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パリ最新情報「フランスの食文化を支える、伝統のブッシュリー(肉屋さん)」 Posted on 2022/02/20 Design Stories
フランスはヨーロッパ一の農業国である。
欧州の台所、とも言えるべき存在で、ヨーロッパ全体の4分の1の農産物を生産しているという。
なかでも盛んなのが畜産業だ。この国における肉料理は非常に多彩で、レストランでも家庭でも肉料理が登場する機会は多く、地方によっては独自のメニューも存在する。
そんなフランスの食卓をサポートしているのが、「ブッシュリー」と呼ばれる街の肉屋さんだ。
大手スーパーの台頭、ヴィーガン人口の増加などで数は減っているものの、活気あふれるブッシュリーは今でも街の人気者。
血沸き肉躍る、と言うと大げさなのだが、渡仏したての頃はフランスのブッシュリーに行くのがとても楽しみだった。
というのも、ブッシュリーには牛肉、豚肉、鶏肉、鴨肉とありとあらゆる食肉がずらっと並んでいて、フランスの豊かな食文化を目の当たりにすることができるためだ。
その場で厚切りハムをカットする姿などはエンターテインメント性があって面白い。
ポーピエット(薄切り肉でひき肉を巻いたもの)といった「後はオーブンで焼くだけ!」な一品もたくさんあるので、疲れて料理したくない日でもブッシュリーに駆け込めば何とかなるのである。
ひと昔前は、シュヴァリン(chevaline=馬肉屋さん)、トゥリプリー(triperie=モツ屋さん)といった専門店も存在したのだが、時代の流れでフランスの人々はこれらを食べなくなった。
現在のブッシュリーは大まかな「肉屋さん」となり、精肉の他にもシャルキュトリー(ハム、ソーセージ、サラミ、テリーヌなどの加工肉)を扱っている。
フランスのシャルキュトリーは飛び上がるほど美味しい。その数はフランス国内だけで450種以上あると言われているほどだ。
(ちなみにフランスでは、ニキビができる原因はチョコレートではなく、「シャルキュトリーの食べ過ぎ」と言われている…)
そしてフランスの人々は肉を余すところなく使う。
代表的なものには「オス・ア・モエル」(os à moelle=牛肉の骨髄)があり、このようなレアなものもブッシュリーで手に入るのだ。
オス・ア・モエルはフランスの伝統的な食文化の1つで、レストランではオントレ(前菜)としてメニューに置いてあるところもある。
塩コショウでシンプルに味付けされたものをバゲットに塗って食べる、まさに「骨の髄まで」なフランスの肉食文化には感心してしまった。
そんなブッシュリーが一番賑わうのが土曜日だ。
週末に人を招いてご馳走をふるまう家庭が多いので、街のブッシュリーには朝からお客さんの来店が続く。
なかにはプーレ・ロティ(ローストチキン)専門のマシンを常設しているブッシュリーもあり、週末のメニューとして大人気だという。
今の季節であれば、ポトフ、ラクレット、牛肉の赤ワイン煮(ブフ・ブルギ二ヨン)、シュークルートなどが家庭で多く登場する肉料理だろう。
夏にはバーベキュー、秋にはキノコや栗を添えた肉料理が出たりと、フランスの肉料理は季節によっても地域によっても変わり、実にバリエーションに富んでいる。
こうして、ブッシュリーは皆の台所を支えているのだ。
時代の流れで、少しずつフランス人の食生活は変化している。
例えば、かつて食されていたウサギ肉などは、今日ではほとんどの人が食べなくなった。
世界中から人が集まるフランスなので、ヴィーガン、または宗教上の理由で肉を食べないという人も増えているのである。
しかし、言い換えれば、この国の食文化はそれほど多様性に富んだものへと変化した。
ブッシュリーのように、伝統的なフランス食と若い世代のフュージョン料理。
フランスにおける最近の食文化は本当に面白い。(せ)