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ロンドン最新情報「ホーランドパークの夏の夢」 Posted on 2022/07/12 Design Stories  

夏になるとロンドンのホーランドパーク内に野外オペラハウスが出現する。
巨大なドームテントが貼られ、ステージと観客席が設置される。
5月ぐらいから本格的な建設が始まり、6月から8月末までオペラが上演される。
オペラ・ホーランドパークはシーズンチケットを持つオペラファンから、ピクニック感覚で訪れる初心者まで様々だ。
まずオペラハウスに入ると、最初に圧倒されるのは、700ほどの観客席だ。
椅子はサイズも色も様式も一つ一つ違う。
これらの椅子はロンドンやイギリスの劇場、プロダクション、オークションハウスから寄贈されたもので、再利用、アップサイクルされている。
指定席なので自分の好きな椅子を選べないのが残念だ。
しかし、どの椅子もきれいに修復され、座り心地ちは良さそうだ。

ロンドン最新情報「ホーランドパークの夏の夢」

<700席ほどの多種多様な椅子が並んでいる>

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なぜこのような多様な椅子が並べられているのか、観客は不思議に思うだろう。
それはこの芸術団体がサステナビリティーに取り組んでいるからだ。
「サステナビリティ」(sustainability)とは『持続可能性』または『持続することができる』という意味。
環境対策として「8-R」を推薦している。
それらは「Reduce(交換), Replace(削減), Reuse(再利用), Recycle(リサイクル), Recover(回収), Refuse(拒否), Reject(反対)Rethink(再考)だ。
対策の項目を見てみると「再生木材と輸送用コンテナを再利用」、「劇場内の家具や装飾は、すべて倉庫にある劇場の小道具や家具を使用」、「劇場のトイレでは、毎回0.6リットルの水しか流さず、リサイクルトイレットペーパーと天然石鹸を使用」、「できる限り地元の独立した生産者やサプライヤーを利用」、「使い捨てのペットボトル、ストロー、ナプキンの販売と使用を禁止」、「電子化で100%ペーパーレス」「100%LED照明」などが挙げられている。
「公共交通機関を利用することを積極的に奨励し、スタッフや利用者に自転車での来園を奨励」と言うものまである。
豪華絢爛の「オペラ観劇」の概念を覆す、「エコ観劇」となっている。

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<劇場内の家具や装飾は、すべて倉庫にある劇場の小道具や家具を使用>



ロンドン最新情報「ホーランドパークの夏の夢」

<音楽やオペラが流れてくる>


オペラ・ホランドパークではオペラが身近に感じられるよう、様々な割引、無料席がある。
通常56ポンドから110ポンドのチケットだが、身体障害者、30歳未満向け、18歳未満と65歳以上向けの無料チケット、22ポンドのインスパイア・チケット、NHS(国民保健サービス)スタッフとコミュニティワーカー向けの半額チケットが用意されている。

今夏、上演される5作品はどれも新制作だ。開幕を飾ったのがチャイコフスキーの19世紀の傑作悲劇《エフゲニー・オネーギン》とビゼーの《カルメン》。
プッチーニのゴシック・ファンタジー《妖精ヴィッリ》とディーリアスのパリのメロドラマ《赤毛のマルゴー》は2本立て。
マーク・アダモ作曲の《若草物語》は南北戦争の時代を舞台にしたアメリカの作家ルイーザ・メイ・オルコットの有名な小説を脚色したオペラで、英国初演となる。
チャールズ・コート・オペラとの共同制作である《HMS Pinafore》は、英国人を最も嘲笑できるのは英国人自身であることを証明する喜劇オペラだ。

劇場で初めてパフォーマンスを体験する子どもたちにもプログラムが用意されている。
プロコフィエフの《ピーターと狼》で上映時間も30分ほどだ。この家族向けの楽しいシンフォニックな物語は、生き生きとしたストーリーテリング、ダンス、話し言葉を通して、子どもたちにクラシック楽器を紹介する。

ロンドン最新情報「ホーランドパークの夏の夢」

<オペラ・ホーランドパークの正面は犬のオフリード区域となっている>



犬を飼っている人にも朗報がある。
オペラハウスのすぐ前は犬が自由に遊べるオフリード区域となっていて、犬を遊ばせながら、流れてくる音楽やオペラを楽しむことができるのだ。
ロミオという人懐っこいハスキー犬はなんとオペラ上演中に会場に侵入し、観客を驚かせた。オペラ独特の音階に反応したのか、純粋に音楽が好きなのかはロミオにしか分からない。

地域住民には毎週日曜日の朝にオペラハウスでヨガ教室が開催されている。
ケンジントン&チェルシー区主催で、なんと無料だ。
ヨガが行われる場所は出演者たちが待機する仮設小屋で、目の前にはオランダガーデンが広がる、夢のような空間だ。オペラハウス撤去となる8月末まで続く。

オペラ・ホーランドパークが設置される場所は1605年に建設されたホーランド・ハウスの中庭だ。
この建物は1940年の第二次世界大戦中に爆撃に遭い、現在は断片的な廃墟となっている。東棟と1階と南面の建物だけが残っている。
写真で見ると、かなりの部分が喪失していることが分かる。

ロンドン最新情報「ホーランドパークの夏の夢」

<劇場内に入り込んだハスキー犬のロミオ>

ロンドン最新情報「ホーランドパークの夏の夢」

<テントの設置が始まった頃。住民の犬の遊び場となっている>



ホーランド・ハウス東棟にあるユースホステルは、知る人ぞ知る格安の宿泊施設だ。物価が高いロンドンにおいて、治安が良く、便利で格安となれば旅行者にはありがたい。
ロンドン有数の高級住宅街にあり、近くにはベッカム家の豪邸がある。

シェアールームのバンクベッドから家族向けのプライベートルームが併設されている。
昨年、修繕を終えたばかりだ。
歩いて10分以内に地下鉄3駅があり、最高のロケーションとなっている。
Safe Stay
London Kensington Holland Park Hostel

ロンドン最新情報「ホーランドパークの夏の夢」

ホーランドパークの魅力はそれだけではない。
都会のノイズをさえぎり、静寂な森の中を歩いているような感覚におちいる。人懐っこい野生のリスが、ピーナッツやパンくずをねだりに近寄ってくる。放し飼いのくじゃくが美しい羽を披露するのは「京都庭園」と東日本大震災の復興を願って建設された「福島庭園」のあたりだ。
パークに隣接するデザインミュージアムは20世紀以降のデザインや建築に特化した英国唯一の博物館で、創設者は2020年に88歳で亡くなったテレンス・コンラン氏だ。
ミニマリストのジョン・ポーソン氏が建築デザインを担当した。
尖った屋根から続くスロープが特徴的で、周囲の景観とも調和している。
常設展「デザイナー・メーカ・ユーザー」では20世紀以降に生まれたさまざまなデザイン1000点近くが展示されている。
もちろん、入場料は無料だ(常設展のみ)。
(中)

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<京都庭園と福島庭園の中>

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<デザインミュージアムの中>

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