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パリ最新情報「『セザンヌとプロヴァンスの光』、アトリエ・デ・ルミエールにて幕を開ける」 Posted on 2022/02/22 Design Stories
2月18日より、1年間限定の企画展『セザンヌとプロヴァンスの光』がパリ11区のアトリエ・デ・ルミエールで始まった。
アトリエ・デ・ルミエールというのは、パリ初のデジタルアートセンターだ。
もともとは19世紀の鋳造所であったが、「インタラクティブにアートを楽しめる場所を増やす」ことを目的として改造された。
2018年のオープン以降、パリの新しいアート空間として大きな話題となっている。
通常の美術館と違うのは、厳選された巨匠たちの絵が空間いっぱいに映し出され、それをBGMとともに楽しめるということだろう。
実際に使われているのは、140台のビデオプロジェクターと50台のスピーカー。
壮大な光と音のスペクタクルは実に素晴らしく、美術通でなくとも一見の価値がある。
過去にはゴッホ展やダリ展も開催され、その都度大きくニュースに取り上げられた。
そして今回の『セザンヌとプロヴァンスの光』も同様、連日のようにパリのメディアを賑わせている。
セザンヌは、フランスはもとより世界中にファンを持つ後期印象派の画家である。
後の画家たちに大きな影響をもたらすのだが、残念なことに生前は評価されなかったという。
しかし南仏のエクス=アン=プロヴァンスに生まれた彼は、生涯を通して故郷の美しい風景を描き続けた。
アトリエ・デ・ルミエールではまずその風景画が一面に映し出され、ショパンやウッディ・アレンの音楽とともに広がった。
その描写は圧巻の一言で、まるで自分が絵の中に生きているような感覚になる。
サイドの壁だけでなく、フロアにも、天井にもセザンヌの絵がちりばめられ、他の美術館とは全く異なる演出に胸が高鳴ってしまった。
サロンには椅子も用意されているのだが、一大スペクタクルを視界一杯に収めようと、地べたに座りだす観客も。肩ひじ張らない、フランスの鑑賞スタイルの自由さも素晴らしいと思った。
セザンヌといえば、「リンゴの静物画」を多く世に残したことでも有名である。
立体的なリンゴを平面的に、幾何学的に描き出した絵は技法の上でも評価されているのだが、実は彼にとって特別な思い入れがあったという。
セザンヌがプロヴァンスの中学校に入った時、パリからゾラという名の転校生がやってきた。
ゾラは早くに親を亡くし、南仏ではよそ者で、からかいの的となっていた。
セザンヌはそんなゾラに優しく接したことによって、逆にいじめっ子たちからの標的になってしまったのである。
しかしゾラは、友情のしるしとしてカゴいっぱいのリンゴをセザンヌにプレゼントする。
そのときから2人は親友となり、彼らの友情は30年も続いたそうだ。
そんなセザンヌのリンゴの絵がサロンに映し出されると、辺りからは歓声が沸き起こった。
ジャズをBGMに、1800年代の静物画が現代の風をまとって登場する。
美術に明るい人ならば何度も目にしてきたであろう絵画なのだが、こうして見ると全く違うものとして目に映る。
アトリエ・デ・ルミエールが皆のハートを射止めている理由がよく理解できた。
もう1つ素晴らしいのは、訪れた人もアートの一部になる、ということだ。
普段なら少し敷居の高い美術館も、ここでなら気軽に、アートをグッと身近に感じることができる。実際訪れた時も、年齢問わず多くの人が楽しんでいて、鑑賞する姿を含めて1つの芸術となっていた。
臨場感あふれる演出と、耳触りの良い音楽。およそ1時間のプログラムなのだが、まったく飽きることはなかった。
セザンヌは「早く生まれ過ぎた天才」と呼ばれている。
180年も後にこうしてパリの話題をさらっていることに、本人も空で喜んでいると思いたい。『セザンヌとプロヴァンスの光』は2023年1月1日までの開催だ。(大)