PANORAMA STORIES
三四郎合宿日記「森の水は優しかった。ボクは泳ぐのが上手になったよ」 Posted on 2022/07/12 三四郎 天使 パリ
あいかわらず、ジュリアたちに引率されて、仲間たちと森通いをしているよ。
だんだん、この生活にも慣れてきたけれど、みんなと一緒にいると、生まれた時のことを思い出すんだ。
ボクは田舎の「犬の園」で生まれた。
覚えているかな? シルヴァンという人が当時、ボクのご主人だった。
ボクはそこで6人兄弟の末っ子として生まれたんだ。
その時、ボクには別の名前がついていた。いいかい、覚える必要はないけど、言っておく。
ボクの最初の名前は、シンプソン・ロワ・ドゥ・ベルジュラック、だ。
すごいでしょ? 由緒あるミニチュアダックスフンド一族の末裔なんだよ。えへん。
シルヴァンはブリーダーで、そこにはたくさんの犬たちがいて、いろいろな人が引き取りにきていた。
ボクは、実は、大型犬にかまれて、顔に二つ牙の痕があったので、引き取り手がつかなくて、ながいことずっと一人、取り残されていた。
兄弟5人はすぐにひきとられたのに、ボクだけがいつまでも檻の中にいたんだ。
でも、そこに日本人のムッシュが現れて、ボクを抱きかかえてくれた。ボクの鼻の傷を触ったけど、気にしていないようだった。
パリのムッシュのおうちで暮らすことになった。鼻の傷? それがね、パリで暮らしているうちに消えちゃったよ。
そして、ボクには「三四郎」という新しい名前が付けられたんだよ。
日本風の名前らしい。フランス人にはちょっと難しいみたいで、ここでは、サンシーと呼ばれることの方が多い。
もう誰も、ボクのことをシンプソンとは言わない。
というか、そもそも、犬の園には50匹くらいの犬がいたから、誰もボクをシンプソンと呼んだりはしなかった。たくさんの中の一匹だった。
ところが、ムッシュのところでは唯一の犬だから、サンシー、もしくは三四郎、もしくはさんちゃんと呼ばれて大切にされている。
わがままし放題だったし、ボクだけのベッドや部屋があって、自由に暮らすことになった。幸せだよ。
ムッシュとジュートと三人暮らしがはじまった。
でも、ムッシュは夏のあいだ、日本でどうしてもやらないとならないお仕事があって、ボクはジュリアの家に預けられることになった。
ここは、ちょっとだけ犬の園に似ているかも・・・。
他の犬と暮らさないとならないという点では、似てるけど、あ、いや、でも違うかな。
ジュリアの家にはボク以外に3匹の犬がいる。夏のあいだ、パリに残った犬たちが、集められて合宿をするんだ。
ジュリアのグループの何人かの人たちが数匹ずつ犬の面倒をみている。
夏の間、一緒に過ごすのを、ポンション(合宿)というみたい。ムッシュは「りんかんがっこう」と言ってたけど・・・。
で、昼になると、みんなが森に集合して、一緒に散歩をするんだ。大部隊になる。
犬好きな人間たちがたくさんの犬を森に集合させて、一緒に歩く。これはなかなかすごい光景だよ。
一緒というのがとっても大事みたい。いろいろな犬たちと知り合って、世界が広がることが大事みたい。
ジュリアが、そう言っていた。合宿をすることで友達が増えるのよって。
よくわからないけど、シルヴァンはブリーダーで、ジュリアはドッグトレーナーなんだって。
ボクらにとって、ジュリアは先生なんだよね。犬が人間と一緒に犬らしく生きていくための、先生・・・。
人間のルールの中でやっていけるように人生を導いてくれる教師なんだよ。道の歩き方、車から身を守る方法、みんなと仲良くする方法、眠る時の甘え方、いろいろと教えてくれる。
ボクはジュリアが好きだ。だから、いい生徒になって、ムッシュとの再会を楽しみにしているんだ。この夏は、ボクにとって成長の時なんだよね。
ということで、今日もみんなで歩いたよ、ヴァンセーヌの森の中を、何時間も歩いた。わんわん大行進さ。時々、休んで、原っぱで遊ぶんだ。
ヴァンセーヌの森はとっても大きいから、池や小川もある。
シベリアンハスキーのソニックたち、大きな犬たちは、そこに次々飛び込んでいく。
彼らはとっても元気なお兄さん、お姉さんたちで、猛スピードで走って行っては、そのまま、ジャンプするから、水しぶきとかあがって、そりゃあ、すごいんだ。
そして、反対岸まで泳いで渡って、陸地にあがり、ぶるぶるってやって、また、小川に入って戻って来る。何匹も連なって泳いでいる。
正直、ボクは最初、怖くて、みんなみたいにはできなかった。
でも、ボクと同じミニチュアダックスフンドのリッキーがやって来て、
「平気だから、飛び込んで見ろよ。怖いなら、ぼくについてこい」
というから、リッキーのあとにくっついて、少し入ってみた。
ボクは、田舎の海には入ったことがあったけど、海と川って全然違うのね。
海はしょっぱいけど、森の水はしょっぱくなかった。
海の水は迫って来るけど、小川の水は流れているんだ。大きさも違うし、匂いも、味も、違った。
小川には波がなくて、きらきらしている。涼しいし、心地いいよ。
ボクはリッキーと一緒に、小川を渡った。いや、というか、ボクはまだ慣れてないから、大きな子たちみたいに向こう岸へはいけなかった。ちょっとだけ泳いで、逃げるように戻ってきたから、ソニックに笑われちゃった。
森から帰るとボクはお気に入りのソファーの上でゆっくりするんだ。ジュリアの弟ラファエルが一緒にお昼寝をしてくれる。ラファエルも優しいよ。ジュートより、ちょっと若いのかもしれない。でも、おなじギャルソンの匂いがする。
ボクはラファエルの背中にもたれてお昼寝をするのが大好きなんだ。ジュリアがまたガラス板をボクに向けた。だからボクは、ガラス板をみてポーズをとった。
「この写真、ムッシュにおくっとくね」
とジュリアが言った。
クックー、ムッシュ〜! ボクは元気だよ。
つづく。
ムッシュにかわって、お知らせだよ。
ムッシュのオンライン講演会があります。詳しくは、下のをクリックしてねー。