JINSEI STORIES
滞仏日記「息子がよれよれの黒ずんだ汚いTシャツ着ていたので、可哀想になり」 Posted on 2022/05/20 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、猛暑である。
この季節にしては異常な暑さが続いており、三四郎がぐったり、動かない。
30度前後の猛暑なので、人間もだけど、毛皮を着ているような犬たちにはキツイ日々のようだ。ぐったり座り込む三四郎。横を通る年配のマダムたちから、
「ムッシュ、その子は暑いのよ。日陰を歩いた方がいいわよ」
と次々と忠告を受けてしまった。
マーシャルの八百屋に顔を出したら、アスパラ・ソバージュがあったので買った。
アスパラガスとは同じユリ科だが、実はアスパラガス属ではなく、オオアマナ族の多年草で、アスパラガスではない。
ねっとりとした納豆感があり、実にうまい。ビタミンが豊富で美人になる。笑。
これが出回るこの季節は必ず買ってパスタにする。とろみのあるアスパラソバージュのパスタは実にうまい。今日は赤い新大蒜も買った。
「ムッシュ・ツジー、明日、うちでオマール海老とシャンパンを用意しているからね。忘れてないよね、まさか」
とマーシャルに言われた。おっと、そうだった。フライデーナイトパーティであった。
「もちろん。シャンパンは持っていくよ」
すっかり、忘れていた。いつものことである。
ついでに家に帰ってメールをチェックしたら、LEE編集部の神野さんから「ZOOMに入ってライターさんとお待ちしていますが、何かトラブルですか? 大丈夫ですか?」
とメールが・・・。しまった。
今日はLEEの取材日だった。30分過ぎている・・・。まだ、いるだろうか・・・。
買い物帰りだったからそのまま、携帯を取り出し、何食わぬ顔で繋いだ。
「いやあ、なんか接続がうまく出来なくって~。手こずりました~、年とるとやばいですね~」
と自分のことが信じられないような嘘をついてしまった。(嘘ついたのに、ここに書いとるやないか!笑。ええい、どうにでもなれ~)
最近、この手の取材はすべてお断りしているのだけど、新刊本の取材も半分、ということで引き受けたのだが、え、だからって、忘れていたわけではなく、アランドロンじゃないのだけど、太陽がまぶしくって。猛暑のせいです。ほんとうです。三四郎が動かないのがいけないのであーる。
一生懸命、取材に応じ、ZOOMを切ろうとしていると、神野さん、
「辻さん、8月のライブ、決定ですか? 母が大ファンで一緒に行きます」
と言われ、思わず、
「わ、嬉しい。ところで、お母さんは何歳ですか?」
と失礼なことを聞いてしまう、父ちゃん。リサーチ、リサーチ。
「68歳です」
だよね。神野さん、かなり若く見えるけど、かなり経験のあるしっかりされた編集者さんなんだもの、お母さん、ぼくより年上で当たり前だのクラッカーだね。(古いギャグ)
「最近、年上に人気なんです。マダムキラーなの」
と、わけのわからないことを言って、和やかに終了した取材であった。神野さんのお母さん、ライブ、お待ちしております。
昼を大幅に過ぎたので、取材後、慌ててランチを作った父ちゃんであった。
アスパラソバージュは茹でずに、そのままガーリックと生唐辛子とアンチョビで炒め、茹でたパスタを絡め、乳化させる。
新大蒜は皮もそのまま小さくカットしてぶちこむ。
とろみの利いたアスパラソバージュ・ペペロンチーノなのだ。ひゃあ、美味そう!!!
