JINSEI STORIES
滞仏日記「息子から、9月から働くことになった、というショッキングな知らせ!」 Posted on 2022/07/07 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、息子からSMSが入り、
「バック合格」
ときた。バカロレア(高校卒業資格試験)のことで、大学に受かっていて、本末転倒な話だけれど、このバカロレアを通過することもとっても大事で、結局、大学を移る時も、就職の時も、このバックの成績があとあと大事になる。ともかく、こちらも合格出来て、息子は順風満帆な滑り出し、と言ったところか、
すると、次のSMSで
「62ユーロだった」
と飛び込んできた。
「何が?」
「トマと二人で、パトリックさんのお店でご飯たべた。パパにつけといた」
あはは、もちろん、「食事に困ったら、パトリックの店ならつけて食べればいいよ」とは(偉そうに)言ったが、まだ、パパと別れて二日目で、もうつけかい!!!!
二人で62ユーロか(9000円)、まあまあ食べてるよね~。笑。
でも、バック合格からの62ユーロじゃ、文句は言えまい。
しかし、この調子でいくと、メイライの中華とか、ジャンフランソワのカフェとか、エステルのイタリアンとか、息子があちこちにつけをしていく可能性がある。
大変なことになる前に、早めに釘を刺しておいた方がいいだろう。せめて、10日に一度くらいにしてね、と言っておかなきゃ・・・、えへへ。
ま、合格したんだから、それくらいはいいでしょう。
ぼくは、博多で何を食べているのかというと、日本のソウルフード三昧を楽しんでいる。今日は王将の冷やし中華であった。めっちゃ、美味かった!!!(あ、もちろん、仕事もしています)
と、そこに息子から再びメッセージが飛び込んできた。
「レストランで働くことにしたから」
「ええええええええ!!!!」
衝撃のメッセージであった。
にゃんだってーーー。
お茶を飲もうと思っていたのだけど、思わず、吹き出してしまった。
「パパの知り合いのレストラン、面接にいったら、採用されたみたい」
「ななななななななななんだとー。あそこか、あんな高級店で働けるのか?」
「あ、それでね、オールバックにして、革靴、白シャツ、ストレートのズボン、ま、スーツ着て働かないとならないの。スーツないから、どうしようかな、と思って。お金もないし」
「ええええええええ!!!! なんだってー、おおおおおおおーるばっくー? 大丈夫なのか? そんないきなり」
「オーナーさんたちが気に入ってくれて、今週末、と来週末、とりあえず、働いて様子みて、問題なければ、9月から正式に働くことに」
「給料は?」
「学生がもらえる額(スミック)だよ」
でも、それだけもらえれば、家賃と食費分はカバーできる。つまり、その分が彼のお小遣いになるというのであーる。リッチマン!
「君、リッチマンかよ、いきなり、大学生になった途端」
「え、そんなんじゃないよ。でも、すごくシックなレストランだった。パパに社長さんがよろしくって」
「ぎょええええええええええええええええ!」
ということでこの新展開に驚いた父ちゃん、開いた口が塞がらない、とはこのことだ・・・。
今の髪型がぼさぼさなので、カットして、チックなどでオールバックにしないとならない、というのは、高級レストランだから、わからないでもない。
しかし、スーツをきて、シャンパンとかサーブしている息子とか、ちょ、ちょっと想像できないよねー。
ぎゃああ、マジかよ、これ、衝撃展開なのであーる。
「お客様、お飲み物はなににいたしましょう。当店のおススメのシャンパーニュは、100%シャルドネのドゥラモットでございます」
とか言っちゃうんだろうか?
あ、これは酒を覚えるな・・・ま、しょうがないか。
成人したんだし、しかし、そこで開眼して、ソムリエ目指したいとか言い出したら、どないしよ~、やばいな、いろいろと、やばすぎる。
心臓、バコバコでたまらない。
おちつけ、仁成。
ということで、父ちゃんはお風呂に入ることにした。
ああ、いい湯であった。
気分をかえて、こちらも、心機一転、新しい親にならないとならない。
いつまでも、あの子は10歳だった時の十斗ではない。
もう、成人した大人の十斗なのである。
オールバックか、似合うだろうけど、やばいな~、と鼻の下がだらっとなっている。
人の心配をするより、父ちゃんは自分の心配をした方がいいんじゃないのか?
あ、まあ、そうですね。しかし、辻家はどこへ向かうというのだろう。
今後の展開に目が離せないのだけど、そのレストランのソムリエも友だちなので、ちょっとあとで、メールを送って、様子をうかがうことに、え? ダメ? だって、気になるでしょ? ほっとけ? 子供じゃない? 干渉するな?
いや、あの、でも、だってさぁ・・・・。
つづく。
ということで急展開の日記、読んでくださって、ありがとうございます。
ドキドキがとまりませんが、そういうことだそうですので、見守るしかないでしょう。アルバイトで自分のお小遣いを稼ぐわけだし、いい大学には合格したことですし、バック合格、申し分ない滑りだしだと思います。怖いくらいの滑り出し。いつか、しっぺ返しが来るでしょうが、長くいろいろと寂しい時代もあっただろうから、ここからは自分の人生を掴んで楽しんで勉強も遊びもやって貰いたいと思う、父ちゃんも一人の親なのでした。
はい、ということで、お知らせです。
父ちゃん主宰の25歳以下の若者たちの第六回新世代賞、作品募集中です。
https://www.designstoriesinc.com/worldfood/shinsedai6/
新刊「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」は発売中。
そんな父ちゃん、7月28日に、都内某所からオンライン小説講演会を開催させて頂きます。一度は小説を書いてみたいなぁ、小説憧れるなぁ、書きたい、と思われる皆さんを対象にした講演会です。(抽選で40名の皆さんを現地にご招待します)小説教室の導入的な、ぼくがどうやって小説家になったのか、作家になるまでのいろいろ、そして、ちょっと小説の書き方のヒントなど、をさらけ出したいと思っております。
詳しくは下の地球カレッジバナーをクリックくださいませ。良い一日を。
※ 息子の近影なり、笑