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パリ最新情報「文化や歴史が見えてくる!美しい宮殿、パリ造幣局での幣特別展。」 Posted on 2022/05/13
パリの真ん中、セーヌ川に面した864年創業のLa monnaie de Paris、造幣局。
フランス最古の国家機関のひとつで、現在でも金属のアトリエ、造幣局として運営が続けられているが、ここが優美な美術館として、私たちに扉を開いていることを知る人は案外少ない。
建物は18世紀に当時人気の建築家、芸術家が集められて造られた。
その豪奢な内装を存分に活かした特別展MONNAIE &MERVEILLE(英語だと“マネー&ワンダー展”、日本語にあえて訳せば “貨幣 & 素敵な不思議“だろうか )が、5月12日から開催されている。
カードやネットを通し、コードで物が買え旅ができる、貨幣が実態をもたないものになっている今日この頃。
数十年前までの貨幣やそのシステムが、ひとつの時代示すものとなり、今、貨幣の定義が変わり始めている。
今のように“数字”としてだけで存在していたのではない「物体のお金」は 、経済というワールドでの役割から離れてなお、人間の暮らしに密着し、文化、芸術、社会生活に関わりもっていた。
それを具体的に見せてくれる、「お金」に対するイメージが変わる展覧会である。
例えば「物体のお金」は、身を守るものとして、様々な国で使われている。
中国では子供のおんぶ紐にお金を結ぶ。
日本のお守りにだって五円玉が入っていたりする。
アフリカでは子安貝が貨幣として使われていたが、なぜ子安貝なのかといえば、この形が女性器と似ていることから家族を増やし安泰にするというお守りの役目も果たすからという。
見えない何かと繋がるためにも私たちはお金を使う。
アメリカ映画などにもよく出てくるタロットをひく人形の自動販売機は、ある時代にとても人気だった。
お賽銭も(前向きは)しかり。
三途の川を渡るために、お棺にお金を入れる。
ここにまた来られるようにと、泉や池にお金を投げる風習も、様々な国にある。
大陸や国によって、貨幣の形やマテリアルが違うのは興味深い。
金、銀、鉄、羽、貝…。
違いがあるからこそ、過去でも現在でも、ある国の貨幣が他国ではアクセサリーになったり、装飾品になったりもする。
そういえば日本でも1ドルコインのアクセサリーが若者に流行った時代があった。
世界から集められた100以上の様々な形のそんな貨幣の中でも、手前味噌とはいえ(もしくわ自分が長く異国に住んでいるからか)我が国のその昔の大判は洗礼されて美しく、目を引く。
「物体のお金」は、その国を表し、その地を表し、その時代を表す。
他国を旅する時、私たちはその国のお金を両替という形で買う。
そしてその国のお金に少し戸惑いながら、その国の貨幣制度に従う。
そして残ったお金は旅から戻って、懐かしい生き生きとした思い出にさえなる。
遊牧民のお金にも展覧会は触れている。
彼らにとっての貨幣とは、その定義が私たちとは全く違う。
生きる価値感がまったく違うことが、お金を通して理解できる。
塩が貨幣の代わりだった時代があった。
英語のサラリー、フランス後のサレールの所以が、ソルト、セル=塩からきているという説もある。
そんな時代の塩の塊の展示は、塩が今までになく貴重なものに見えてくる。
確かに塩は金魂より人間に不可欠だ。
フランスと違い、日本ではまだまだ現金をもつ習慣があるようだ。
パリでは100ユーロの現金を持ち歩く人はそういないが、日本ではお財布に2、3万円くらい入っていても普通だろう。
だからパリに来てもお財布に現金を入れる習慣がそのままで、スリの標的になってしまう。
旅をすると実感する、お金を通して見えるその地の風習、治安というものもある。「郷に入れば郷に従え」で、日本の皆様はパリで現金をできるだけ持ち歩きませんよう。
展覧会は9月25日まで。
この新古典派主義の館には星付きレストラン、ギー・サボワが入っており、美食をセーヌ川を前にしたパリの美しい景色と共に楽しめる。
美術館見学をして、レストランに流れるという(現金を持たず!)、とっておきの日の計画にも、良さそうだ。(ア)