフェル塔の塗装に必要な総面積は、およそ25万㎡にもなる。
20回目の塗装作業では、最大3ミリの厚さがあるという過去のペンキを剥がす作業が2019年から始まっており、昨年の2月からようやく塗り直しがスタートしていた。
高所における塗装職人の数は約30人。
これは一人ひとりが昔ながらに手作業でペンキを塗り進めているという、危険を伴う作業でもあった。
今までは「エッフェル塔ブラウン」と呼ばれる茶色が使用されてきたものの、今回は設計者であるギュスターヴ・エッフェル氏が好んだ「黄褐色」が選ばれており、2024年のパリ五輪ではゴールドに輝くエッフェル塔がお披露目される予定になっている。
しかし、風雨と日光にさらされる塔の南側(シャン・ド・マルス公園方面)のサビは最も深刻であり、猛暑で作業は遅れ、現在では予定の5%しか進んでいないとのことだ。
現場責任者は仏紙マリアンヌに対し「崩れ落ちる心配はないが、ギュスターヴ・エッフェル氏がこの惨状を見たら気絶してしまうかもしれない」と語ったという。
ただエッフェル塔側も予算不足に苦しんでいる。
この莫大な塗装予算を捻出するのは、99%はパリ市であり、残りの1%はメトロポル・グラン・デュ・パリ(自治体間連合)である。
それでもコロナ禍における閉鎖は痛手だった。
現在は少しずつ人出が戻っているものの、2020年度には520万ユーロ(約7億円)の赤字が出るなど、エッフェル塔の収入源も激減してしまったのだ。
今回、仏紙マリアンヌが取材した塗装専門家によると、エッフェル塔は「単なる塗り直しではなく、完全に剥がして全面改修」が必要とのことだ。
しかしエッフェル塔側としては、これ以上閉鎖に追い込まれたくないという思いもあるのだろう。
エッフェル塔の運営会社は、仏紙マリアンヌと仏テレビ番組TF1の問い合わせに対して「当面の間、回答を見合わせたい」としたのみだった。
この度の暴露はフランス国内でも強い反響を呼び、パリのシンボル・エッフェル塔を心配する声が上がっているという。
次回の塗装は2030年まで予定されていないとのことだが、まずは安全第一で、少しずつ作業を進めてほしいと思う。(大)