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退屈日記「しょんぼり父ちゃんが、パワー全開父ちゃんに復活する」 Posted on 2022/06/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、静かすぎる週末である。
三四郎はジュリアの家に預けてるので、朝、起きても誰もいない。
いや、息子は自分の部屋にいるのだろうが、大学生が決定した瞬間から、すでに、心ここにあらず、まもなく離陸する戦闘機という感じだ。
三四郎に振り回されていたのに、三日もサンシーがいないと、生活のリズムがめっちゃくるって、どうにもならない。
まず、朝の散歩もないので、ぐずぐずとベッドから出ない。
つまり、カフェにも行かないし、ということは朝のコーヒーもないのだ、笑。
それが一日続くかと思うと、寂しいじゃ、あ~りませんか。
それに三四郎はジュリアのことが大好きだから、明日、迎えに行って、そっぽむかれたら、どうなる? かなり衝撃が走ることになる。
夏のあいだ、ジュリアの家の子になって、その後、こんなむさ苦しいおやじの家におとなしく戻ってきてくれるだろうか、と考えたら、なんだか、しょんぼり。
めっちゃ、しょんぼりな土曜日、ジュリアから幸福そうな子犬の写真と動画が届いた。
動画は他の犬たちとジュリアの家のテラスを走り回っている楽しそうな三四郎だった・・・。しょんぼり。

退屈日記「しょんぼり父ちゃんが、パワー全開父ちゃんに復活する」

※ ジュリアの家のソファで借りてきた子犬状態の三四郎…。この後、暴れまわった、ということです。夜はジュリアのベッドで一緒に寝ているということです。しょんぼり。



さて、でも、昨日のマレ地区でのライブは大盛況で、夏の大阪と横浜のビルボードライブの前哨戦としては、いい出来栄えだった。
マレ地区はパリの中でもとんがった若者が集まる活気のある自由区で、石を投げればアーティストにあたるようなところ。
そのど真ん中にあるアート系のティーラウンジで開催された、かなりカジュアルなライブで、一切の告知をせずに挑んだのだけど、地元の人たちの口コミと、通りかかった人が入って来て、いっぱいになった。
つまり、ぼくのことを全く知らない方々を前に、半ば路上ライブのような緊張感あふれるコンサートだったのだ。

退屈日記「しょんぼり父ちゃんが、パワー全開父ちゃんに復活する」

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顔見知りは一人もいないし、向こうもぼくのことを何も知らない。
そういう繋がりのライブだった。
でも、だんだん、人が増えていって最後は満員になり、ライブが終わったら、みんなが近づいて来てくれて、英語とか仏語とか日本語で声をかけられた。
中にはニューヨークからきた旅行者で、「明日帰るのだけど、あなたに会えてよかった」と言い残してくれたカップルもいた。音楽関係者らしい。スタジオを持っているとムッシュの方が言っていた。
ぼくはあえて、日本語の歌を7割くらい歌った。
昔の日本のアーティストはみんな英語で勝負していたけど、今はもうそういう時代じゃない。
言語じゃなく、音楽を届ける時代なのかな。
向こうも日本語の響きを聞きたがっている。日本を知りたがっている。(荒城の月も歌ったよ)
でも、時々、英語曲、フランス語曲を織り交ぜておいた。
意外なことに「ラヴィアンローズ」は一番拍手が大きかった。「パリの空の下で」も受けた。日本人が歌う、バラ色の人生には違う意味が加味されたのであろう。
ぼくの曲だと、「孤独にラッタッタ」が一番受けた。
歌詞の説明が上手に出来なかったけれど、「月の歌だよ、人生を月に重ねているんだ」とお客さんにちょっと歌詞の説明をしたのがよかったみたい。
バイオリンのマリオとベースのホセ・健太郎が素晴らしい掛け合いを演じてくれたので、盛り上がった。お馴染みピエールが撮影をしてくれたし、香織さんが完全録音をしてくれたので、いつか、時間が出来たら、YouTubeに少しずつアップしていきたい。
今は時間がないから、夏の後かな・・・。

退屈日記「しょんぼり父ちゃんが、パワー全開父ちゃんに復活する」

でも、一部はNHK「ボンジュール、夏ごはん」の中に、入るかもしれない。
マレ地区の散策もやったから、生き生きしたパリの、普段あんまり観光客の知らない若い人たちの街をぼくが案内したい、歌つきで。
出来れば、ディレクターの義和さんには、ラッタッタを番組でフルで放映してもらいたい。笑。
「音楽が戦争の時代に本当に必要なんだ」とぼくが英語で言ったら、みんな拍手をしてくれたよ。戦争に負けないために、ぼくらは音楽で結束し、音楽で武装し、音楽で世界を守る必要があるんだ。マジです。

退屈日記「しょんぼり父ちゃんが、パワー全開父ちゃんに復活する」



退屈日記「しょんぼり父ちゃんが、パワー全開父ちゃんに復活する」

三四郎がいなくて、しょんぼりな、父ちゃんだけど、ライブを通して、やっぱり知らない人たちと触れ合うことが出来ることの幸せ、62歳だけど、その瞬間は生きた心地になった。
ぼくのライブに来てくれた人たちは、老若男女問わず、人種問わず、性別問わず、20代からぼくくらいの年齢の人まで、ばらばらで自由で、最高だった。
ぼくは82歳になっても、ハンチングを目深にかぶって、きっと、マイクスタンドの前にたち、詩を朗読するように歌っている。
ぼくはね、皆さん、吟遊詩人なんだよ、知らなかったでしょ? あはは。
ライブって、生きるって、ことだから、演奏や歌だけのショーじゃない。生きてるよ、ってことが大事だ。そうだ、生きたい。もっと、生き生きと生きたい。
笑いもおき、涙も流れるステージに生きたい。ほんとうです。
以上、しょうんぼりな父ちゃんはこうやって、自分を元気にさせる天才なのであった。

つづく。

ということで、今日も読んでくれてありがとう。
みなさんが、幸せな週末でありますように、ぼくは幸せです。立派な息子とかわいい三四郎がいてくれるから・・・。
さて、まずは、ライブのお知らせ。
8月8日、大阪でライブやります。12日は横浜です。いつか、北海道でも、九州でも、四国でもライブやりたいけど、熊本とか、八戸とか、仙台とか、高知とか・・・。まずは、ビルボード、集合ください。
6月17日、今やシリーズとなった、笑、「ボンジュール、辻仁成の夏ごはん」お届けします。昨日のマレ地区のゆるーい夏感、最高なので、西山義和ディレクターに「たくさんライブ映像使ってね」、とみなさん、連絡お願いします。視聴者の声に義和は圧倒的に弱いので、笑。
そして、写真を御覧ください。出来ました!!!
6月30日に、「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」が刊行されます。大学に合格した日記が入らないのが超残念、大島さん(担当編集者)「祝、息子大学合格記念」というのを帯びの後ろに小さくいれますか? 笑。私物化するな? あはは。
そして、一番大事なのは、6月26日の地球カレッジ、エッセイ教室です。前期のエッセイ教室は最終回になるので、超、まとめ編として、これ一回でわかる、エッセイの書き方を講義させてもらいますから、こちらも集合ください。
詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリックください。
しょんぼりな父ちゃんでしたが、日記を書くと元気が出る。マジで、あはは。

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