JINSEI STORIES
滞福日記「心配性過ぎるパパのことが心配なぼく、え? ぼくってだあれ?」 Posted on 2022/07/18 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、昨日の日記で書いた通り、急に引っ越しが決まり、福岡で大事なボランティア活動中の父ちゃん、慌てふためいていたところに、息子から、
「大学入学のための手続きをやらないとならないんだ。政府に100ユーロを払って大学生になるための許可証を貰わないとならない」
などというSMSが飛び込んだ。
滅多に連絡がない息子からの緊急メッセージだったので、急いで、100ユーロを息子の口座に振り込んだのはいいのだけど、その直後に、
「あと、170ユーロを大学に振り込まないとならない」
と来たので、まとめて言えよ、と思ったけど、ともかく、あいつの性格は知っているから、即座に振り込んだ父ちゃん。←振り込め詐欺????
バタバタ、こうなることはわかっていたけれど、家の引っ越しだけじゃなく、息子の大学入学手続きと彼のアパルトマン探しが同時に押し寄せてきて、さらに、よくわからない状況になった福岡滞在中の父ちゃんなのであった。
「お金を振り込むのはいいけど、アパルトマン、見つけたのかよ」
と質問すると、888ユーロ(10万円くらい)の大学近くにある寮の広告を送り付けてきた。
大学の近くにある寮で、寮といっても食事はつかない、いわゆる学生寮なのである。15平米、家具付きで、短期滞在者用の学生寮・・・、たぶん、留学生対象なのであろう。家具付きだと、今持っている机とか椅子とかベッドを処分しないとならない。どうなのかな? それに、15平米で10万円って、パリだから仕方がないけど、高いなぁ・・・。
「もっと安いのがあるんじゃないの?」
「ネットでは見つけられない」
「大学の傍の不動産屋さんを歩いて探さないとダメだよ」
仕方ないので、こっちで探したところ、580ユーロで、20平米、家具無しのアパルトマンの情報が出てきた。
「ここでいいんじゃないの? 広いし、自分の家具も持っていけるじゃん」
「さっき、連絡したけど、今日は休みだから誰も出ない」
「じゃあ、月曜日に連絡しなさい」
というところで話は終わった。
部屋を探す気がないのかもしれない、と思っていたら、今日、親戚のミナちゃんからメッセージが届いた。
ぼくの妹のような存在で、十斗にとっては長年、精神的な母親役を担ってくれている。
「昨日、十斗と3時間電話で話をしたよ。ほぼ、毎日、3時間は話し込んでいる」
と、仕事をしているとメッセージが飛び込んできた。
ぼくの電話には出ないくせに・・・、と思った。
「パパに教わった、炊飯器を使った料理をしたよって自慢していた。魚と生姜と唐辛子とダシを使った料理だって、写真も送って来てたよ。大人になったねぇ」
ぼくには送ってこないのに、ミナには写真も送っているのだ。なんてやつだ。笑。
焼きもちを焼いているのではない。
息子にとっては母親のような存在なのだから、仕方がない。
男親には言えないこともある。
「十斗がね、自分が結婚するまではパパと一緒に暮らすつもりだったって、そんなこと、言ってたよ。心配性過ぎるパパのことが心配なぼくはもっと心配性なのかな、とも言ってた」
やれやれ・・・。
だから、そういうことを言っているようじゃ大人になれないから、独立をさせる必要があるのだ、と言いたかったけど、言っても理解してもらえないだろうから、言わなかった。
逆に、ぼくは乳離れが早かった。
高校の半ばくらいから、実家を出て、一人暮らしをしていた。
その頃から、ずっと、自立することしか考えていなかった。
家にい続けることは、(ある意味で)いいことだけど、家にい続けると社会性が身につかない。
突き放すことが子供にとって、大事なことも事実なのだ。
これは説明してわかって貰えることじゃないが、ぼくは自立しか考えたことがなかった。
フランスのような個人主義の国では、自立は早い方がいい。
