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滞仏日記「ちょっと残念なお知らせ。まだ、パリはエイプリルフールですが」 Posted on 2022/04/02 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、エイプリルフールだが、残念なお知らせがある。まだ、きちんと上まで話がいったわけではないが、例のすでに3回続いた「ボンジュール、辻仁成のパリごはん」の四話目、制作会社社長のLさんには「最終的に難しい」とお伝えをした。
ライン、既読になったが、珍しく、まだお返事はない。
一応、テレビの窓口をやって頂いているタイタンのOさんにも同じ内容をお伝えした。
ぼくはやりたかったし、待ってくれている人も多いことは大変ありがたいことだ。
しかし、幾つかの事情で出来そうにないのである。
一つはぼくが様々な原因で疲れたということが一番大きい。
ぼくが撮影以外に考えないとならないことがあまりに大きいのと、75%は自撮りだし、やはり昨年末に急逝した秘書の菅間さんの不在も大きいのだ。
Lさんはじめ、外部スタッフとして優秀な方々がぼくとNHKさんとの間にはいるのだけど、ぼくのような変わり者のアーティストの心の底まで理解してもらえるような人はいないよね? あはは。よくわかります。超神経質やし、性格悪いからなぁ!!!
Lさんからは「年内何本かやってもらえたらいいな」と素晴らしいご期待を頂いていたのだけど、環境が整ってないので、難しい、ことに気が付いた次第である。
すでに三四郎をドッグトレーナーさんのところに通わせるシーンとか、綱を放して海辺を走る壮大な場面とかも撮影済みなのだけど、笑、これはもうボツ・・・。



コロナ禍、頑張ってきたけれど、たぶん、ボンジュールの四回目は難しいだろう。この辺、拗らせたくないので、タイタンのOさんから皆さんにきちんとご説明を願うしかないかな、と思っている。
ぼくも生きているので、しょうがない。身体も心も一つなのである。
タイタンも制作会社の人もパリには来ることが出来ない。
一時間の番組をたった一人で作ることがどんなに大変か、きっとその苦悩は誰にもわかってもらえないだろう。
もちろん、アシスタントの外注カメラマンやコーディネーターさんはいるのだけど、ぼくに必要なのは、ビジネスのパートナーではない。
ぼくが自撮りで撮るあんな番組だけれど、ぼくなりに、本当に頑張ってやってきた。残念なことに、そこはきっとフィルムの中には映っていない。



夏前までの、撮影計画はぼくなりに練っていたけれど、これらも諦めることにした。そして、ぼくはまた明日から、ごく限られた方々へ向けて日記を引き続き書いていくことになる。
この日記もけっこう大変なのである。
2020年の3月、いきなり世界はロックダウンとなり、ぼくの日常はそこから激しい時代の渦の中へと叩き込まれた。
どうやって生きていくか、悩んでこの3年間を頑張りぬいてきた。
その中で、ライブも全部中止になり、映画も消えた。
それはぼくだけじゃなく、世界中の人が同じような過酷な状況に置かれた。
きっと、誰も移動できない世界になったことで、ぼくの自撮り番組が登場したのかもしれない。
三回目のロックダウンにも重なったし、それはある意味、変な言い方だけど時代を切り取るグッドタイミングではあった。
だけど、三回で終わるのがちょうどいいのかもしれない。
Lさんとはまたいつか、どこかで、ご挨拶出来る日を楽しみにしていますね。笑。



ということで、LさんとOさんにはお伝えしたが、お返事をもらう前に、皆さんへのご報告となった。
きっとNHKの皆さんもこの日記を読んでくださっていると思うので、ぼくの苦悩はご理解いただけるかと思う。
いつか放送されるだろう、「冬ごはん」の再放送を楽しみにしている。
・・・
ということで、今日も読んでくれてありがとうございます。

つづく。

地球カレッジ

滞仏日記「ちょっと残念なお知らせ。まだ、パリはエイプリルフールですが」

※ これは三四郎が海に飛び込んでいく動画の一部をスキャンした。この後、三四郎ははじめての海に飛び込んで、ぼくが投げたボールを追いかける。リード、首輪無しだ。
この子はぼくの心の支えである。がんばれ、三四郎!!! 
厳しく躾けてやる!!!!
いひひ。



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