JINSEI STORIES
退屈日記「本日、ついに、フランス政府から永住ビザを頂くことが出来た!」 Posted on 2022/04/02 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日、雪が降る中、シテ島にある警察署に滞在許可証の受け取りに行った。
ぼくは20年前、一年更新の普通滞在許可証でフランスに入った。それを十年続けて、ちょうど十年前にカルト・レジダン(十年滞在許可証)というものを取得した。
このカードは十年間更新しないでよくて、その後もだいたい自動的に更新出来るという優れたカード。
「辻さんなら最初から十年を裏でもらえたでしょ」などとよく嫌みを言われる。そういう政治的なコネはないし、お金もない! あはは。
で、この度、滞仏20年にして十年カードを更新に行ったところ、あら、なんかカードの色がちゃうな、と思って目を凝らしたら、おおお、カルトレジダンではなく、カルトレジダンパーマネントになっているじゃないか!!!
パーマネントは永遠という意味だから、永住カードであることは間違いない。
(で、調べてみたら、2020年11月から60歳以上の人、もしくは十年カード更新が三回目の人は全員、パーマネントになるみたい。ぼくだけじゃなかった。なので、全然、嬉しくないわ、年齢かよ!)
ま、しかし、パーマネントって響きには、歴史を感じる。
日本人なのに、パーマネントカードを持ってる。要はアメリカのグリーンカードにあたる。このカードは、どのような状況になろうと、フランスで暮らす権利が保障されるというもので、ま、嬉しいじゃないのー。パーマネント、ぱっぱら、パーマン!
ところがこの取得はいばらの道なのである。
まず、カードが切れる前に申請のアポイントをネットでしなければならない。
その後、アポの取れた日に、滞在許可証セクションに行き、いろいろと審査を得て、再発行の手続きに入る。
その時にレセピセと呼ばれる仮のカードが手渡され、カードが出来るとSMSに連絡が入る。で、そこから受け取りのアポをとるという流れだ。
ところが、この受け取りの手続きが超大変で、というのはサイトに入り、日にちをおさえないとならないのだけど、なかなか入れない。待てど暮らせど入れない。
何度やっても、やり直し、と出る。
おかしいのじゃないか、とクレームを入れたいけど、コンタクトマークを押すと「現在使われておりません」になる。
なので、仕方ないので、サイトに入る努力を繰り返すのだけど、あまりやり過ぎると、「403Forbidden」と出る。閲覧禁止、エラーという意味である。
一時間くらいするとまたやれるのだけど、もちろん、待てど暮らせど中には入れない。
諦めかけていると、いきなり、最初のコーナーにたどり着いた。
上にBOXがあり、全部で8項目くらい進まないとならないようである。
でも、この最初のコーナーでさえも、次へ行けないのだ。丸一日費やして、第二コーナーを目指すのだけど進まない。
でも、とりあえずサイトが機能していて、前進することがわかっただけ、でも、まだましであった。
眠い目をこすりながら、ひたすらボタンを押していると、ある瞬間、先へ進むことが出来た。思わずやったーと叫んでしまった。
そして、ゲットできたのが今日の9時半の予約時間であった。ぼくは大勢の外国人に交じって、ついにカルト・レジダン・パーマネントを取得したのである。ふー。永住権ゲット。
ということで人生の三分の一はフランスで生きてしまったじゃないか。
警察署の係員は優しい人とそうじゃない人に分かれる。
これは、アメリカの移民局に行った時にも感じたことだが、どういう性格の担当官にあたるかで、気分が悪くなったりよくなったりする。ぼくの担当は、生意気なおじさんだった。
「あーん? あんだって? 」
「だから、あなたが言ってる意味がわからないって、言ったんですよ」
「なんだと? 切手は持ってきたかって言ったんだよ。そんなフランス語もわからねーのか」
「切手? 225ユーロの収入印紙のことですか?」
じつは、収入印紙のことをタンブル・フィスカルというので、タンブルだけだと切手なので、ぼくはその後を聞き逃していたわけで、つまり、ぼくが悪い・・・。あはは。
ぼくが収入印紙を見せると、それだ、とおじさんは言った。
言い方が悪い、この人・・・。人間、間違いくらいあるだろ?
腹が立ったが、人の国で生きる身なので、差別されたわけでもないし、許してやった。
「ムッシュ、辻、オッケーです。あちらのコーナーへ進んで下さい」
「ありがとう。ムッシュ」
最後はきちんと丸く収めるのが紳士というものである。
移民局というのはきっとどこの国も一緒だろうと思う。日本も厳しいだろう。外国から大勢の人間が入って来る、どういう人間がやってくるかわからないので、警察も厳しくして当然であった。
さて、新しいカードを握りしめて、ぼくはここから再び新しい人生を歩くことになる。
どのような人生が待ち受けているのであろうか・・・。
つづく。