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滞仏日記「息子の高校に、怒りの抗議文を送り付けた父ちゃん!ぷんぷんぷん」 Posted on 2022/06/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、息子はパリ市内のとあるA大学に合格した。ここは素晴らしい大学だから、ぼくは喜んでいる。
しかし、今、彼はもう一つ、B大学の補欠に選ばれている。超難関大学なのだ。
先々週、彼は1500番目の補欠だった。(その大学の受験生は一万人、可能性は37%)今日、彼は150番目につけた。じわじわと順位をあげている。
入れる可能性は、うーん、たぶん五分五分というところか。
固唾をのんで見守っている状況なのだ。(ダメだろうけど、ぎりぎりまで諦めたくない)
ところが、今日、夕飯の時間に息子がこんなことを言い出した。
「担任の先生がね、B大学は教育者が悪いんだってよ。A大学の方がいい」
この担任はA大学の出身なのである。
彼は可愛がってきた息子がA大学に合格したことを喜んでいる。それはとってもいいことだし、実は、息子をここまで導いて、励ましてくれたのもこの先生なのだ。
息子はこの教師の信奉者なのである。ものすごく影響を受けている。
彼は4つの大学に合格したが、他の3つはこの先生の意見を尊重し、蹴った。
ぼくもA大学は有名な国立大学だし、学費もかからないので、いいと思っているし、家計簿的にもありがたい。
しかし、フランス政治の中枢を担う多くの人々を輩出してきたB大学は「教育者が悪い」と片づけることが出来ないほどに素晴らしい大学だ。(この担任はやきもちを焼ているのかもしれない、と思った)
息子がB大学に落ちて、それを慰めるために、言うのであれば多少はわかるのだけど、・・・。



すべての大学の結果がわかる、7月13日までは、こういう中立性に欠いた発言をしてもらっては困る。
しかも、息子の高校は高い学費をとってB大学専用の予備校を開き、そこを目指す子供たちを集め、指導してきたのである。
息子がそこで学んでいるのを知っている担任が、B大学の批判をする理由がよくわからない。非常に偏った発言である。
そこでぼくは校長にメールを送り付けてやった
「もしも、息子が万が一、B大学に受かったあと、担任の先生の言葉を信じて、そこに行かないと言い出したら、あなたはどうお考えになりますか? ならばなぜB大学のための予備校を開催したり、私たちに勧めたのでしょうか? ただ、その担任と息子の関係は尊重したいので、校長先生がうちの息子にB大学が素晴らしい大学であることを説得して頂くことは可能でしょうか? 一人の人間の一生を左右する大事な場面なので、慎重に生徒を導いてやってください。(抜粋)」

滞仏日記「息子の高校に、怒りの抗議文を送り付けた父ちゃん!ぷんぷんぷん」



きっとこの担任はよっぽど、母校愛があるのだろう。
出来れば教え子を自分の後輩にしたかったのであろう。
もしも、ぼくが直接的に息子の担任に抗議をすると、またも、息子と大喧嘩になるかもしれない。
しかし、ぼくも大学で教える立場にあるので、今回の件だけは看過するわけにはいかなった。大事な息子の未来に影響を与えかねない問題だからである。
この担任の意見に関係なく、息子がどうしてもA大学に行きたいという強い意志があるのであれば、もちろん、ぼくも反対はしない。
けれども、「教育者がよくない」ということをその大学で学んでもいない人間が軽々しく口にするのは大きな間違いだ。
教えたこともない人間に「あの先生はあかん」と批判されたら腹が立つだろう、なんでこんなことが想像できないのか。
親が子と長い間、進学問題で言い合いをしてきたこと、をその担任だって、想像はつくはず・・・。どこの家庭も進学に関しては頭を抱えているのである。
簡単に言うと、ぼくはこの教育者に対して、激怒しているのだ。



しかし、ぼくは息子の前で、その教師の悪口は言わなかった。
なぜならば、息子はその先生を信じて、彼に励まされて、この苦しい局面を乗り切って来たからだ。(その時点では、親として、その先生にとっても感謝をしていた)
だから、学校に乗り込んでこの人を批判することはしない。
でも、彼の意見だけを信じて、大学を決められても親としては困る。そこで、校長先生から、息子を説得してもらいたかった。
校長はたびたび、この日記にも登場しているが、ひじょうに怖い先生で、鬼の教育者でもある。息子は怖がっているが、一目置いているし、その怖い校長も、なぜか、息子のことは認めている。
彼女からB大学のすばらしさを息子に語ってもらうのが一番であろう。難しい年ごろなのだ、激怒したけれど、ぼくは珍しく我慢して席を立つことにした・・・。
でも、ぷんぷん。

つづく。

今日も、読んでくださってありがとう。
いやァ、実に腹が立ったので抗議文のようなものを仏語で送り付けてやったけど、返事はないと思います。笑。なぜなら、息子はもう大学に合格しているし、成人しているので、自分で判断をしないとならない年齢でもあるから・・・。こっちの校長が、親に言われて、はいはい、と子供に説明をしたりは、しないでしょうから。笑。分かっていて書いたのです。一応、言うべきことを言うのがこの国では大事だからです。
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