JINSEI STORIES
滞福日記「はよー決めてくれとか思いながらイライラしている自分が嫌いだけど好き」 Posted on 2022/07/21 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、昨夜は、たまたま、来福されていた歌手の世良公則さんと再会を懐かしんでの夕食会となった。久々、寂しくない夜であった。世良さんからぼくが知らなかった様々な状況について教えて頂き、たいへん、勉強になったので、感謝。そして、実に人柄の素晴らしい、優しい先輩なのである。かまびすしい世の中だから、お互い、騙されないように、気を付けて生きていきましょうね、ということでお別れをした次第であった。あはは。
さて、世良さんと別れてから、ぼくはいつものように、コンビニに立ち寄ってから宿に戻ることになるのだけど、このように、日本に来てから、ほぼ毎日、近所のコンビニに顔を出すのが日課となっている。
特に買いたいものがあるわけでもないのだけど、宿に戻る前に足が向いてしまい、ちょっとしたもの、たとえばおにぎりとかポテサラとか時にはお弁当などを買って帰ろうと立ち寄るのだけど、ここで、毎回、困った問題が生じている。
なかなか買うものが決まらないのであーる。
お弁当コーナーが充実しているので、悩んでしまうのだ。
悩んでなかなか決まらず、一度取りかけて手を伸ばしたものの、お弁当を結局つかみきれず、手を引っ込めたり伸ばしたいの繰り返し、・・・落ち着かなくなる。
それは選択の自由があるからこその悩みなので、嬉しい悲鳴、という部類に入るから、ま、よしとして、もう一つ、めっちゃ父ちゃんを困らせることがある。
それはぼくの前に、ぼくと同じように悩んでいる人がいることが多く、場所取りというか、その人と並んでもいいのだけど、その図々しさがない父ちゃんは、その人の少し後ろに控えて、その人が弁当をとって、そこを立ち去ってくれるのを待つのだけど、これが、同じように悩みまくる人だと手に取った弁当を元に戻して再び悩み始めたりするし、コロナ禍だから、そうなると、最前列に置かれたお弁当はちょっと避けたいと思う神経質な父ちゃん、なのに、それが一つしかない、最後の一つみたいなこともよくある話で、そうなると、消毒効果のあるウエットティッシュで買う前に拭いたりないとならず、も~、やれやれ、ともかく、後ろにいるぼくは高速の料金所でとろい車の後ろについた悲劇みたいな状態になるのであーる。いらいら・・・。
それならまだしも、ぼくが律儀に後ろで待っているのに、図々しく横から割り込んできて、前から選んで悩んでいる人を無視して、なんなら場所を奪うような勢いで、手を伸ばし放題で、そうなると先に選んでいた人もがぜん闘争心を出して、お弁当の精査に命がけになるので、ますます、後方に立つぼくの出番は遠ざかり、いったいここでぼくは何をしているんだか状態になるのであった。
これは日本のコンビニが好きなぼくにとって、最も厄介な状況ということになる。
なので、ぼくはコンビニに入った時に、まず、お惣菜お弁当コーナーに人がいるかどうかを確かめて、がらがらなら、まずお弁当コーナーへと向かうことにしている。
しかし、これが、悩める人間のサガなのだろうが、レジに向かう途中に、人間だからこその「後悔」に付きまとわれて、レジの列に並んでいる時に「やっぱりあの迷ったお蕎麦の方も食べたいかな」とか頭を過ることが多く、気が付くと、お弁当コーナーに戻ったりするのだ。
やたら、迷う性格の自分に嫌気がさしながらも、気が変わるのは人間なんだからしょうがないでしょ、と心の中で呟き、横の方がめっちゃ迷っている「とろろ蕎麦」なんかを横からサッと奪って、やったりするのであーる。えへへ。
もちろん、ここで文句を言う人間はいないが、後味が悪いので、その時ばかりはさっさとレジに戻るのだけど、隣の芝生が青く見えるだけで、宿に戻ってテーブルの上にどんと置かれた「とろろ蕎麦」なんかを眺めて、「これじゃない、ぼくが食べたかったのはこれじゃなかった」と後悔をする父ちゃんなのであった。
つまり、ぼくは軽い人生の後悔をするために、コンビニに顔を出しているようなものかもしれないなぁ、と思ったりする日本滞在なのである。
