JINSEI STORIES
滞仏日記「かまってちゃん全開の三四郎に、かっちーん、はじまる」 Posted on 2022/05/03 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、「まだ、赤ちゃんだからしょうがないよ」
とぼくは息子にこの3か月間、言い続けてきた。
「もうちょっとで成犬になるから、我慢しようよ」
「でも、毎日、けっこう大変だよね」
「まぁ、もうちょっと様子を見よう」
とは言ったものの、三四郎の「かまって、かまって」は終わりがない。
この子をうちで引き取って育て始めた時、誰かが「ミニチュアダックスはとにかく寂しがり屋ですからね、覚悟してくださいよ」とおっしゃっていたことを思いださない日はない。
ぼくがちょっと離れると、鼻の隙間から、ピーピーが始まり、それが、ふんふん、に変化し、最後は、わん、と吠えだし、その、わん、もいろいろなバリエーションがあって、「ちょっと~」のわんとか「パパしゃーん」のわんとか「ねぇ、こっち来てよ~」のわんとか「遊ぼうよ~」のわんなど、様々な声音で訴えてくるのである。
で、仕方がないから、パソコンをもって、三四郎の部屋の肘掛け椅子に座り、そこで仕事をすると納得してくれて、ぼくにぴたっと寄り添って、ようやく、なきやむのである。
それは本当に、見事な寂しがり屋さんぶりで手に負えない時がある。
ポッポが臭いのとかはぜんぜん我慢出来るのだけど、おしっこをシートから外すのとかはしょうがないと諦めがつくのだけど、ぼくが仕事に集中したい時とかに、「かまってかまって」をやられるとさすがに辛い。
でも、現実はこの3か月間、ほぼ毎日、この状態が朝から晩まで続いているのである。
なので、NHKの撮影なんかも、「いろいろと撮ってください」と言われるのだけど、気が回らないし、他の仕事も締め切りを過ぎていたりして、ちょっとさすがに気が立つ。
「かまってかまって」
がはじまると、とにかく頑固なので、静かにしてもらえない。
「ちょっと、今、パパは仕事だから。十斗に遊んでもらいなさい」
「え? ぼく? ぼくも忙しいからダメ」
結局、今日は、散歩に出たら、歩きたくないと駄々こねて、外でピッピもポッポもしてくれなくて、仕方なく家に戻ったら、3回も家でポッポをした。
一回は、やはり息子の扉の前で。笑。
それはしょうがないのだけど、仕事に集中したいのに出来ないのはちょっと苦痛である。
とはいえ、犬を飼った責任があるし、何より三四郎は家族なので、面倒を見るのはぼくの義務だから、喜んでかまってあげたい。
けれども、仕事も待ってはくれない。
こっそりと三四郎から離れて、さ、仕事に集中しようかな、と机に向かったとたん、
「ふんふん、わんわん」
とやられると、思わず、かっちーーん、となるのは、ぼくが未熟な人間だからである。
サラダのレシピ&エッセイが5日、三田文学の締め切り50枚が9日、dancyu巻頭エッセイが10日、マガジンハウスの校正のやり取りもあるし、書き下ろし小説や台本など、もろもろ詰まっているのだ。おっと、毎日の日記もあったっけ。えへへ。
しかし、このままだと、いろいろなところにしわ寄せがきてしまう。
どうやったら、三四郎の「かまってちゃん攻撃」をかわせるであろう。
ぼくは、実は夜尿症気味なところがあり、三四郎が来る前まで、多い時は夜中に2,3回はトイレで起きていた。
でも、夜中に三四郎を起こして、かまってかまって、が始まると、大変だ。
今はもう夜中に吠えることはないけれど、愚図ることはあるので、それが始まらないように、ぼくはトイレを我慢するようになった。
膀胱炎になるのじゃないか、と最初は心配したけれど、寝る直前のアルコール、いわゆる寝酒をやめたことと、寝る前にしっかりとおしっこを済ませておくことで、なんとか、朝の8時くらいまで、我慢できるようになって、この2か月ほどは、夜、トイレに行ってない。笑。
これは画期的なことである。(要は、お酒のせいだったわけで、お酒を減らしたことでよく眠れるようになり、睡眠導入剤を飲まないでも、爆睡しているのだから、これは逆に三四郎効果かもしれない。なんのこっちゃ)
ぼくの部屋はとにかく四角いアパルトマンの構造上、キッチンやトイレから一番離れた場所にある。
しかも、三四郎のベッドはぼくの寝室のドア前にあるので、そこを通らないと何もできない。
三四郎の部屋が食堂、サロン、仕事場、息子の部屋、寝室の中央に位置しているので、仕事場に行くのでさえも、一度、三四郎の部屋を通過しないとならないのだ。(三四郎の部屋と言っているが、実は玄関なのである。笑)
そこで、ぼくなりの作戦を考えてみた。
三四郎がふんふん言い出すのは、ぼくと目が合った直後だったりする。目が合うと、思い出すのか、ふんふん、が始まり、エスカレートする。
そこで、目を合わせない、という方法でこれを切り抜けるとどうなるか、を試してみたのだ。
イメージとしては、知らないおじさんになる。
誰でもない通行人とか、通りがかりの人みたいな無表情な顔をして、目を決してあわせることもなく、しら~っと隣の部屋へと移動する。
かかしや、亡霊のような人間になり、つつ、と三四郎の横を通り過ぎるのである。
やってみたら、あっと驚くことに、三四郎もどうしていいのか分からないみたいで、ふんふんもわんわんもやらなかった。
よし、遊んでやる時は笑顔で出ていき、忙しい時は、のっぺらぼう父ちゃんで、横を通過することにしよう。
彼がこのスイッチを理解してくれると、ぼくはもう少し仕事に集中することが出来る、という次第である。
ともかく、様子をみるかね、ちゃんちゃん。
つづく。
ということで、今日も、読んでくださり、ありがとうございます~。
この日記、書いてるぼくの横で、あおむけになって寝ている三四郎君です。笑。
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