JINSEI STORIES
退屈日記「急な夕食会にどう対応するか、豪華に見せる父ちゃんの知恵、笑」 Posted on 2022/05/04 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ということで、昨日は、あまりに不意に来客があり、どたばたした父ちゃんであった。
部屋も片付けないとならない、買い物から料理までしないとならない。
だいたい、いつも、冷蔵庫には肉か魚の漬けものがなにがしか用意してあるので、そういうものを手際よく利用し、小細工の利いたものと、大胆な煮物などで腹を膨らませる二頭立ての作戦でいくことにした。
フランスの場合、まず、ゲストと食前酒を酌み交わす習慣があり、これが結構、長い。
家庭によってだけど、過去の20年間でこのアペロタイムが2時間を超えた例が数件ある。笑。
クラッカーやサラミとかで胃を膨らませてから、じゃあ、「ア・ターブル(さ、席について)」となり、鶏肉が、目の前にぼんと出されて、終わり、みたいな。笑。
こういう気楽な夕食会がほとんどだったりするのだ。フルコース、きちんと出るような夕食会に、ぼくは招かれたことがない。ぼくだけなら、すんません。
フランスのおもてなしは結構素っ気ないものが多いので、だんだん慣れてきた父ちゃんも、必要以上のことはしないようになった。
とはいえ、凄く大事な仲間たちなので、美味しい日本の家庭料理をふるまいたい、という思いもあり、最低限だけど、最大限のおもてなしを心掛ける。
そこで、料理の流れを、
1. アミューズ
2. 前菜盛り合わせ
3. メイン
と三つに大きく振り分けたのであった。
アミューズはだいたい、シャンパーニュとかカクテルでもてなすので、そういうものにあう爽やかな一口で食べられる簡単なおつまみが喜ばれる。
窓をあけて、風を通し、ソファにゆったりと座って頂き、ラディ・ブール(ラディッシュ&バター)というフランスの伝統的なおつまみを、父ちゃん風にアレンジして出してみた。
通常、フランス人が良く食べるこのラディ・ブールは、ただ、ラディッシュにバターを塗って食べる超シンプルな一品なのだけど、この組み合わせが侮るなかれ、最高に美味い。
そして、シャンパーニュなど泡ものとの食べ合わせが抜群なのである。
ラディッシュのほのかな苦みと触感に、バターの濃厚さが加わることで、独特の味を引き立てるのである。
これをアレンジし、先日、マーシャルの八百屋で購入したライユ・ローズ(赤ニンニク、中が柔らかい)を使って、オリーブオイル揚げにした。それを潰したものとバターをハンドミキサーで攪拌し、そのペーストをパン・ド・カンパーニュに塗って、その上にスライスしたラディッシュをかわいく盛り付け、フラードセルと黒コショウで味付けしたものである。
手が込んでいるし、見た感じも可愛い食前酒のお供、これはぜひ、マネしてもらいたい。
「うわ、美味しい」
と頬張ったアドリアンの第一声。
父ちゃん、ほっと胸を撫でおろした瞬間であった。
で、ゲストが寛いでいる間に、キッチンを往復し、前菜を用意するのだけど、お皿にもって、取り皿で食べてもらうというのは、出す方も面倒くさいし、片づけるのが一苦労。
ここはおせちなどに使う重箱を利用させてもらった。
筑前煮、サーモンの味噌漬け、太巻き(卵焼きとアボカドとスモークサーモンの)、それとフェンネルのサラダ、おしんこなどを添えたら、なんとか絵になった。
「アッターブル!」
席に着く前に各自の前においておく、重箱を覗いた瞬間の彼らの驚きは主催者を喜ばせる。
「わあ、見事だわ」
とカリンヌ。
一気に目の前に見せることで、ゲストが驚くという作戦である。
どれも、典型的な日本の家庭料理だけど、こういう重箱にいれることで見栄えがよくなり、高級感が増す。
味噌漬けは明日が食べごろなのだけど、まァ、しょうがない。
巻きずしはフランス人が大好きなのだけど、太巻きというのはなかなか彼らも食べる機会がないので、面白がられた。
鱒の卵を豪華に盛り付け、さらに見栄えもよくなった。
アドリアン、一瞬でたいらげ、太巻きをお替りしはじめる・・・。
「もうちょっと、この美味しいものを食べたいなァ」
なごんだ。
※ このカツカレーは小食のカリンヌ用に、ちいさめポーション! アドリアンのはこれの三倍超!!!
※ 葉巻が欠かせない、アドリアン。
ここでぼくのような小食の人間はお腹がいっぱいになるのだけど、100キロを超えるアドリアンはここからが勝負となる。
ちゃちゃっと揚げたとんかつにカレーを載せて、どんと出す。とどめを刺す感じだ。
奥さんのカリンヌにはちょっと重すぎるので、最初に「食べられるだろう」分量を聞いて、ゲストにあわせてスマートに加減する。
デザートはコーヒーとマカロン、めっちゃフランスで締めくくった晩餐会であった。
ぼくらは戦争の行方や、気が早いが、5年後のフランスの次の大統領が誰になるのか、など、よもやま話で盛り上がり、会はお開きとなった。
大騒ぎすることもなく、呑みすぎることもなく・・・?。
いや、赤ワインのマグナムが一本、普通の赤が一本、シャンパーニュが一本、白ワインが一本、空いたので、よく飲むなァ、と感心をした父ちゃんであった。
そのすべてのお酒と料理が、街の哲学者アドリアンの胃袋へと消えたのである。
「ところで、あなたは今、何歳なの?」
「わたしかね、今年、75歳になった。まだ、ひよっこだよ」
あはは・・・。
今日から、締め切りシーズン到来となるので、ちょっと忙しくなる。一時の気晴らしになりました。
つづく。
※ アルゼンチンのワイン。
ということで、今日も、読んでくださり、ありがとうございます~。
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辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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