JINSEI STORIES
滞仏日記「思わぬ展開、マノンが息子(と父ちゃん)のためにケーキを作った!!!」 Posted on 2022/02/23 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、というわけで、朝、息子は予備校に出かけて行き、ぼくは三四郎とお留守番・・・。
昼間は散歩のついでに三四郎とベトナム料理店に立ち寄り、ランチミーティング、笑。
ぼくはフォーを食べ、三四郎はぼくの膝の上で爆睡。
再び、散歩をしながら、家に戻り、三四郎を膝の間で遊ばせながら、パソコンを動かしていると、近所の少年二コラ君のお姉ちゃん、マノンからメッセージが飛び込んだ。
「あの、ムッシュ、今日、家にいますか?」
「いますよ」
「ジュート君は?」
「ジュート? あ、今は予備校に行ってるけど、夕方には戻って来るかな」
「お勉強、大変ですよね。あのよかったら、私、ケーキを作りに行ってもいいですか?」
「は?」
ダメとは言えないけど、二コラは来ない、のだという。
「いいけど、なんで?」
「あの、ジュート君に、甘いものでエールをおくりたいんです」
なるほど・・・
気が付かなかった。
マノンは小さな頃からうちに出入りしているので、すっかり忘れていたけれど、考えてもみたら、いつの間にか、年頃の女の子になっており、うちの子とは三歳差、なるほど~。
えええ~、マジかぁ、気づかなかったぁ。そんな展開? いやいやいや・・・。
三四郎がお腹を出して、ぼくの膝の上で寝ている。
起きる気配がない・・・。自由犬である。
マノンちゃんは「夕方、用事があるから、作ったらすぐに帰る」とのこと。
なるほど~、そういう展開か、ほえー。いやいやいや・・・。
長年、日記を読んでくださっている皆さん、これは意外な展開ではあ~りませんか?
(おっと、もっとも、これは年寄りの邪推でしかなく、余計なことは言えないので、流して読んでくださいませ)
きっとなんの展開もないまま、2人に「アホちゃうかぁ」と一笑に付されて終わる話だとは思う・・・、でも、年頃の父ちゃんはなんとなく嬉しいのである。
15時過ぎに、やってきたマノン、ちゃんと材料を持参している。
余計なことは言わないでよ、と三四郎に睨まれた気がしたので、口をつぐんだ父ちゃんであった。いやいやいや・・・。
ぼくは三四郎を抱っこし、キッチンで、お菓子作りを始めたマノンを入口のあたりから見守ることになる・・・。
「凄いね、ケーキか、嬉しいなぁ」
「美味しく作れるかわからないですけど、練習中なんです。2人に食べて貰って、意見を聞きたく」
意見!? おお、なるほど~。いやいやいや・・・。
マノンちゃん、この日記に登場しはじめた頃は、子供だったから、気づかなかったけど、確かに今時風でかわいいし、大人になったし、うちの息子も最近、ぜんぜん、彼女がいる気配もないし、顔はBTSっぽいし、(ぼくの子だし)、モてないはずはないのだけど、ほほ~、意外なので、頬が緩んじゃう・・・。
もっとも、父ちゃんの妄想なので、三四郎が、ぺろっと頬っぺたを舐めて、
「目を覚ませ」
と言った、気がした。
「TIK TOKで知ったレシピなんですよ。ちょっとアレンジしてますけど」
「ほー」
「バナナケーキなんですけど、本当に簡単にできるんです」
「ほほー」
「ジュート君、大学受験で毎日、勉強でしょ、今も予備校なんでしょ? 前に勉強教えてもらったし、ケーキくらい作ってあげたいなって」
「ほほほー-----」いやいやいや、( ^ω^)・・・/~
「あの、なんですか、その返事の仕方」
「ほえー」
ともかく、三四郎が、ぼくの顔を舐めるので、そこを離れることにした。
15分くらい、サロンで三四郎とそわそわしていると、マノンがやってきて、
「ムッシュ、オーブンの使い方、教えてもらえますか?」
と言った。
「ほいほい」
三四郎を連れてキッチンに戻ると、すでにケーキ型の中に生地が詰まっていて、うわ、美味しそう!
写真を撮らせてもらった。じゃじゃー-ん。
ケーキがオーブンで焼けるまで、マノンが三四郎と遊んでくれた。
三四郎もマノンの腕の中で抱きかかえられているのが、ムッシュとは全然違って、いいみたいなので、ぼくは三四郎をマノンに任せて、仕事に戻ることに・・・。
45分くらいすると、マノンに呼ばれたので、キッチンに行くと、おおお、出来上がってるじゃん。すげー。
三四郎をぼくが抱っこし、マノンがケーキを取り出した。
「ちょっと、味見してもらえますか? お兄ちゃんに出す前に、ムッシュに食べて貰いたいのです」
お兄ちゃん、お兄ちゃん、むふふのふ、じゃないか・・・・。いやいやいや・・・。
あいつが、お兄ちゃんだなんて、じゃあ、ぼくはどうなる。おじいちゃんか・・・。いやいやいや・・・。やめて~。
マノンが取り分けてくれたケーキを頬張ったが、う、うまい、いや、美味しい!!!
ぼくは基本、この手のバナナケーキが苦手なのだけど、粉っぽくなくて、いける。
一時間くらいで出来てしまうところも簡単でよろしい。
「へー、レシピ、教えてよ」
「あ、はい。じゃあ、後でメールします」
マノンが帰り支度をしたので、
「あれ、ジュートが帰るまで待たないの?」
「あ、あの、用事があるので私は帰ります。美味しかったかどうか、訊いといてください」
「え? 自分で聞きなよ」
「連絡先、知らないし」
「教えてあげるよ」
「あ、大丈夫。今度、会う時に訊きますから」
「今度、いつ? あ、半分、持って帰りなよ、二コラにもあげればいいじゃない」
「二コラの分はあるので、じゃあ、失礼します」
乙女はそう言い残して帰っていった。
その30分後、息子が予備校から帰ってきたのである。
「食べるか?」
「食べる」
ということで無口な青年は乙女のバナナケーキを自分の部屋へと持って行った・・・。
え? 彼の感想?
皆さん、こういうのは、そっとしておいてあげましょうよ。
周囲が騒がない方がいいです。いやいやいや・・・。
三四郎がぼくを白い目で見つめているのだけど、どういうメッセージであろう。
ということで、マノンから送られてきた「簡単バナナケーキの作り方」を最後にご紹介します。これ、マジで、美味しいですよ。
ボナペティ!!!
材料:よく熟れたバナナ3本、卵3個、小麦粉150g、ブラウンシュガー80g、アーモンドプードル50g、ソイミルク(アーモンドミルクでも良い)100ml、ベーキングパウダー5g、バニラエッセンス少々、
サラダオイル50g、チョコチップ100g、くるみ(お好みで。なくても良い)
作り方:
バナナ2本をしっかり潰す。
卵とブラウンシュガーを一緒に混ぜ、そこにオイルとバナナ、ミルクを加えてよく混ぜる。
粉類をふるいながら加えてさっくり混ぜる。
最後にチョコチップ(飾り用を残す)を入れ、混ぜたら生地の出来上がり。
型に生地を流し入れ、縦に切ったバナナ、くるみ、チョコチップをのせ、最後にブラウンシュガーをふりかけて焼く。
焼き時間は180度に予熱したオーブンで40分から50分。