「ごはんだよ~」
「はーい」
のそのそとやってきた息子が着ているTシャツに目が留まった。薄汚れているし、なんか、よれよれなのである。え、模様? いや、汚れだ。
うわ、なんて、汚いTシャツ着てるんだよ。
襟首とか、黒ずんでいるじゃないか、ちょっと、みすぼらしいぞ。
お小遣いはあげているが、足りないのだろう。高校三年生にもなると、交際費がかかる。
そういえば、今、自分のアルバムを作ってると言ってたっけ。
彼が自分で権利を持つために、サウンドメーカーらを数人雇い、支払っている、と言っていた。
一人、50ユーロ(7000円くらい)、のギャラだそうだ。
コツコツと貯金してきたお小遣いを制作費にあてている。
彼は18歳、成人なのだから、自分で思うように自分のお金を使う権利がある。でも、小遣いはたいして与えてないので、その分、何かを我慢しないとならない・・・。
「儲かるのか?」
と訊いたら、10万ダウンロードで黒字になる、と言っていた。でも、そのしわ寄せが服に及んでいるのかな、と思った。ちょっと可哀想だ。
受験も頑張ったし、自分の世界も自力で構築している。ここは、応援しなきゃ、と思ったので、食後、ぼくは夏服を買いに、三四郎とデパートを目指した。
ついでに自分の夏服も買えばいいしね・・・。
NHKの「ボンジュール、パリごはん」に着る服がないのだ。
コロナ禍だったし、買いに行く時間もない。マネージメント会社は日本。そういえば、この番組、スタイリストさんとかメイクさんとかいないのである。ゼロ。
皆さんは、お気づきかと思うが、全部、撮影だけじゃなく、自分でやっているのだ。
自撮りする前に、鏡に向かって髪の毛をとかしているのである。
一人タイタン、である。タイタン、タイタン、ロンリー・タイターン!
ということでいろいろと悩んだけど、ZARAに入った。
今頃の若者が着る服はぼくには分からないので、無地で、マークとか付いてない、なんにでも応用が出来る、それほど高くもないけどいい服がいいだろう、と思って選んだ。
二時間近く、うろうろして、Tシャツ3枚、麻のシャツ1枚、サマートレーナー1着、白いジージャンを1着、買った。
「いやだよ、こんなの」
と拒否されたら、自分が着ればいいかな、ということで、試着も父ちゃんがやった。父ちゃんより、一回り大きいので、だいたいサイズ感はわかっている。顔はぼくの若い頃にくりそつなので、鏡に映る息子をイメージしながら、我が子のために、・・・。
家に帰り、息子の部屋をノックし、
「ほら、これ、買ってきたぞ。そのTシャツ、汚すぎるから、もう捨てなさい。夏はこれで乗り切れ」
「わ、ありがとう」
素直に喜んでくれた息子くんであった。三四郎が破壊した彼のヘッドホンもAmazonに注文をしてやった。明日には届く。
三四郎並みに世話がかかるけど、でも、我が子なのだから、当たり前だのクラッカー。古い!!! 笑。
ということで、何にも事件とかなかったけれど、それなりにいい一日なのであった。
肉屋のロジェが今日誕生日、61歳になりましたよ。
帰り道につかまり、お茶のもう、つじちゃん、と言われた、父ちゃんなのであった。
つづく。
今日も読んでくださり、ありがとうございます。
三四郎のドッグシッターさんが見つかりました。日本人でDSのライターもたまにやっている、マントさんです。元ご主人は仏人。お子さんたちは社会人。同じミニチュアダックスを昔、飼っていたのだそうで、心強い援軍が現れました。父ちゃんが忙しい時は、散歩とか連れてってくれるというので、助かります。持つべき友は日本人ですね。
ということで、お知らせです。
辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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【ビルボードライブ大阪】(1日2回公演)
8/8(月)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ大阪: 06-6342-7722
〒530-0001大阪市北区梅田2丁目2番22号 ハービスPLAZA ENT B2
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【ビルボードライブ横浜】(1日2回公演)
8/12(金)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ横浜: 0570-05-6565
〒231-0003 神奈川県横浜市中区北仲通5 丁目57 番地2 KITANAKA BRICK&WHITE 1F
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一般予約受付開始=6/13(月)12:00正午より