そうやって、自我を形成していく必要がある。
いつまでも家にいて、親の庇護のもとにいると、自立できなくなってしまう。
寂しい時は、遊びに来ればいい。
でも、成人したら、社会の中で、厳しさを知ることが大事なのだ。
すくなくとも、フランスでは、みんなそうやって巣立っていく。ぼくがいつまでも世話をしていたら、・・・フランスでは生きてはいけない。ある意味・・・。
たぶん、読者の皆さんから、批判がいっぱい出るでしょうねぇ・・・。でも、フランスはそういう国なんです。説明が本当に難しいけれど、この国はお爺さん、お婆さんも一人で暮らす。超個人主義の国なのだから・・・。
彼はフランスで生まれ、フランスで生きることを選んだ。自立を覚えないとやっていけないのも事実なのである。←(個人の意見です、あくまで)
ともかく、辻家は新たな臨戦態勢に突入してしまったのである。
カップラーメンを食べていたら、今度は、息子のアルバイト先のレストランのオーナーから電話(ワッツアップの無料電話ね)がかかってきた。
フランスは朝のはずである。
「アロー? (もしもし)やあ、辻、元気かい? ちょっとジュートのことで心配しているだろうから、連絡してみた」
「お、ありがとう。あいつは大丈夫なのか?」
「もちろん、めっちゃ素直で、スタッフの評判もいいよ。何より、彼はエキサイトしているようだ。君は心配性だから、ちょっと電話しといたほうがいいかな、と思って、・・・いいかね、心配する必要はないからね」
「あいつに、接客とかできるのか、それは心配だよ」
「出来てるよ。そこは心配しないでいい。もし、ダメだったら、雇わないから。まったく気にする必要はない。実は三日間びっしりと研修をしたんだけど、ばっちりだった。客の受けもいいんだ。ナイスガイだからね。なので、9月から正式に雇って働いてもらう」
「ならば、有難いけど、ぼくのことは本当に気にしないで、厳しくしてくれ。ダメなら、即、クビでお願いします」
あはは、とオーナーは笑った。
※仕事終わりで、生ビール!!!
「いいか、こっちも商売だ。ボランティアのつもりはないから、逆に彼を紹介してもらって、うちは助かっている。それだけだ。じゃあ、また連絡する」
ということで、いろいろなことがトントン拍子で進んでいるのだけど、なぜか、ぼくは今、福岡市で、身動きが取れない状況なのである。
ここはちょっと頑張らないとならない・・・。
なのに、引っ越しと息子の大学生活が目前に迫っているのであーる。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
引っ越し屋さんを探したいのだけど、実は今、ぼくは大忙しで、何もできない状態なのです。いずれ、落ち着いたら、そのことはお話しますが、三四郎のことも、息子のことも、引っ越しのことも、何もかも、ぼくは毎日、必死にやっています。大好きなシャンパンもワインものまず、一生懸命頑張っている孤独な堕天使です、笑。この夏だけはなんとか乗り越えないとなりません。あとちょっと、ぼくは駆け抜けます。皆さんもコロナに気を付けて乗り切ってください。
さて、父ちゃんからのお知らせです。
昨日の新聞に拙著「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」の広告が出たようですね。編集者さんから送られてきました。うちの近所のツタヤさんには、置かれてませんでした。あはは。
7月28日は父ちゃんのオンライン・講演会「一度は小説を書いてみたいあなたへ」と題しておおくりします。
一生に一度でいいから小説を書きたいけど、敷居が高くて、と半ば諦めかけている皆さん、そんなことはありません。ぼくがどうやって作家になったのか、どうやれば一冊書けるのか、など、講演会形式でお話をしたいと思います。
詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリックください。
※ 25歳以下の才能を持て余している皆さん、ぜひ、チャレンジしてみてください!!! 可能性は無限です。