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パリ最新情報「フランス、アニマルウェルフェアに関する食品ラベルを本格化へ」 Posted on 2022/06/02 Design Stories
アニマルウェルフェア、という言葉がフランスで盛んに叫ばれるようになった。
動物たちは生まれてから死ぬまで、その動物本来の行動をとることができ、幸福(bien-être)な状態でなければならないという考え方だ。
当然これは家畜にも当てはまる。彼らを「感受性のある存在」と捉え、ストレスや苦痛の少ない飼育環境を与えようという動きが、フランスで活発化している。
私たちが日ごろ口にする卵や肉は、どのように生産されているのだろうか。
伸び伸びとした環境で育ったものなのか、それとも劣悪な環境で苦痛を感じながら育ったものなのか。口に入れるものだからこそ知りたいし、消費者としても知る権利がある。
フランスでそれが明確に表示されているのが、鶏肉のラベルだ。
アニマルウェルフェア・レベルとして、鶏肉のパッケージに記載されている(写真、価格表示の上部に記載)。これは鶏の全生涯(出生、飼育、収集、輸送、食肉処理)を考慮したもので、A~Eの5つのステージで評価される。
現在フランスの養鶏農家約3,000軒が参加しており、7つの大手スーパーマーケットで見つけることができる。
このラベリングシステムは、2017年にフランスで始まった。
近年では国外にも広まっており、欧州委員会は2023年末までに加盟国内でラベル制度を導入することを発表した。動物の飼育、輸送、食肉処理の条件に関して、透明性を高める目的があるという。
では値段はラベル表示のないものより高いのかというと、そんなことはない。
フランスでは、政府の助成金と畜産農家の努力により価格差がほぼなくなっており、どれを選択するかは消費者の完全なる自由である。
ただ心理的インパクトは強い。価格がさほど変わらないのであれば、ほとんどの人がより良いものを手に入れようとするだろう。
フランスは、こうした食品表示分野で欧州をリードする存在になりつつある。
去る5月には、豚肉にもアニマルウェルフェアのラベルが導入されることが決定した。鶏肉と同じく、豚の全生涯について考慮したA~Eの評価をパッケージに記載するという。2022年の末ごろから販売が予定されている。
すべての家畜に、立つ、寝る、向きを変える、身繕いする、手足を伸ばす自由を。
アニマルウェルフェアは、家畜にストレスを与えず、行動要求が満たされた健康的な生活ができる飼育方法を目指す。
なお、フランスでは効率性より動物の個性を重視する生産者が増えているという。
動物の幸せを追求するアニマルウェルフェアが、同時に生産者の尊厳にもつながっていることは重要な視点だ。
「結局は食べられる運命にある」と言ってしまえばそこで議論は終わってしまうが、少なくとも消費者が生産者を「向こう側」として見る風潮は終わりが近づいている。
近年ではスターバックスやマクドナルドなど、国際的企業も次々とアニマルウェルフェア対応を表明し始めた。パリ五輪ではアスリートたちに提供される食材にも適用される。
このアニマルウェルフェアが次なるエシカル消費になるのか。フランスは欧州ならびに世界のイニシアチブを取っていくことになるだろう。(内)