JINSEI STORIES

退屈日記「誰もしらない父ちゃんの背中。それは父の背中でもある」 Posted on 2022/04/27 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、日記も毎日書いているけれど、今は小説とエッセイなどの仕事の合間に、新刊エッセイ集のゲラの直しをやっている。
校正者さんが確認をし赤字の入ったゲラを読み直しながら、追加で修整点などを書き込む地味だけど大切な仕事である。
こういう人には見せたことがない作業を30年続けている。
つまりそれがぼくの本業ということになる。
本が出るまでの大事な工程の一つだ。
30年前は編集者さんが自宅までゲラを持ってやって来て、受け渡しをしていた。
それが郵便での郵送で済ませる時代が来て、ぼくが渡仏してからは国際郵便になり、コロナ禍になってからはメールになった。
その分、編集者さんとの関係も前よりはドライに薄くなったのかな。
30年前は、ゲラを届けてもらうからにはご馳走をしたり、呑みに出たりして、いろいろと親密な関係が出来た(毎週飲んでた編集者さんもいた。そうやって本のアイデアが生まれる時代だった)けれど、今はメールで依頼され、会ったことのない編集者さんばかりとなった。
それは仕方がないことだろうけれど、顔が文字通り見えない人と本を作ることが普通っていうのは、今の出版界を象徴している気がする。

退屈日記「誰もしらない父ちゃんの背中。それは父の背中でもある」



ぼくはゲラのチェック用にサーフィスの小型パソコンを利用している。
これの優れたところは、電子ペンで、ゲラに直接書き込みができる点、重宝している。
ネットで校正確認をするときに非常に便利なのである。
地球カレッジの文章教室でも大活躍の今やネット時代の右腕だ。
今はちょうど、マガジンハウスの大島加奈子さんという(もちろん、会ったことはない)女性編集者さんとZOOMなどでやり取りをさせて貰っている。
「パリ、息子とぼくの3000日」(仮)という2014年から今日までのぼくと息子の日々を描いた作品(6/30、発売予定)、320ページ以上もある読み応えのある長編エッセイ集なのだ。
ZOOMでお顔は1,2度見ているので、だいたいどういう人かわかってはいる。
長年、ぼくの日記の読者さんだそうで、そういう方からの依頼は多い。
文春新書「ちょっと方向を変えてみる」の石塚智津さんも日記を読んでよく感想をくださる。石塚さんに関してはずっと男性だと思ってやりとりをしていたのだけど、ある日、女性だとわかった。笑。
ZOOM会議をしたことがないので、全く年齢も顔かたちもわからない。時代を現す編集者さんである。
三田文学の担当の岡絵里奈さんともメールだけのやり取りである。(しかし、メールのやり取りでだいたい人となりが分かるのも時代的な・・・)
ぼくはもうずっと日本に帰れないので。すごい時代だと思う。増刷が決まった「父ちゃんの料理教室」大和書房の八木麻里さんはコロナ中に一度お会いした。モノ読りに厳しいどちらかというと経験豊富な編集者である。
秘書さんが急逝したので、今後はもう誰とも会えないかもしれない。寂しい。
昔は本が出ると編集者さんが「先生、一献やりましょう」と誘ってくださったけれど、今は皆無である。
dancyuだけは担当がおらず、植野編集長が直接本誌とwebの両方を担当している。
若い編集者さん付けた方が楽でしょ、と言ったのだけど、「自分がやります」と譲らない。パリまで行きますよ、と意気込んでいる。
おかげでdansyu本誌の巻頭エッセイはぼくの仕事の中でも柱の一つとなった。
こういう昔気質の編集者は珍しい。ぼくのdancyu愛は、植野さんの魅力による。
作家は、編集者と仕事をする。出版社ではない。

退屈日記「誰もしらない父ちゃんの背中。それは父の背中でもある」



「パリ、息子とぼくの3000日」は、二人生活のドキュメンタリーなのだけど、編集者さんのおかげで、良くまとめられている。
あちこちに書いたエッセイや日記、書下ろしで構成をされる予定で、なんとイラストも手掛けて(予定)いる。
小学生だった息子が大学生になるまでの、100%、息子の成長の物語なのだ。
子育ての歴史がそこにはびっしりと収納されている。
編集者はそれを客観的に選別し、ぼくの意図のないところで組み立て、一冊に仕上げようとしている。
このタイトルも、大島さんが作成した最初の企画書にすでに印刷されていたタイトルで、3000日も二人で生きたんだ、と感慨深い。
こうして、この6月に、また一冊が世に出る。
この本のお話は2年ほど前に頂き、ようやく、形になろうとしている。編集の仕事の醍醐味とはなんだろう? 
夏に戻るので、一度、会いましょう、とお伝えしておいた。
各出版社の編集者さんの皆さんとも、機会があれば、ぜひ、お会いしたいものである。

つづく。

退屈日記「誰もしらない父ちゃんの背中。それは父の背中でもある」



さて、今日も、読んでくださり、ありがとうさまです。
そして、父ちゃんからのお知らせ。

マガジンハウス刊、(仮)「パリ、息子とぼくの3000日」は6月30日に満を持して発売予定です。

そして、ちょうど一年前、去年の連休中に放送された、あの
「ボンジュール!辻仁成の春のパリごはん」
が再放送されます!!!!
しかも、またしても連休中に。
【再放送日時】
<BSプレミアムのみ>2022/5/3 (火・祝) 10:30~11:29
<BS4Kのみ>2022/5/29(日) 16:30~17:29

辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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【ビルボードライブ大阪】(1日2回公演)
8/8(月)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ大阪: 06-6342-7722
〒530-0001大阪市北区梅田2丁目2番22号 ハービスPLAZA ENT B2
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【ビルボードライブ横浜】(1日2回公演)
8/12(金)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ横浜: 0570-05-6565
〒231-0003 神奈川県横浜市中区北仲通5 丁目57 番地2 KITANAKA BRICK&WHITE 1F
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発売日
Club BBL会員、法人会員先行=6/6(月)12:00正午より
一般予約受付開始=6/13(月)12:00正午より

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