JINSEI STORIES
滞福日記「パリのアパルトマンの入居日が決まった。引っ越し業者を探せ!」 Posted on 2022/07/17 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、フランスの不動産屋から(新しい方の不動産屋)から、鍵は8月頭から渡します、という連絡が届いた。あっと驚くため五郎。
ということは家賃が8月から派生するということを意味しているのであーる。そんな・・・。
ぼくは仕事がずれ込む可能性があり、帰りの便の飛行機の予約すらちゃんと取れずにいるのに・・・。
「アーティストには貸せない」とか言っておきながら、貸すとなると、容赦なく引っ越し日が決まるフランス。
まず、悩ましいのが、今住んでいるところの解約をした場合、8月末までに出ていかないとならない・・・。もちろん、鍵はあるので、引っ越せるが、ものすごい問題が横たわっている。
いつ、だれが引っ越しの準備をするというのだ!!!!
つまり、
1,8月1日から新アパルトマンの契約スタート。(鍵がもらえる)
2,今のアパルトマンの退去は8月31日までにしないとならない。
3,ぼくは12日のビルボードのライブのあと、いくつか仕事がまだ残っていて、帰仏日が見えない状況・・・。
4,なにより息子のアパルトマンの引っ越しをその前にやらないとならない。つまり、その前に息子のアパルトマンを探し、契約をして、引っ越し業者に依頼しないとならない。(親の収入を言わないとならないらしい///( ^ω^)・・・)
5,何よりも、引っ越しの準備をその前にやらないとならない。
結論、・・・無理。
おお、これはひど過ぎる。
スーパーマンなら出来るかもしれないが、これをぼくひとりで全部やるのは不可能というものだ。
その上、(あいかわらず)息子から連絡がない。
大学の入学手続きもどうなっているかわからないし、アパルトマンを見つけたのかどうかもわからないし、アルバイトのその後もわからず、という状況なのである。
となると、結論として、今のアパルトマンの退去日を9月末にしてもらうしかないのであーる。
それならば、ぼくが戻ってから引っ越しの準備→息子の引っ越し&大学入学→そして、ぼくの引っ越し→というスケジュールが可能になるが、その場合、二つのアパルトマンの家賃を二か月間、ダブルで払わないとならない、というケチな話だけれど、免れない問題が人生の大河のあいだに横たわっているのであーる。
うううむ。しかし、これは物理的に、仕方がないか・・・。
身体はさすがに一つしかないからであーる。
ともかく、今、大至急やるべきことは、運送屋さん探しであろう。
出来れば、息子のとぼくのを同時に、しかも、低料金で引き受けてくれる、そして、安全な運送屋を探さないといけない。
前回、今のアパルトマンに引っ越した業者さんは「まあまあ」だった。
ボスはアルジェリアの人で、他の人たちはモロッコやナイジェリアの人たちだった。
ナイジェリア人の「アリ」さんとは仲良くなった。彼はパーカッショニストで、その後も、たまに連絡をくれたりしていたけれど、どうしているのだろう?
ただ、他の若い子たちはちょっといい加減で、前のアパルトマンの床に大きな引っ越し傷をつけやがった。「引きずってるよ」と忠告した時には手遅れ、1メートルくらいのでっかい傷がきれいなパケ(板床)を、ぐぐぐ、と抉っていた。オーマイガッ。
こういう場合、ぼくが支払わないとならないので、面倒なのだ。文句を言っても、そもそも安い引っ越し業者なので、ちゃんと話を聞いてくれない。
アリさんが、ごめんね、と言っていた。
その時の引っ越し代金は、1800ユーロ(約20万円)であった。20年近く暮らしたので、うちはとにかくものが多い。今は、そんな金額ではすまない・・・。きっと。
今回は断捨離をして、荷物をグンと減らしたい。出来れば、無駄に捨てたくないので、引っ越し業者さんに差し上げるから引き取ってくれるところがいい。
捨てるのにお金をとられるのも嫌だし、そもそも、ちゃんとした家具なのだ。売ればいいじゃないか、という意見もある。
フランスには売り買いのサイトが結構あって、出せばすぐに売れるのだけど、この手続きというか、やり取りが半端なく面倒くさいし、人間関係で嫌な思いをしたこともある。日本人のぼくにはちょっと向かない。
若者たちは喜んで出来ても、60過ぎの父ちゃんにはその手間暇&神経が・・・。
20年使ったソファとか、古い本棚とかは運送会社に再利用してもらう方が助かる。
パリ市が粗大ごみを引き取ってくれるのだけど、ゴミにするのは勿体ないので、なんとか、活用してもらえないか、と相談をしたいところだ・・・、そのためには、まず、運送屋さんに来てもらって、地下室の荷物から全ての部屋の家具など、実物を見てもらい、見積りを出してもらったり、そういうことの交渉をしないとならないのであーる。
それがいつ出来るのだ、いったいいつだ!!!
とりあえず、アリさんのSMSに福岡市方面から、3年ぶりくらいにメッセージを送ってみることにした。
物理的、時間的事情などを細かく、記して、・・・。すると、であーる。
「あなたはだれ?」
と戻ってきた。
「やあ、4年前に、引っ越しを依頼した日本人ミュージシャンの辻です。小説も書いている、ほら、一緒にセッションやろうって、約束をした。覚えている? ぼくだよ、辻だよ!!! やっほー」
「あの、私は最近この電話を買ったもので、ごめんなさい。その人じゃないの」
げげげげのきたろう。アッと驚くダメ五郎。れれれのれー、あそまつさんなのであった。
「すいません。失礼しました。良い一日をお過ごしください」
そうか、4年も経っているし、途中、コロナ禍があって、引っ越し業者も大変だったから、もしかすると、アリ、国に帰っちゃったのかな・・・。
ううーむ。
ということで、引っ越し日が決まったというに、すでに暗礁に乗り上げてしまっている、父ちゃんなのである。
フランスはあまりに遠い。ここから一万キロも離れているじゃないか。
しかも、今は夏のバカンス時期、フランス社会が全く動かない時期なのであーる。
家賃がダブルで二か月かかり、敷金礼金&高額な銀行保証(これはかえってきます、次の引っ越しの時に)それから引っ越し代金、・・・、生きていくのは大変だけれど、明日も前を向いて生きていこうと強く決意をした、父ちゃんであった。
とりあえず、元貴族の館の管理人をしているブリュノさん(近所では一番面倒見のいいおじさん)に「運送屋、紹介して」とメールをいれておこっと・・・。
引っ越し貧乏???
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
息子から連絡はないけど、ジュリアからは毎日連絡があって、三四郎は頑張っています。彼のためにも、広いベランダのある、緑に囲まれた風の流れるアパルトマンに引っ越さなきゃ。そこにはエレベーターがあって、管理人がいて、心地よいキッチンがあって、・・・ハぁ、人生とはいつも茨の道なのです。とほほ。
あ、なんか息子からメッセージが入っている・・・。こわ。
さて、お知らせです。
7月28日は父ちゃんのオンライン・講演会「一度は小説を書いてみたいあなたへ」と題しておおくりします。
一生に一度でいいから小説を書きたいけど、敷居が高くて、と半ば諦めかけている皆さん、そんなことはありません。ぼくがどうやって作家になったのか、どうやれば一冊書けるのか、など、講演会形式でお話をしたいと思います。
詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリックください。