PANORAMA STORIES
q.b.レシピのないレシピ帳~ローマ風サルティンボッカ~ Posted on 2023/11/29 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア
先日、久しぶりにイタリア本土へ行く機会がありました。
普段から遠出はあまりしない方とはいえ、これ程までイスキア島を離れなかった事はさすがに無く、出発の数日前からオロオロする自分に苦笑いです。
行先は首都ローマ。島からはフェリーでナポリに行き、中央駅から最速の列車で約1時間の距離です。早朝に出発すれば日帰りでも可能な用事を足すためでしたが、せっかくなので一泊して久々の観光を楽しむことにしました。
そして、一番の目的はローマの名物料理、サルティンボッカを食べることと決めていました。仔牛肉に生ハムとセージを重ねてフライパンで焼くこの料理は、もちろん家でも作ることができますが、やはり本場で食べると気分が違うものです。
けれども、今回の小旅行で僕がサルティンボッカに拘ったのには、もう一つ理由がありました。
20年ほど前、大使館へ用事があってローマを訪れた僕は、昼食を食べるところを探していました。
当時はスマートフォンでの気軽な検索はまだ普及しておらず、何件もレストランをまわってようやく決めたその店は、地元の人が通うようなカジュアルな雰囲気でした。しかし、着席してメニューに目を通すと、お目当てのサルティンボッカが無いではありませんか。ランチ時間のピークを過ぎていたためか店内に他の客は無く、ウェイターさんも暇そうにしていました。
そこで、思い切ってサルティンボッカを作ってもらえないかと聞いたところ、快く承諾してくれました。
「ああ、頑張って探したかいがあった」と喜んだのも束の間、ウェイターさんが注文を伝えに行った直後、厨房から大きな声でこんなセリフが聞こえてきたのです。
「サルティンボッカってどう作るんだ~?」
きっと僕の事をイタリア語も片言の日本人観光客と思ったのでしょう。その瞬間、軽やかに上昇を続けていた期待という名の気球は急速にしぼみ、後悔と不安だらけの荒野に不時着しました。
結局、出てきた料理はさほど悪くはありませんでしたが、もはや楽しんで味わえる心境ではなかったため、それ以来いつかリベンジしようと思っていたのです。
ローマへはその後も何度か行きましたが、サルティンボッカとは縁がないままでした。
そんな経緯があって、今回は事前に何時間もかけて検索し、観光客向けではあるものの
利用者の評価がとても高いレストランに行くことにしました。
ローマ在住の友人たちとも合流し、素晴らしいものになるはずだった今回のランチでしたが、実際の料理はインターネット上のレビューとはかけ離れたものでした。1時間近く待たされた挙句に出てきたサルティンボッカは、数切れの固い肉にわずかな生ハムが乗っかっているだけで、塩味も殆どありませんでした。
けれども、これで諦めがついたというか、この件に関してはやり切ったという謎の達成感があり、これからは今まで通り自分で作って食べるのが一番良いという結論に至ったのです。
旅の良いところは、小さなアクシデントさえもちょっとしたアクセントになり、いずれは笑い話にできるところです。その後は友人たちの案内で市内を観光し、2年ぶりの遠出を満喫することができました。
ローマはやはり雄大で奥が深く、唯一無二の都市でした。
さて、そういう訳で今回ご紹介する料理はもちろんサルティンボッカです!
ローマに行ったことがある方も無い方も、永遠の都に思いを馳せて作ってみてはいかがでしょうか?
ご自宅で本場の味を楽しむことができますよ。では、早速レシピを見ていきましょう。
材料(2人分)
○仔牛肉 2枚 ○セージ 2枚 ○バター 約20g ○白ワイン コップ半分ほど
○生ハム 2枚 ○小麦粉 q.b.(適量)
※肉は鶏むねや豚肉などで代用することもできます。
作り方
①肉のスジや余分な脂を取り除き、クッキングシートなどに挟んで叩き伸ばします。
②肉の上に生ハム、セージの順に重ねて爪楊枝でとめ、下面に小麦粉をまぶします。
③フライパンにバターを加えて熱し、生ハムをのせた側を軽く30秒ほど焼き、ひっくり返してもう片面を1~2分、中火で焼きます。加熱時間は肉の種類によって違いますが、いずれにせよ火を通しすぎないようにしてください。
④ワインを加え強火でアルコールを飛ばします。フライパンを軽く揺らしながらひと煮たちさせ、肉をお皿に取ります。
⑤フライパンにバターをひとかけ入れ(分量外)、木ベラで混ぜながら手早く煮詰め、とろみのあるソースにします。もしも水分が足りないようでしたら水を少々加えます。
生ハムから塩分が出るので塩は基本的に加えなくても大丈夫ですが、もしも物足りないようでしたらここで足しましょう。このソースを肉にかけて出来上がりです。
サルティンボッカには“口に飛び込む”という意味があります。
ほんの数分でできる簡単さと美味しさからついた名前でしょう。お好みの簡単な付け合わせを添え、おいしい白ワインとパンがあれば気分はローマのレストラン!
毎日の献立を考えるのは本当に大変ですが、困った時のメニューに是非加えて見てくださいね。
それではまた、普段着の食卓でお会いしましょう。
(鶏むね肉のサルティンボッカ)
タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語quanto basta(クワント バスタ)の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなたなりのレシピに頂けたらという思いを込めて。
Posted by 八重樫 圭輔
八重樫 圭輔
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シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。