JINSEI STORIES
滞福日記「頭にきたり寂しかったり、うちの子たちの成長にかっちーんとしょんぼり」 Posted on 2022/07/24 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日はドッグトレーナーのジュリアから凄い写真が送られてきたので、まずはそれをご覧頂きたい。
草原を他の犬たちと一緒に疾走する我が三四郎であーる。
「今日はね、散歩に高性能カメラを持っていったの」
と編集画面の写真付き、よく、意味が分からないけれど・・・。笑。
とにかく、ジュリアは高性能カメラを持っていき、撮影をしたら、こんな写真が出来た、と自慢したいのに違いなーい。でも、素敵である。
写真の中心に三四郎がいて、柴犬のユメとシーズーのグリが右にいて、一緒に走っている。
左奥の子は知らないけど、新入りかもしれない。笑。
既に三四郎の主役感半端ない。←親バカ?
で、最初は喜んで、へーと唸りながら眺めていた父ちゃん、しかし、次第に、笑顔が去って行った。
そこに映っている三四郎は我が家でごろごろしていた子犬の三四郎とはちょっと違っている。
毎日、森に仲間たちと出かけ、駆け回っている野生のサンシーである。
顔が凛々しく、精悍になっていて、同じ三四郎とは思えなくなって、父ちゃんの笑顔が氷りついてしまったのであーる。ぐすん。
「おおお、三四郎・・・」
でも、幸せそうだ。そのグループの中で、古株になりつつあり、ユメとグリはいつも一緒なので、良い仲間も出来て・・・。
そんなに幸せなことはないだろう。
大好きなジュリアがいて、ジュリアの家族や、校長先生のボーべさん、他の犬たちもいる。
果たして、夏の終わりにうちに戻って、今まで通りの生活がおくれるのだろうか?
そして、父ちゃんとまたあのゆるい日々、カフェに行ったり、浜辺を歩いたり、を一緒に生きてくれるのだろうか・・・。
そう思ったら、ちょっとしょんぼりしてしまった。
その後、息子からの連絡でまたまたしょんぼりとなった父ちゃんなのである。
いとこのミナから、息子の荒れた手の写真が送られてきた。
ひどい皸(あかぎれ)の写真だった。
「手が、痛い痛い」と言ってるよ、とミナのメッセージが添えられていた。
どうやら、バイト先で手が荒れたようなのだ。あまり、こういうことに親が介入するのはよくないけど、全部の指がカサカサになり、しかも部分的に切れており、絆創膏とか貼っているから、超、気になる。
しかし、給仕が皿洗いをするはずがないので、そこの店はそういうシステムなのか、とその点が心配になり、もしかして、給仕じゃなく皿洗いの仕事なのかもしれない、などと心配になり、確認するためにSMSを送った。
「今はキッチンの人がいないから、その期間だけ、手伝っている」
という返事だった。
「ゴム手袋としかないと。辻家では、昔からみんな皮膚が弱いんだよ。ぼくも小さな頃は湿疹が酷くて」
すると、
「辻家ではって、何じゃ? もともとアレルギー体質なら、早く教えてよ、だからこうなる」
と生意気な返事・・・。
「人によって違うから、君がアレルギーかそうじゃないか、ならないと分からないじゃん」
「わからないなら、一様、そうだからって最初に言えないの?」
かっちー-ん。何様。
「そんなの個体差があるし、そもそも、皿洗いまでやらされるとか聞いてないし。そもそも、勝手に契約したの自分じゃん」
「はいはい、わかりました」
「だいたい、そこ食洗器とかないの? 時代遅れでしょ」
「あるけど、木で出来たお皿とか食洗器入れられるの? 木の皿、食洗器いれたら、どうなる? そんなこともわからないの?」
かっちー―――ん。
誰に向かって、さっきから、言っとるんじゃ。心配してやってるのに・・・。
「いいよ、治ったら、次から気を付ければいいことじゃん。がみがみ言わないでよ」
かっちーんちーん。
何じゃ、こいつ、と思ったけど、ウイークリーマンションで一人怒ると心臓によくないので、ちぇ、と舌うちをして、もう返事を送らないことにした。
そしたら、誰だったか、忘れたけど、レストランの誰かから、
「君の子、お酒強いね。なんか、うちの若い子たちとカラオケで歌って、遅くまで、飲んでいたみたいだよ。コロナ、気を付けさせないとね」
という連絡が入った。は????
にゃんだってーーー。
酒???
酒が飲めるのか?
うちでは一滴も飲まないし、すすめても飲んだことがないのに、断れないのだろうか・・・。
電話をかけて、問い詰めてやろうと思ったが、呼び出し音が鳴る前に、やめた。
そもそも、レストランで働くということはこうなることが前提だし、そこはもう彼の社会だし、コロナとの共生がはじまるんだろうな、・・・ともかく、自分で決めないとならないし、いくら心配でも、そこは口出しをしちゃいけないところだ。
オーナーは友だちだけど、働いている息子の先輩たちのことはわからない。ここで、ごちゃごちゃ言うのは、いくらなんでも超過保護過ぎるだろう。
学業に影響が出るなら、やめさせるしかないけれど、彼には彼の人生があるので、ここから先は自分で決めていかないとならない問題なのであーる。
やれやれ。
どうしたものだろう。三四郎も息子も野生化が甚だしい。
父ちゃんだけが、ひとり、ぽつねんとしている、猛暑の福岡にて・・・。
つづく。
今日も読んでくれてありがとう。
久々の「かっちー-ん」が登場しましたが、息子が未成年の頃の「かっちー-ん」とは違って、何か、切ないかちんでしたね。三四郎といい、息子といい。遠くに離れていくのが寂しいですが、仕方がありません。父ちゃんも負けずに日本でやるべきことをやり終えないと・・・。
さて、お知らせです。
もうすぐですね!!!!
7月28日は父ちゃんのオンライン・講演会「一度は小説を書いてみたいあなたへ」と題しておおくりします。
一生に一度でいいから小説を書きたいけど、敷居が高くて、と半ば諦めかけている皆さん、そんなことはありません。ぼくがどうやって作家になったのか、どうやれば一冊書けるのか、など、講演会形式でお話をしたいと思います。
詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリックください。
そして、25歳以下の若い才能を開花させたい皆さん。今年も、やります。第六回新世代賞。
美大、アートスクールの先生方、ぜひ、生徒さんらに、ご推薦ください。
そして、読まれていてうれしいです。拙著「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」いい感じで、発売中だそうです。