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フランス最高位のチーズ熟成士、久田早苗 「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」 Posted on 2020/01/12 辻 仁成 作家 パリ

今日、オペラのチーズ屋さんで新年会があり、出かけた。音頭をとってくださったのはこのお店のディレクターでありチーズ熟成士の久田恵理さん。パリの応援団の団長さんをつとめてくださっている。チーズとワインのご縁からなんとなく繋がっていった方々をライブに引き連れてきてくださる団長さんで、実に心強い。そして、恵理さんのお母さん、久田早苗さんは、フランスで最初にチーズ熟成士の最高位を受勲された日本人で、ぼくからするとパリのチーズの大御所先生になる。チーズのことならなんでも教えてくださるし、このデザインストーリーズでも長年エッセイを担当してくださっている。その早苗さんとも久しぶりにお会いすることが出来た。作家の江國香織さんに声がそっくりで、なんとなく個人的に親近感がわくわくなのである。しかし、そのチーズ愛は半端ない。

ということで、チーズ大国フランスで、その専門家たちからもっとも高く評価されている日本人女性、久田早苗さんのインタビューをお届けします。

フランス最高位のチーズ熟成士、久田早苗 「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」



フランス最高位のチーズ熟成士、久田早苗 「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」

 

チーズ熟成士最高位、「Maitre Fromager」(メートル・フロマジェ)の称号を持った最初の日本人であり、シュバリエ、オフィシエと立て続けに受勲している久田早苗。チーズを愛するあまり、パリ16区と1区に相次いでチーズ専門店「Fromagerie HISADA」(フロマージュリー・ヒサダ)をオープンさせた。
本家フランスに多くのファンを持つ。そのチーズに向かう情熱が凄まじい。
今回の、THE INTERVIEW、フランス最高位のチーズ熟成士、マダム久田の情熱を分析する。

題して、「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」
 

フランス最高位のチーズ熟成士、久田早苗 「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」

 
辻 まず、どうしてパリに?

久田 早苗さん(以下、敬称略) 私はフランスに来るまでに日本でチーズ屋を15年くらいやっていました。販売者です。その中で、例えばロックフォールという名前一つのチーズでも、仕入れ元が違うと全然味が違うんですよ。選択して買っていたんだけど。でも、自分が直接選びに行ったら、もっと味の可能性が広がるんじゃない? って思って、で、自分で探し歩くことにしたんです。

 その頃は販売者なんですね? 立川にある「チーズ王国」は久田さんの会社ですよね? 

久田 チーズ王国を興したのが32、3年前。自分が美味しいと納得できるチーズは自分の足でフランスへ探しに行かなきゃって思ったのです。美味しいものを集めていって、もういいかな? って思ったんですけど、すごくいい生産者を探しても、味にばらつきがあるんですよ。それは、季節の違い、同じ冬でも寒すぎたとか暖かすぎたとか、夏で乾燥しすぎた、雨が降りすぎたとか、それによってすごく味に違いがでる。さあ、どうしよう? と。うちのチーズ美味しいわねって言ってくれるお客様に、いつも同じ状態でお出しするにはどうしたらいいんだろう? って思ったんです。そしたら、フランスには”熟成士”という人がいるらしい、ということを知りました。
熟成士さんがいて、一つのチーズをある程度の状態にまで育てあげて、お客様に売っている。それで、熟成の勉強をしたいと思って、1999年にフランスに来たんです。
そこで2年半勉強させてもらって、日本に帰りました。で、日本の自分のお店に熟成庫を作って、熟成を始めた。でもね、でき上がったけど買いに来てくださるのは、パリでレストランやってたシェフたちとか、学校の先生が熟成の違いを授業で見せたいとか、本当に微々たるもんだったんです。その時私はもう51歳になっていて、一生懸命熟成庫を作っても売り先が無いって気づいたの。どうすればいいんだろ? って思って、あ、じゃあパリでお店すればいいんだ、って。パリは、毎日、今日食べるチーズを買いに来てくれる。私、どんどんどんどん作れるや! って。すごく売れるチーズ屋さんを想像してました。
それで、パリに来て、チーズ屋さんを買いました。

 16区の店ですね。行きましたよ。パリに渡った当初、13、4年ほど前でしょうか、とにかく評判のお店でしたから。

久田 そうです。周りの環境とか、客層とかではなく、熟成庫がよかったからという理由で買いました。素晴らしい熟成庫だったんです。あ、私の夢ここで果たせるって。そんな感じでお店を買って、でも日本に輸出するにはアグレマンというのが必要だった。保健所のうんちくっていうの。完璧な衛生環境を作る厳しいものでしたが、それを1年かけて取って、毎日楽しいですよ。熟成して売る、熟成して売るの繰り返し。だから、私はパリに居なきゃならなかったんです。

 その熟成庫が決め手で、あの16区のお店を買ったんですね? 僕はあしげく通っていましたよ。チーズも最高でしたが、そこの豆腐も美味しかった。超柔らかいモッツァレラチーズのような、かつて食べたことがなかった味の豆腐で、虜になりましてね。本当に素晴らしいお店でした。ここにも負けないお店ですね。もうちょっと広かったかな?

久田 そう、あの熟成庫は完璧だったんです。でも売っちゃったんです。私が娘に譲ろうと思ったら娘が2店舗もできないって言って。それで泣く泣くね。ちょうどその頃病気になったんで、それでもう娘に押し付けて何もかもやめようって。

 このお店にも熟成庫はあるんですか?

久田 ちっちゃいのしかないんです。だから、今回娘がお店を改装して、シェーブルチーズはお店で熟成できるようになったの。
 

フランス最高位のチーズ熟成士、久田早苗 「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」

 
 チーズ王国は立川にありますよね? そちらは誰がやってるんですか?

久田 旦那と長男、男性陣は日本。私と娘、女性陣はパリ。大きい規模は男性、小さい規模は女性でやってます。

 今は何店舗くらいあるんですか?

久田 直営店は22店舗くらいで、あとは卸とか、機内食なんかにも使っていただいてます。全国にあります。だいたいデパ地下にありますね。チーズ王国はチーズ王国、デパ地下(伊勢丹系列)は全部フロマジュリー HISADAという名前でやってます。

 大企業じゃないですか?(笑)。

久田 チーズ屋としてはね。日本で一番売れるチーズ屋になりました。16区のお店は2014年の12月に売りました。この店(リシュリュー店)は2010年にオープンしたので、何年間かは2店舗でやってました。
 

フランス最高位のチーズ熟成士、久田早苗 「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」

 
 さて、本題に入りましょう。熟成士について知りたいんですけれども、熟成士について少し教えてください。聞き慣れない職業です。フランス独特の資格でしょうか?

久田 これね、本当にフランスで生まれた職業なんです。昔は、チーズの作り手が一生懸命作って、ある程度の状態になるまで置いて、出してたんです。でも、チーズの広がりはどんどん大きくなって、在庫している間にダメになっちゃいますよね。そこで、規定の3日や10日過ぎたら熟成士に流すんです。そうすると熟成士が、自分の思い描くように熟成して売るんです。

 熟成っていうのをもうちょっと簡単に教えていただけますか? できたチーズを熟成士が作り直すんですか? 

久田 作り直すのではなくて、例えばシェーブルだと、固いのと今流行りのとろとろのがある。どっちの方向に進めるかによって環境が全然違うんです。だからお客様がどっちを求めるのかなと思う方向のものを多めに作るわけです。例えば自分のやり方と辻さんのやり方はまるっきり違うから、同じ生産者からチーズを買っても全然違う味になるんです。

 なるほど、熟成士のやり方によって違った熟成になるから、同じチーズでも別のものに変わるというわけなんですね。とっても奥が深い。食文化の先端ですね。

久田 だけど、だいたい普通のところは手がかかるので、買ったらすぐ冷蔵庫に入れて売っちゃう。それが、スーパーであり、熟成庫を持ってないチーズ屋さん。いっぱいありますよ、パリでも。マルシェだってそうです。買ってきたらそのまま売ってる。

 ワインのように寝かせるみたいな、ヴィンテージみたいなことなんですか?

久田 そうなんです。やっぱりヴィンテージっていうのがすごい大事なんです。いい熟成士さんは生産者までちゃんと見に行きます。それで選んで、買い付けして、だから私が扱うものとか、有名人のロラン・デュボワさんやマリーアンヌ・カンタンさんとか、そういう人が扱う元のチーズが同じだったりするんだけど、熟成によって味が違ってくるので、価格競争にならないんです。熟成の結果で作れる味があるなら、日本人の私の味を出しても通用するんじゃないかなと思ったんです。
 

フランス最高位のチーズ熟成士、久田早苗 「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」

 
 熟成士になるのは大変なことじゃないですか? 本場の、フランス人でもそんなに多くいないと聞きました。いったいどのくらい勉強しないとならないのでしょう?

久田 えっと、勉強を何年したらなれるということではないんですよ、感性。大切なのは感性がよくて、匂いや味に鋭くて、チーズが好きで、変化を見ることができれば、お花屋さんと同じなんで、ちょっと水がいっぱいだから今日はお水あげないわとか、そういうことができるくらい。あとは全部、最低46くらいの作り方を土地から製造からみて、どういう風にこの人たちはアフィネしていく(熟成)のかを最低2、3件比べられるとか。

 ディプロム(資格)とかあるんですか? 学校は?

久田 ディプロムはないです。全部評価です。チーズの学校はあるようですが・・・。私はチーズを扱っていて、チーズを探しに行った時に製造から何からずーっと見て回ってたんですよ。15年くらいの間。有名なフィリップ・オリヴィエさんという熟成士の大家がいるんですけど、その人のところに弟子入りして、3ヶ月で追い出されました。というのは、1年半お願いしたんですけど、君はよく知ってるから必要ないって言われたんです。うちの熟成庫でどんだけ学んでも、あなたの熟成庫には違う菌がいるからマニュアルで教えるわけにいかないし、全部感性だからって。自分の熟成庫では1からやらなきゃいけないから、そのためには、土地を見て、牛を見て、ミルクを見て、作り手を見なさいって。それで、「もう見てきました」って言ったら、観点が違うって言われたんです。
今まではいいものを拾って売ろうとしてきた。でき上がったものを一生懸命見ていた。でも、熟成をやろうという人間は、土地を見て、牛を見て(健康状態とかね)、ミルクを見て、作り方を見て学ぶものだ、って。それから1年ちょっと新たに回りました。今度はA.O.Cだけじゃなくて、いろんなとこ見て回ったんですけど。
 



フランス最高位のチーズ熟成士、久田早苗 「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」

 
 じゃあ、熟成士と名乗っている人に資格とかはないということですね。ソムリエだったらソムリエ協会とかありますよね?

久田 認定書はあるんです。一応3段階の認定書があります。私は日本のチーズ業界とフランスで勉強して、フィリップ・オリヴィエの元で熟成の勉強をした。そして、新たにいろんなところを回りました。その段階で、第一段階の認定証を頂いたんです。その時に「えーあるの!」って思って。感激で。夢のような人たち雲の上の人たちと思っていた人たちと同じ場にいられて、なんて幸せなんだって思って。それで、どうせだったら2段階、3段階も取りたいなと思いました。

 2段階、3段階はどうやったらもらえるんですか?

久田 第2段階目はGUIDE DES FROMAGERS PULD’HOMME (プルドーム)で、熟成ができる。自分一人で、熟成のものを作れるということですね。第3段階目は、自分の熟成庫を持ち、親方業として教えられるくらいの実力がある。MAITRE DES FROMAGERS (メートル・デ・フロマジェ)です。

 最高位のMAITRE DES FROMAGERSですが、フランスに何人くらい存在するんですか?

久田 フランス人でも少ないですね。会員数が6594名でMAITREは196名だそうです。私が日本人としては初めて。

 今は他にも日本人いるんですか?

