JINSEI STORIES
リサイクル日記「父ちゃん出張料理人、フルコースの出前、いざ、いざ、いざ!」 Posted on 2023/05/08 辻 仁成 作家 パリ
※ 古い日記を掘り起こし、まだ読んでない皆さんに、父ちゃんのある時代の「大奮闘」をお届けする、リサイクル日記、今日は2022年の春におこなされた、父ちゃんの出張料理人日記になります。シェフ父ちゃんの大活躍、おたのしみください。
某月某日、ということで、今日は友人のシャンパーニュのメゾン、サロン社の社長、ディディエさんの家に招かれ、招かれと言っても、料理人として招かれ、笑、フルコースの料理を創作する日なのであった~。
日本の味噌に魅せられたディディエ、
「ツジさーん、シャンパーニュと味噌って、相性がいいと思うんだ」
と言い出したので、ぼくが味噌を手作りしていると言ったら、話がとんとんとんと発展してしまい、な、なんと父ちゃんがディディエ家で出張料理人をすることに・・・。あはは。狙い通りじゃ、←狙っとったんかい!!!
なんでもやるのは分かっていたが、図々しいにもほどがある。
と思いつつも「人生とは一度キリの大いなる砂場」というぼくの哲学のもと、絶対断らないのが、無謀ではあるが、父ちゃんのいいところなのであーる。
ということで、今日、父ちゃんがふるまう味噌尽くしフルコースのメニューから、ご紹介いたしましょう。
アミューズ、茄子の田楽、フヌイユとサーモンのマリネ添え。
前菜、父ちゃん自慢の夏野菜のフランス風トンジール。
メイン1、マグレ・ド・カナール(鴨の胸肉)のクルミと味噌ダレがけ。
メイン2、アンガス牛のバベット肉の48時間宮崎風味噌漬けステーキ。
デザート、こちらはディディエの担当。さくらんぼのクラフティらしい。
出張料理人はたまにやるのだけど、一番、難しいのは、人の家のキッチンを使うこと。
つまり、キッチンがアウエー(away)なので、そこに慣れるのがまず、第一難関。
もちろん、お招きされて、適当によその家の冷蔵庫のもので作るとかいうのも得意だけれど、自分の思い描くイメージ通りに完璧に作るためには、そのための諸準備というのが大切になる。
なので、ある程度の料理を自宅でやって、七部ぐらい出来たものを敵地に持ち込み、料理する方が確実となる。
出張料理人にとって、この仕込みこそ勝利の道なのであーる。あはは。←何者!?
ということで、茄子田楽は白味噌のソースを、トンジールに関してはベースの部分は家で作ってしまい、野菜などは現地であわてないように。フヌイユも塩揉みのような基本作業は終わらせておくと、慌てないで済む。
たとえばジロール茸などは砂の汚れを落とすなどの細かい作業は前もって・・・。
肉類は家を出る前に焼いてしまい、アルミホイルに包んでおく。肉が休むことで旨味が出るし、出てきた肉汁はソースに加えることが出来るので一石二鳥という案配なのだ。
※ こんな風に作ったるぞーというイメージ・メモなり。どや顔。笑。
ディディエのアパルトマンは最上階、エッフェル塔を真正面に見据える一等地にあった。
仕込みが終わっているので、歓談をし、窓辺で乾杯、笑、ちょっと落ち着いてから、料理に着手~。
今回はもちろん、NHKの「ボンジュール、夏ごはん」のカメラマンを同行させたので、(さすがに料理をしながらの自撮りは無理)、張り付くカメラに、父ちゃんも気が引き締まる。
ディディエたちとの歓談が終わったら、すぐにキッチンに行き、包丁や調味料、スプーンやフォークの位置、どんなお皿があるのかなどをチェック。
前もって、簡単なスケッチを作っておくと、現場であわてず、イメージの順番が描けるので大切である。←小説家とは思えない、この、プロ意識、あはは、何事も徹底的に頑張ってしまう父ちゃんなのである。
以前に、中村江里子さんのところでも簡単なランチコースを作ったことがあったが、今回はディナーなので、より複雑な行程となる。
カメラマンがカメラを持って近づいて来ると、父ちゃん、さりげなく、料理研究家のような顔でポーズ。カメラマンが離れると、ふーと力を抜いて、いつもの父ちゃんに。
62歳は今日も全力で生きているのであった~。
使用するお皿が決まったら、カウンターに並べておくと便利である。
盛り付ける手順や、飾りつけのイメージ、ようはプレゼンテーションが現地での一番大事な仕事ということになる。
人のキッチンなので、汚く使うことも出来ないので、片づけながら料理を捌いていくことになる。作ったら自分で運び、ゲストと歓談をし、カメラにVサインを向け、急いで戻って、料理、の繰り返しであった。
大事なことだが、ゲストを喜ばせるためにも、自分もちょっと一緒に食べたりしないとならないのが、出張料理人の大変なところなのであーる。
ディディエは、世界的なシャンパーニュ「サロン」の社長だけあって、食べ物にはうるさい。そして味噌とシャンパーニュをあわせる、いわゆる最高のマリアージュをぼくは依頼されたわけだから、その責任も重いのであった。笑。
彼をうならせたい、日本人ロッカーの意地がさく裂なのであった~。なんの意地?
というわけで、息子飯を作るようなわけにはいかないので、繊細な盛り付け&プレゼンタシヨンが重要となる。
小さめに盛り付け、美しく飾りつけ、アート感を最大限、創出してやったのであった。
今日は、ディディエのほかに、アルゼンチンワインの作り手であるアリエル氏とディディエの会社の広報担当のマダム・ディリンジャの三人がゲストだった。
料理を出すたびに、彼らの顔に笑顔が広がっていった。よっしゃ。
大成功の夜であった。
出張料理人の仕事が無事に終わり、ぼくはほっと胸を撫でおろすのであった。
「人生とは一度キリの大いなる砂場」なのだからこそ、趣味こそ真剣に命がけにやるのが父ちゃん流なのである。
さてと、帰って父ちゃんはインスタントラーメンでもすするかな、あはは。
つづく。
ということで今日も読んでくださり、ありがとうございます。
今年は、このような出張の仕事があと、2回くらい決まっているのです。ようは、ライブみたいなものだから、趣味としては実に贅沢なもので、食べることよりも、人を喜ばせ感動させたいという父ちゃんの奉仕精神がさく裂するこの遊び、今後も続けてまいりたいと思いまする~。日本でも機会があれば・・・。
さて、お知らせですが、NHKの新作「ボンジュール・春ごはん」近づいてまいりました。【BSP-4K同時】(本放送)6/17(金)22:00~22:59
HPも新規開設されたようです。
そしてその、一週間前には、「冬ごはん」の再放送もあります。
<再放送>
「ボンジュール!辻仁成の冬のパリごはん」
【BSP-4K同時】 (再放送)6/10(金)22:00~22:59
そして、父ちゃんの日本公演、8月8日の大阪ビルボードと12日の横浜ビルボード公演のチケット一般発売が13日に迫ってきました。
そして、6月30日はマガジンハウスから「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」が発売になります。全国書店などでお買い求めください。
さらに、
6月26日に、地球カレッジ、前期エッセイ教室の最終回、総まとめ編です。
エッセイを書くのが大好きな人、文章家を目指しているあなた、ブログをやっている皆さん、ぜひ、ご参加ください。課題もあります。
詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリックください。