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滞仏日記「新しいママ友の会に参加? そこに超美人、オリビア現る」 Posted on 2022/04/22 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、息子の学校のママ友の会に長年在籍してきた父ちゃん。
しかし、昨年末の一部ママ友からの「あなたは息子に甘すぎる」という非難を受けて、大喧嘩になり、その会からちょっと距離をとっている父ちゃんなのであった。
ところが、最近、別のママ友グループから入会のお誘い(?)があった。
それは、三四郎の犬仲間のお母さんたちである。
毎日、最低3回は三四郎を散歩に連れ出すので、公園などに屯する犬ママ友の皆さんから誘われることが多くなったのだ。えへへ。
これが不思議なことに、男女平等を謳うフランスでも、女性は女性で集まってグループを結成しているし、もちろん、そこに男性が混じることもあるのだが、男性は仕事があるからか、積極的に集まりに参加している男性は多くない。
ある時、ぼくが三四郎と公園で遊んでいると、子犬を連れたお母さんたちから声をかけられるようになった。
一人と仲良くなると、その人が別の犬ママ友を紹介するという感じで、輪が広がった。
ビーグルのママがサンドリンヌ、ヨークシャーのママがルイーズ、ダックスのママがエレーヌ、そして、小型犬のジャックラッセルのママがコリンヌ・・・。
年齢はまちまちだけど、たぶん、40代から50代の前後じゃないか、と思う。
フランス人の女性の年齢というのはよくわからないし、めったに聞くこともない。向こうもぼくの年齢を聞かないので、ぼくも言わないことにしている。笑。

滞仏日記「新しいママ友の会に参加? そこに超美人、オリビア現る」

※ この写真は、イメージです。笑。



うちの三四郎の散歩タイムは、(彼は基本散歩が嫌いなので)朝の9時前後、午後が16時前後、そして夕食後の22時前後となる。
だいたい、なんとなく、朝か夕方、このメンバーの誰かと会うようになり、自然と犬ママ友の会が結成というか、自然発生してしまった。
もちろん、ぼくは息子のママ友の会での辛い経験があるので、深い関わりは(今のところ)避けることにしている。ワッツアップ(欧州版LINE)の交換もしていない。
「サンシーのパパ、HITO」と呼ばれている。
生活時間が一緒なのであろう、同じ時間帯に散歩をする人たちなので、公園の芝生で自然に集まるようになり、情報交換などをしている・・・。
「どこの獣医がどうだとか」「あのドッグフードがいいだとかダメだとか」「こういう病気が流行っているだとか」有益なものが多いけど、「どこどこのレストランが美味しい」だとか「どこどこで安売りしている」だとか、一方で主婦感満載の話題も多い。
もっとも、今は大統領選挙の真っ最中なので、政局や戦争の行方についての議論も活発だ。
ぼくがママ友たちと話しあっている間、三四郎たちは犬同士で仲良くじゃれあっている。
もっとも、息子の学校のママ友会よりは、競い合うことがないし、子育ての批判のようなものも今のところないので、時間潰しにはちょうどいい。

滞仏日記「新しいママ友の会に参加? そこに超美人、オリビア現る」



ところで今日、夕方、一人の女性に声をかけられた。というか、その人が飼っているヨークシャー(フランスはヨークシャーだらけ)が三四郎と意気投合したのがきっかけで話しかけられたのだけど、とにかく、元気でおしゃべりが止まらない。
でも、とっても面白い人で、オリビアという名前だった。
「私はね、90歳を数年前に過ぎたのよ」
不意に、自分の年齢を告白したオリビア。マジすか、と驚く父ちゃん。いや、どう見ても、70代にしか見えないのである。背筋も伸びているし、補聴器もつけていないし、頭の回転が異常に早い・・・。
「私の夫は101歳で去年天国へ、私の父は103歳まで生きた。私の故郷はフランスでも長寿で有名な土地なのよ」
フランスの西方、シャロント県の出身だと言った。ぼくは知らない土地だった。
「なんで、そんなに元気なんですか? 長生きの秘訣あります?」
「赤ちゃんが生まれるとすぐにコニャックを飲ませるし、みんなずっと朝から晩までコニャックを飲んでる。それから、ニンニクをかなり食べるのよ」
「赤ちゃんにコニャック?」
「コニャックの生産地なのよ。だから、コニャックに長生きの秘訣があるのだと思う。私は子供を産んだ時以外病院にかかったことがないのよ。コロナのワクチンも一度もうってないし、70代の息子も罹ってないわ」
「ひゃああああ」
「犬の散歩は一日五回、朝は6時、最後の散歩は夜の0時に、エッフェル塔を一周」
「ひゃあああああああ」
スーパーおばあちゃんなんだけど、ぼくより、若く見える。
こういう会話をマジで、永遠と続けるので、立ち去りたくても立ち去れないのであった。
立ち去ろうとすると、指を伸ばし、ちょっとちょっと、と引き留められる・・・。
「私も昔はミニチュアダックスフンドを飼っていたのよ。この子にそっくりだった」
「へー」
とぼく。
「でもね、甥っ子が車で遊びに来て、ガレージでバックしたら、ひき殺しちゃったの」
「ひゃあああああああああああああああ!!!!」
なんで、笑って話せるのか、ぼくはどうしたらいいのだ!!!
その間、ノエルという名前のヨークシャーと三四郎はすっかり仲良しに、しかし、最後の方は二匹とも疲れてしゃがみ込んで、別の方角を見たまま、動かなくなっていた。
ぼくの母さんは86歳だが、弟曰く、長い散歩はもう無理なんだよね、とのこと。オリビアはエッフェル塔周辺の公園を最低5周はするのだという。これはかなりの距離である。
「写真、撮ってもいいですか?」
「ええ、もちろんよ、マスクとるわね。その方がいいでしょ? 昔は美人でもてたのよー」
「あはは。間違いないです。超美人だったと思います。今もかなりの美人ですよ」

滞仏日記「新しいママ友の会に参加? そこに超美人、オリビア現る」

※ オリビアは元ダンスの先生なのだそうだ。なんで、初対面でこんなに自分を語れるのだろう、凄いことじゃない?

滞仏日記「新しいママ友の会に参加? そこに超美人、オリビア現る」

※ 三四郎とノエル。おばあちゃん曰く、「ヨークシャーテリアはこの国じゃ、30年は生きるのよ。前に飼っていた子は28年間生きたのよ」と、長生き話がさく裂であった。そんなに生きるの??日本のサイトで調べたら、ヨークシャーテリアの平均寿命「13歳から16歳」となっているじゃあーりませんか。オリビア、あなたは何者なの???



帰り道、疲れたので、八百屋のマーシャルを誘って、カフェでいっぱい飲んだ。
犬ママ友もいいのだけど、ここだけの話、お酒を酌み交わしながらの会話はムッシュに限る。マーシャルとは「どこどこのレストランが美味しい」だとか「どこどこで安売りしている」だとか、「大統領選の行方」だとか、そういう話しで小一時間、盛り上がった。
え? ママ友たちと同じ内容の会話じゃないかって!? 
あはは、そうかもしれませんね、みんな暇人なのであーる。

つづく。

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