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退屈日記「フランス人のこの習慣だけはちょっと理解できない。エスプレッソ・砂糖編」 Posted on 2022/04/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、フランス人のここがちょっと苦手というのを幾つか紹介してきたが、その中でも、「カフェオレにクロワッサンを浸して食べる」の回では多くの読者の皆さんに、確かにそれは奇妙だ、というお声を頂いたが、それにも負けず、ぼくを驚かせたのは、「エスプレッソに、角砂糖を浸して食べる人たちがいること」である。
しかし、これはカフェでよく見かける光景なのである。
とくに、おしゃべりに夢中になっているマダムやムッシュが、自分の角砂糖を掴んで、おもむろにコーヒーに浸し、それをガリガリと齧りだす、あれには腰を抜かした。
はじめて目撃した時は、「野蛮な」と軽蔑したものだが、これが、結構、よく見かける光景となり、気が付くと、クロワッサンの時と同じように、自分もエスプレッソに浸して食べるようになっていたのであーる。あはは・・・。
これは、アメリカン・タイプのコーヒーだと薄味で美味しくなく、濃厚なエスプレッソがおススメ。

退屈日記「フランス人のこの習慣だけはちょっと理解できない。エスプレッソ・砂糖編」



今日、父ちゃんは三四郎を連れてケヴィンのカフェに行き、甘いもの、ケーキなどを頼もうか悩んだのだけど、そこまでお腹もすいておらず、角砂糖が目に付いたので、袋から出し、ちょんちょんとエスプレッソに浸して齧ったら、悪くなかった。
地球カレッジで頭を使った後だったので、疲れた脳に砂糖の甘さがちょうどよかった。
「ケヴィン、ぼくね、渡仏間もない頃、こうやって角砂糖をエスプレッソにつけてるフランス人に衝撃を受けたんだよねー」
と語りかけたら、ケヴィンが笑って、
「イタリアってさ、そもそもエスプレッソがもっと濃厚で短いでしょ。(イタリアンエスプレッソのことである。ドロっとした超少量のエスプレッソ)人によっては、あれに、砂糖をドバっといれて、上澄みの部分をちゅっと飲んで、残った濃厚エスプレッソまみれの砂糖をカフェスプーンですくって、じゃりじゃり、お菓子みたいに、音をたてて食べるんだよね。あそこから、来たんだと思うよ」
「ああ、知ってる。なるほど~」

退屈日記「フランス人のこの習慣だけはちょっと理解できない。エスプレッソ・砂糖編」



イタリアに行った時、みんなカウンターでじゃりじゃり言わせてコーヒーを飲んでいた。
あれに比べれば、角砂糖の先っちょをエスプレッソにつけて、齧るのは可愛いものである。
ケヴィンが続けた。
「イタリアの空港で売ってるウイスキーボンボン、知らない?」
「あ、知ってる。お土産に必ず買って帰るよ」
チョコレートの中に、砂糖たっぷりのトロッとしウイスキーが入っているお菓子。ヴェネチアとかミラノに行くと必ず買って帰るかなりポピュラーなお菓子だ。あの発想なら、理解できるかもしれない。
「エスプレッソと砂糖の愛称は悪くないからね」
「なるほど。ケヴィンはやるの?」
「疲れた時には、やるよ。ちょっと脳を休めたい時とか、一瞬で疲れが吹っ飛ぶよ」
ということで、納得して、角砂糖を食べきった父ちゃんなのであった。えへへ。
食べきったんかい!!!!

つづく。

退屈日記「フランス人のこの習慣だけはちょっと理解できない。エスプレッソ・砂糖編」



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