久田 いますよ。私の娘もです(笑)。2015年6月にチーズ世界大会に出て、優勝候補だったんですよ。たぶんそれで頑張ってたから、フランス国営放送の追っかけ取材がついたりして、きっとお免状用意してたんじゃないかな(笑)。

 ー 娘さんがここで顔を出し、ご挨拶。これまたチーズに詳しい若いマダムでした ー

 そっか、母と娘で! すごいなぁ。頑張りましたね。

久田 でも娘にはちょっと早すぎるよって言ったの。

 でもすごいことですね。親子で。久田さんは勲章も貰ってるじゃないですか。

久田 お陰様でね。2013年にフランス国の農業勲章シュヴァリエ、2015年に農業勲章オフィシエをいただきました。あまり実感がなく嬉しくはなかったんですけど、チーズ業界のオフィシエは8名ぐらいしかいないと聞いて、感動しました。
 

フランス最高位のチーズ熟成士、久田早苗 「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」

 
 そこまで評価されて今の久田さんがあるわけで、日本においてもフランスにおいてもチーズの第一人者になられたわけで、その久田さんに今日聞きたいのは、魅惑のチーズの愉しみ方。なかなかフランスほど日本にはチーズが置いてない。当然なことですけど、フランスに渡ったころ、こんなにチーズって種類があったんだって驚いたことを覚えています。聞いたことのないようなチーズばっかりで(笑)。日本だとせいぜいカマンベールだとか・・・。この際ですから、うちで連載をやっていただけないですか?

久田 え? はい。喜んで。

 え? まじですか? 最高位の熟成士が毎月、おすすめのチーズを紹介するってのはどうでしょう? 僕、編集長ですから即断できます。

久田 やります。AOP(Appellation d’Origine Protégéeの略称で、EUが定める原産地名称保護制度)に認定されている46のチーズがあるの。それを毎月紹介していくのも面白いですね。

 それは素晴らしい。DSを読むだけで、チーズの専門家になれるというわけですね? みんなチーズのことをもっと知りたいんです。でも、チーズのスペシャリストはワインのソムリエほど多くない。だから、正直、どうやって、何を、どのように食べたらいいのかさえ、実は日本人はまだよく知らないわけです。

久田 昔はきっと食べたら怖いっていう思いがあったと思うんですよね。状態がわかんないし。賞味期限みて置いておく。でも中はもうおかしくなっちゃってて、で、食べてみたらおえっみたいな。そんな印象が強いと思うんですよ。でも今は空輸で状態も良いし、そんなに吐き出すようなものはないです。

 今は、ちょっと高級なスーパーに行ったらどこにでもすごい数のチーズがあって。でもただ、高いんですよ。

久田 5倍ですから。日本へは飛行機で運んでますし、でもね、先入観なく食べたらいいと思うんです。わー、キレイ!って。

 僕は羊のチーズがちょっと昔は苦手でした。やっと最近好きになった。やっぱり、パリに渡って、ここで暮らしだして好きになりました。カフェなんかでサラダの上にトロトロの温かいヤギのチーズがのってるやつとかね、美味いですよね?

久田 ええ、美味しいですよね。誰かアドヴァイザーがいれば、もっと皆さんチーズの素晴らしさ、美味しい食べ方を知ることができるんですよね? 専門店に行けば、好みを言えばだいたい良いものをすすめてくださります。でも、なに食べても意外に美味しいです。
 

フランス最高位のチーズ熟成士、久田早苗 「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」

 
 もうちょっとチーズのことに詳しい方々に向けて何かアドバイスありますか?

久田 一番美味しい状態でチーズを食べようと思ったら、そのピークは一週間くらい。良いチーズは劣化するのもゆっくり、ゆるやかに低迷していくので、ピークが過ぎても大丈夫。でき上がってないものを選ぶよりは、でき上がったところから選んでいったらいいと思う。

 あの、よくやっちゃいけないけど、触ったりするじゃないですか。ぷよぷよって。

久田 触んなきゃわからないですよ。お店の人怒りますけど、真ん中押すのは良くない、お顔突っついてるんだから。でも横からとか、後ろからとかならいいですよ。

 毎日食べるものですからね。そうやって選ばないと美味しいものには出会えない。

久田 オープンで売ってるものだったら触れるんですから。ちょっとくらいは。

 日本のチーズも頑張っているけど、まだまだ本格的なものとはまるで違う域ですね? これがチーズなの? って思ってしまうこともあって、でもすごく頑張ってるから、応援しているんですけど、日本のチーズのレベルはどのくらい遅れていますか?