それでも、フランスにはコンビニ文化がないので、ぼくの来日時の一番の楽しみはコンビニの徘徊であることは間違いない。
息子が一緒の時は彼と二人でけっこう梯子もする。
やはりコンビニによって、置かれているものは違う。シュークリームならあそこのコンビニのが好き、おにぎりならばあそこ、おでんはあそこ、みたいなものがあるじゃないですか~。
コンビニにはこの気安さがあるので、毎日、顔を出す父ちゃんだけど、三日に一度はスーパーに必ず行くようにしているのである。
弟に教えてもらったボンラパスとかスーパーサニーとかには、手作りのお惣菜コーナーがあって、あと、パン屋もついているし、ワインの充実感も半端ないので、より贅沢をしたい折には、ちょっと遠出をすることにしている。
フランスの友人たちへのお土産を買うのも便利だし、安い。
店によって方向性が違うのも嬉しい。コンビニはコンビニ色というのがあるので、どこに行ってもそのカラーはそれほど変わらないけど、スーパーは個性まるだしなのがうれしい。
より選択の自由度が広がるし、妙なこだわり感が、くすくすとぼくの微笑みを誘うので、楽しみは倍増する。
ようはスーパーは遊園地のような場所で、コンビニは児童公園みたいな憩いの場所なのである。落とすお金の量も滞在時間もスーパーとコンビニでは違っていて、スーパーは30分、コンビニは5分というところか。
ただ、ぼくの場合、スーパーに行くのは夕方の5時を過ぎてからと決めている。「5時からセール」を狙うのであーる。
別に新鮮なものを普通に買えばいいじゃないか、と必ずあとで後悔をするのだが・・・。というのは「20円引きシール」に騙されて、食品ロスはいかんとかへんな正義感に踊らされ、余計なものまで買いすぎて、結局その時に食べきれるわけもなく、ロスはお前じゃろ、と困ることがある。この性格、なんとかしないとならない。
というわけで悩みながらも、足が向き、かごをぶら下げ、るんるん、買い物をしている父ちゃんなのであった。
とにかく、日本のスーパーやコンビニというのはよく出来ているので、珍しい商品を見つけては、ほお、とか唸ったりしている。
先日、見つけたカップラーメンに入れる具のセットにはひっくり返った。
半熟煮卵とメンマとチャーシューが真空パックにされているのだ。
これらを全部揃えたいと思うと三種類も買わないとならないので、普通は揃えられないのだけれど、こういうセット商品だと、つい手が出てしまう。
そういえばカップ麺もだいたい網羅することが出来たが、日本のカップ麺は本当に世界一美味しい。
じつはそのせいで、まだ日本でラーメン屋さんに顔を出してない父ちゃんなのである。
福岡を去る前に本場のとんこつを味わって帰りたいところだけれど、他にも、かすうどん、とり皮焼き、など、博多には他では食べられない名物食文化が充実しているので、身体が一つでは足りない興奮を覚えているのも事実なのであーる。
ということで、今日もこれからコンビニに顔を出し、誰かの後ろで、はやく決めてよ、とぶつぶつ文句を言ってみたい。これがまた、楽しくって・・・。えへへ。
つづく。
今日も読んでくださり、ありがとうございます。
事務所の整理もだんだんついてきたし、親孝行もちょっとはできたので、楽しい福岡滞在でもありました。少しずつ、東京に向かう準備をしております~。
さて、父ちゃんからのお知らせです。
拙著「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」は4刷、10000部が決定したと知らせがありました。ほんとうにありがとうございます。全国の書店でお求めになれます!!!
そして、
7月28日は父ちゃんのオンライン・講演会「一度は小説を書いてみたいあなたへ」と題しておおくりします。
一生に一度でいいから小説を書きたいけど、敷居が高くて、と半ば諦めかけている皆さん、そんなことはありません。ぼくがどうやって作家になったのか、どうやれば一冊書けるのか、など、講演会形式でお話をしたいと思います。
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