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退屈日記「家事につかれた週末父ちゃんに、救いの神の手が差し伸べられる!!」 Posted on 2022/04/09 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ぼくは定期的に「子育て&家事」鬱になってきた、とここでたびたび報告させて頂いてきたのだが、最近は、なかなかならない。笑。それはいいことだ。
子犬がやってきたので、忙しい日々が続いており、そろそろ、鬱っぽくなってもおかしくないなァ、と警戒しているのだけど、週末になると調子を持ち直している。
なんでだろう? と自己分析をしてみたところ、去年の暮れからお手伝いさんの中島君ことエリックが応援に来てくれるようになって(友達のデザイナー中島君にそっくりなのね)、土曜日に体調を持ち直すことが大くなっているのであーる。
彼がやって来た後、辻家はピカピカになるので、鬱っぽかった気分が晴れやかになるのだ。
それに加え、今年になってから日本未発売の全自動掃除ロボット、ルンバの愛称「五郎ちゃん」を購入し、五郎は毎日、朝の十時に、自動的に掃除を開始、ほぼ全部の部屋を掃除してくれるのだ。これが実によくできたロボットで、見事な掃除をやり遂げる。
エリックと五郎の出現が、62歳の春を支えてくれているという次第なのであった。
前置きが長くなったが、シングルファザー生活もまもなく10年に差し掛かろうかという今日この頃、ようやく、生きるペースをつかんだ。(来年が10周年)

退屈日記「家事につかれた週末父ちゃんに、救いの神の手が差し伸べられる!!」



二年くらい前は、マジで、毎週、鬱っぽくなって、やる気が失せていた。
でも、小学生だった息子もまもなく大学生になるわけだし、そこに新しい家族の三四郎が加わり、フィリピン人のエリックがこんな中年末期の父ちゃんを支えてくれ、そこにドローンではなく全自動掃除機の五郎が投入されて、辻家の生活がくすぶらず光り輝くものになりつつあり、父ちゃんの家事鬱を軽減させてくれているのは事実なのであった。
エレベーターはないが、四階なので、やはり、窓を開けて、風が抜ける辻家は、気分がいい。
コロナ禍に一台決意をし、田舎に小さな逃げ場所を作ったことも、好転の兆しとなった。疲れたら三四郎と田舎のアパルトマンで体力の回復を目指す・・・。
成人した息子は自立へと向かっているし、彼は料理も好きだから、最近は材料だけ、もしくは、ちょっとお金を置いておけば自分で生きてくれる。
子犬の三四郎はまだ手がかかるけれど、三四郎を育てなければならないという気持ちがぼくに生きる希望を投げかけてくれているのも事実で、こうなると、鬱が好きだったぼくも、さよなら鬱くん、という感じになってきた。なんのこっちゃ。笑。



で、今日、12時に、中島君ことエリックがやって来るのだ。
彼はいつも12時5分前に、ドアベルを鳴らすので、その前に、ぼくと息子は昼食を終わらせておく。毎週、土曜日の昼は簡単サンドイッチと決まっている。
ぼくがドアを開けると、フィリピン人なのだけど、中島君にそっくりなエリックが、
「グッドモーニング、ミスター」
と声を張り上げ、満面の笑顔を向けてくれるのだ。
その笑顔は本当に最高で、彼も祖国を離れ、幼い子供を抱えて奥さんも家政婦さんをやられていて、大変だろうに、彼が笑顔じゃない日がないのが素晴らしい。
心から笑顔をみせてくれる中島君に会えるだけで、ぼくは涙が出そうになるのだ。
「ボンジュール。エリック、メルシー」
エリックはぼくが一番苦手なトイレ掃除から始める。
力仕事なので、普段手抜きのぼくだとティッシュで拭くだけなのに、エリックは雑巾がけまでしてくれる。
キッチンも、風呂場もピカピカになるし、窓を全開で掃除してくれるので、風が抜けて、心が落ち着くのだ。
床も拭き掃除をしてくれて、たまに、窓ふきまでしてくれる。
わずか、週に二時間の作業だけれど、本当に見違えるような辻家になる。
なかなか、入りにくい、息子の部屋も、エリックががんがん入り込んで、隅々の埃を排除してくれるので、息子も受検勉強に弾みがつくというものだ。
離婚後、意地になってお手伝いさんに頼らなかった父ちゃんだが、62歳なので、許してもらいたい。ありがたや、ありがたや、と毎週、拝んでいる。

退屈日記「家事につかれた週末父ちゃんに、救いの神の手が差し伸べられる!!」



「バイ、サー」
仕事が終わると、中島君は、玄関口で大声で告げる。サー、とかそんな高級な英語圏の言葉で言われたことがないので、マッカーサー将軍みたいな感じになって、思わず、小さいくせに背筋を伸ばし、敬礼をしたくなってしまう父ちゃんなのであった。えへへ。
「ありがとう」
中島君にそっくりなエリック、日本語が通じそうなので、時々、日本語でお礼を言ってしまうが、やさしく、笑顔で頷いてくれる。
中島君は、ゴミ袋とかぼくが飲み干したワインの空き瓶などを下のゴミ置き場に捨てて、帰っていく。その爽やかな去り際がまた、ぼくに心地よい風を送ってくれるのだ。
その瞬間が今日もまもなく、訪れる。
去年は、土曜日鬱になって毎週末寝込んでいたが、今は土曜日が待ち遠しくてしょうがない、父ちゃんなのだから、どんだけエリックが好っきゃねん!!!
えへへ。
ということで、今週末も、がんばろうと気合を入れている父ちゃんなのであった。

つづく。

退屈日記「家事につかれた週末父ちゃんに、救いの神の手が差し伸べられる!!」



ということで、今日も日記を読んでくださって、ありがとう。
いや、ちょっと物騒な時代ですけど、心を落ち着けて、乗り切っていきましょう。

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