久田 日本はまだまだです。でも、おっしゃる通り、頑張ってますよ。この間も日本ナチュラルチーズコンテストで審査員になって呼ばれて行ってみたら、フレッシュは最高に美味しくなってるんです。だけど、熟成ものは、熟成士がいないですからね。だからもう3ヶ月くらいで、ハードなんかもね。こっちはコンテなんかだと12ヶ月とか24ヶ月熟成させるんだけど、そういう人がいないので、恐る恐る7ヶ月か8ヶ月で出しちゃうんですよ。そうするとものによっては味が全然乗ってないの。だから私はもうちょっと日本の人たちは熟成させることについて勉強するべきって思っています。

 久田さんが熟成士を育てることはできないんですか?

久田 だからね、いろいろ聞かれるんですけど、言ったって教えてあげられないの。すごいやる気があって、食いついてくれば何か教えてあげられるけど。私が行ってほんの1日2日じゃ伝えられないです。
 

フランス最高位のチーズ熟成士、久田早苗 「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」

 
 あと、熟成庫によっても違うわけですからね。

久田 そうです。だけど、熟成っていうものはおっかなくないんだよって知って欲しいですね。

 コンテの24ヶ月とかね、あれと赤ワインって本当に美味しいですよね。イタリアのパルミジャーノも好きで。

久田 じゃりじゃりしていて美味しいわ。タンパク質がアミノ酸に変化して美味しさの結晶となっているんです。

 こっちではチーズ屋さんに食べ頃のタイミングを訊ねて買いますよね。

久田 コンテやパルミジャーノなんかはできあがってますけどね。カマンベールやモンドールなんかはまさに、今日食べる、明日食べるって世界ですから。固いモンドール買って今日食べることなんてない。ある時、有名店にサンマルセランっていうチーズを買いに行って、私はどちらかというと固いのが好みで、キョロキョロ見てたら黒い色したのが積んであって、これなんですか? って聞いたらシェーブルのクラックビットよって言われて、あんまり汚れて汚い色みたいになっていて食べられるのかな? って思ったんですけど、一つ買って食べたら、なんて美味しいの!! って。ああ、これが熟成だって思って。こんな味を作れる人に私はなりたい! って。

 そのチーズは何処のチーズなんですか?

久田 ブルゴーニュです。ブルゴーニュのヤギ。クラックビット。それがマダム久田を熟成に導いたクラックビットってチーズ王国では売ってるんです。日本で3800円くらいかなり高いんですけど。それは本当に美味しいです。だいたいみなさんヤギに恐れをなすんですけど、いい熟成は臭くないですから。私はセミナーなんかしてもわざとみんなが嫌うものを出しちゃう。でも、みんなマダム久田のは食べられますって言ってくださいます。チーズは文化であり、歴史ですからね。

 フランス人の歴史と文化を思う存分食べたいですね。美味しい赤ワインと一緒に。連載をよろしくお願いいたします。じゃあ、せっかくここまで来たので、少し珍しいチーズを買って帰りますね。マダム久田のおすすめをご紹介ください。
 

フランス最高位のチーズ熟成士、久田早苗 「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」

Photography by Hitonari Tsuji

 
 

久田早苗(sanae hisada)プロフィール
チーズ熟成士。株式会社 久田 取締役 副社長。1985年、東京立川市にチーズ専門小売店「チーズ王国」1号店を開店。2004年にはパリ16区に「Fromagerie HISADA」(2004年)、2010年にはパリ1区に熟成チーズの販売とチーズカフェを併設したSalon du Fromage HISADAをオープンする。2008年、日本人で初めてのチーズ熟成士最高位の称号「Maitre Fromager」を受勲。2013年にはフランス共和国農事功労賞シュヴァリエ勲位、2015 年にはフランス共和国農事功労賞オフィシエ勲位を綬章。

 
 
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posted by 辻 仁成