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愛すべきフランス・デザイン「中世から続く蚤の市で、モノの歴史を学び、手にする」 Posted on 2022/03/12 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

愛すべきフランス・デザイン「中世から続く蚤の市で、モノの歴史を学び、手にする」

 
中世から始まったといわれている、パリ近郊最大級の蚤の市「Foire de Chatou」は、肉の取引場が起源だ。
かつて、豚肉はクリスマスイブのメインディッシュで、イブの1週間前になると、フランス中の精肉店が肉を売るためにパリの中心地であるノートルダム寺院に集まった。
その後、1500年以降には、パリ市庁舎前、コンコルド広場と場所を移していった。
フランス革命を期に、一度姿を消したが、1840年から、骨董品や古着、鉄くずの販売も行うように。
そして、現在のパリ北東郊外のリュエイユ=マルメゾンに落ち着いたのは1970年のことだった。
102回目を数える今回は、2022年3月11日から20日までの10日間、開催されている。
フランス各地からアンティークショップが集まり、約700店舗を超える。
 

愛すべきフランス・デザイン「中世から続く蚤の市で、モノの歴史を学び、手にする」

※公式サイトより:https://www.foiredechatou.com/

愛すべきフランス・デザイン「中世から続く蚤の市で、モノの歴史を学び、手にする」

※現在の看板



 
アンティーク初心者の私は、正直、何を買ったら良いものか悩んでいた。
何か買いたいけれど、欲しい物がわからない状態だったので、周囲のフランス人の友人たちに「蚤の市では何を買うか」を聞いてみた。
同僚のパリジャンは、レコード、ナイフ、ピンバッチあたりを買うという。
確かに彼は、レコードとナイフのコレクターで、ヴィンテージのピンバッチが似合いそうだ。
友人のパリジェンヌは、自宅の食器はほとんど、蚤の市で少しずつ購入したものだという。
アンティークのものは、自分の好みや、こだわりをベースに、買い集めていくもののようなので、まずはコンセプトを決めることが大切だと気づいた。
 

愛すべきフランス・デザイン「中世から続く蚤の市で、モノの歴史を学び、手にする」

※パリジェンヌの友人の食卓

 
そして、蚤の市当日、アンティークに詳しい方々に、同行させてもらえることになった。
主に、食器類を中心に探しているそうで、「リュネヴィル」や「オクトゴナル」など、会話で聞き慣れない用語が飛び交う。
ブランド名だったり、窯元だったり、形状や柄の名前だったりするそうだ。
アンティーク食器の奥深さを知った。
初心者が迂闊に手を出してはいけない世界だということも悟った。
 

愛すべきフランス・デザイン「中世から続く蚤の市で、モノの歴史を学び、手にする」

※飛ぶように売れていった食器たち

愛すべきフランス・デザイン「中世から続く蚤の市で、モノの歴史を学び、手にする」

地球カレッジ



 
私は特に買うものが見当たらず、ついに昼を迎えてしまった。
屋外なのにもかかわらず、周囲には食欲を誘う良い香りが充満していた。
それは、この蚤の市の名物ともいえる、カスレだった。
カスレとは、豚肉、ソーセージ、鴨肉などを、白いんげん豆と共に長時間煮込んだもので、蚤の市の起源である肉の取引場にあやかった食べ物ともいえる。
ホクホクとした煮豆は、具だくさんのシチューといったところで、まだ肌寒い季節に温まる。
様々な肉は、肉市場が思い浮かぶ豊かなバリエーションだ。
スパイシーなソーセージ、肉感たっぷりのベーコンなど、どれも全く異なる味で食べていて楽しい。
 

愛すべきフランス・デザイン「中世から続く蚤の市で、モノの歴史を学び、手にする」

※具だくさんの名物カスレ

 
ランチタイムは、各自戦利品を見せ合う時間になった。
そこで、ひとりのマダムが、素敵な木製の台を見せてくれた。
「タブレ(taboulet)」と呼ばれ、英語では「スツール」とも訳される低い椅子だ。
買うなら何か実用的なものをと考えていたので、子どもが椅子に座る際の足置き場に使えたり、高い所のものを取るための台にもなる、という話を聞き、魅力が増した。
 

愛すべきフランス・デザイン「中世から続く蚤の市で、モノの歴史を学び、手にする」

※マダムの戦利品のタブレ



 
聞けば、この蚤の市ではいくつも見かけたという。
案内してもらい見に行くと、そこには3つのタブレが。
彫りの細工がしてあるものは1900年、白っぽい朴訥なデザインのものは1930年、焦げ茶の優雅な流線形のものは1950年に製造されたものだという。
昔のものの方が作りがシッカリしているという店員さんの説明どおり、新しいものほど軽くなっていく。
シンプルで合わせやすそうな1930年のものを購入。
ひとつのアイテムで、これだけの年代のものを一度にみることができるのは、品数豊富なこの蚤の市の強みでもある。
 

愛すべきフランス・デザイン「中世から続く蚤の市で、モノの歴史を学び、手にする」

※異なる時代のタブレ

 
更に歴史を掘り下げるべく調べると、世界最古の椅子は古代エジプトのタブレ(スツール)で、椅子の原型ともいえる。
フランスでは、17世紀、太陽王と呼ばれるルイ14世の頃、タブレは特別な意味を持ち始めた。
ここでのタブレは、猫脚の木のフレームに、フカフカのクッションが入ったサテンの布張り、タッセルで装飾されたものだ。
選ばれた貴族のみが座ることを許され、それは大変栄誉なことだったそう。
今でもヴェルサイユ宮殿のいたるところに置かれている。
 

愛すべきフランス・デザイン「中世から続く蚤の市で、モノの歴史を学び、手にする」

※ベルサイユ宮殿に佇むタブレ

 
帰宅後に、観葉植物と義父が掘ったバードカービングの鳥を乗せてみたところ、殺風景だった部屋に温もりが生まれた。
タブレを踏み台に、敷居が高かったアンティークの世界が、少し身近になった気がする。
 

愛すべきフランス・デザイン「中世から続く蚤の市で、モノの歴史を学び、手にする」

※我が家に仲間入りしたタブレ

自分流×帝京大学



Posted by ウエマツチヱ

ウエマツチヱ

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tchie uematsu
フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。