JINSEI STORIES

滞仏日記「ぼくの聖地、シャンパーニュ地方で友人のディディエと味噌談義」 Posted on 2022/04/05 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ぼくは泡が好きで、とくにシャンパーニュには目がない。
あまり飲み歩かないし、とくに趣味がないぼくが、ことシャンパーニュ(シャンパン)だけは好きが嵩じて、ちょっと異常なまでのめりこんできた。
ということで渡仏後この20年、今までに何度シャンパーニュ地方、ランス、エペルネを訪れたことであろう。
ここ数年は忙しく、最近はコロナ禍のせいで、訪問することが出来なかったが、友人のディディエに招かれ、今日は聖地、エペルネを堪能することになった。
ディディエは、昨年秋のバスツアーライブの後半で謎のアルゼンチン博士とともに、バスにやってきて、シャンパンを配った人物である。
実は、彼、「サロン」「ドゥラモット」というメゾンのオーナーなのだ。
犬好き、音楽好き、シャンパン好き、味噌好き、日本好き、ということでとにかく共通点が多い。
年も近いし、たまたま出会って、趣味がめっちゃ一致、いつものごとく、仲良くなった。
この「サロン」というメゾンは、世界中のレストランで奪い合いになるくらいの有名なメゾンなのである。
「一度、サロンの葡萄畑を見せたいんだ」
と言われていたので、今日は、ライブの翌日だったけれど、三四郎はジュリアに預けたこともあり、dancyuで記事を書く取材も兼ねつつ、やってきたのである。
パリから一時間半、車を飛ばすと、まもなく広大な葡萄畑がぼくの眼前に広がることになる。
「おおおおお、これは凄い!!! シャンパーニュだぁ」

滞仏日記「ぼくの聖地、シャンパーニュ地方で友人のディディエと味噌談義」

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葡萄畑である。
葡萄の木はこのように膝くらいの高さしかないのだ。
この一本の小さな木になる葡萄から、だいたい、1,2本のシャンパーニュがとれるのだと、ディディエが教えてくれた。
しかも、サロンの場合、瓶詰されてから、最低で十年間、地下のカーブで寝かされてから市場に出る。
普通のシャンパーニュが三年くらいで世に出るところからすると、サロンのシャンパーニュはなんと贅沢な時間を費やしていることか。
天候などの環境の差によって出荷量や出来不出来も影響するのだという。
「今年は四月でこの寒波だから、どうなるだろうね、ちょっと心配しているけれど」
とディディエは肩をすくめてみせた。
ディディエに案内され、ぼくは地下のカーヴへと足を踏み入れた。
一年を通して11度の温度でコントロールされている。
「すごいね、ディディエ」
「これ、君の生まれた年のサロンだよ」
ぼくが生まれた1959年のサロンが数本、保管されていたのである。

滞仏日記「ぼくの聖地、シャンパーニュ地方で友人のディディエと味噌談義」

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「ツジー、喉が渇いただろ?」
とディディエがぼくにウインクをした。彼の部屋で、サロンの目の前に広がるサロンの舞踏畑を見ながら、ぼくらはグラスを傾け合うことになった。
ぼくらにはいくつかの共通項がある。シャンパン好き、音楽好き(実は彼が主催するオンラインライブへの出演依頼を受けたことがぼくらの出会いでもあった)、犬好き(ディディエも子犬を飼っている)、そして、味噌好きであった。
「実はツジー、ぼくは日本の味噌が大好きでね。味噌とシャンパーニュのコラボで何かできないか、今研究中なんだよ」
「なんだよ、ディディエ、ぼくはね、毎年、味噌を作っているんだよ、自宅で」
「マジか。君はなんでもやるね」
「うちに今度ご飯食べに来る? よければ手前みそ料理のフルコースをふるまいたい。そうだな、前菜が味噌田楽、メインの魚がサーモンか白身魚の味噌焼き、で、味噌でマリネした牛肉のグリル、なんてどう?」
「いいね、スープは?」
「あ、トンジールというスペシャリテがあるよ。それは三枚肉と野菜で作ったみそ仕立てのスープなんだけど、特殊なスパイスとバターで味付けしてある。あのね、今度、日本の料理好きイベントで販売されるんだよ」
「は?」

滞仏日記「ぼくの聖地、シャンパーニュ地方で友人のディディエと味噌談義」

ぼくはdancyuという日本の有名な料理雑誌のこと、そこが主宰する「dancyu祭り」は毎年大勢の料理好きで賑わう大イベントに成長していること、今年はそこでぼくが考案した「トンジール」が販売されること、などを説明したのだった。
(※ dancyu祭りは4月23,24日に開催されます。ぼくは行けないけど、ぼくの友人の料理研究家尾身先生がぼくに変わってスープ・トンジールを作ってくださいますので、ぜひ、ご興味のある皆さん、ご参加ください)
「君は、何者なの?」
「あはは、愛情料理研究家さ」

滞仏日記「ぼくの聖地、シャンパーニュ地方で友人のディディエと味噌談義」

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ともかく、ここから話が急展開をして、6月初旬、ディディエのパリの家で、ぼくがフルコースを作ることになった。彼の友人たちにふるまうのである。
「味噌懐石にしよう」と盛り上がった父ちゃんとディディエであった。
味噌とシャンパーニュのマリアージュ、さて、いったいどんな晩さん会になるのであろう。次から次にいろいろと忙しくするのが好きな父ちゃんなのであった。えへへ。

(今日の三四郎)
三四郎は多くのワンちゃんたちと森に行き、同じダックスフンドのリッキーらと遊んだようである。ジュリアから先ほど、ぼくのもとに写真が届いたので、ご覧頂きたい。
そして、いよいよ、明日はお迎えである。待ってろよー、サンシー!

つづく。

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