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パリ最新情報「ブルス・ドゥ・コメルス現代美術館の新企画展は、チャールズ・レイ!」 Posted on 2022/02/17 Design Stories
フランスを旅する世界の人々は、パリ滞在中にこぞってアートファンとなって美術館巡りにいそしむ。
残念ながらコロナ騒ぎで、パリ好きの日本の皆さんからパリは少しばかり遠ざかってしまっているけれど。
その間にブルス・ドゥ・コメルス=フランス人実業家フランソワ・ピノーのアートコレクションが集められたプライベート現代美術館が、パリの真ん中に華々しくオープンした。
昨年5月のことである。
この美術館は我らが安藤忠雄氏による、フランス人がよく言う「ZEN(禅)=静寂、落ち着き」を感じさせる建築でもあり、耳にしている方も多いだろう。
ここで16日からインターナショナルな現代美術家チャールズ・レイの展覧会がスタートした。
チャールズ・レイは1952年シカゴ生まれ、カリフォルニア在住。
すでに半世紀をアーチストとして生きている。
しかし作品はパリでは初公開。
これだけの彼の作品が一同に集まるのは世界でも初めてのこと。
作品はミニマルで新鮮だか、懐かしさがある…例えば古代ギリシャの彫刻やイタリアバロックの彫刻から、そして今日もどこかでくりひろげられているだろう日常のシーンからインスピレーションを得ているのだ。
死んでいるのか生きているのか分からないベンチでうつ伏せになっている小人の男性。
気持ちよさそうにベンチで眠りこむ女性は路上生活者だろうか、眠りの世界は彼女を守っているよう。
ベネチアの屋外に備えられ、非難ののちに撤去となった「蛙と少年 」の裸像もある(今では多くの人がこの作品を純粋に見つめるのではなく、撤去された理由を考えてしまうが、それもアート鑑賞の面白さだ)。
真っ白な壁にかけられた十字架のないキリスト像に、何を思うかは個人の自由(ただそれはキリスト教徒の前で言わない方がいいかもしれない)。
キリスト像を見た後には、座り込んでハンバーガーを食べる男性がいる、しかしなんだか彼はロダンの考える人に似ていないか。
素材は作品により様々に異なるが、造形はロダンに大いに影響されたそうだ。が、思考的な広がりはロダンを越え、私たちを彫刻テクニックに感心する美術見学ではなく、人生に向かい合うことを教えてくれる美術見学に招き入れる。
自由に受けとめることのできるメッセージを発しながら、一作品の制作に何年もの月日を注ぎ込む、類い稀なアーチストだ。
実を言うと、チャールズ・レイ以前の、この美術館のオープニングを飾ったロトンド(円形の吹き抜けホール)の ウルス・フィッシャーの作品…巨大なロウソクの彫刻が、展覧会の最中に燃え続け、溶け続ける…が、それはもう美しく圧倒的で神がかってさえいたので、それにとり替わったロトンドのチャールズ・レイのポンコツ車が中心の作品は、引け目をとるなぁ…という第一印象があった。
しかし 彼にとっての彫刻は、その周りの空間も含め、そのスペースを移動する観客が有ることを前提としている、ということを知ると味方が変わってくる。
すなわち、私たちの姿がそこに存在する、ということを。
ポンピドーセンターでも並行して、彼のまた違った作品の並ぶ展覧会が6月20日まで開かれている (大阪の木工職人とともに10数年をかけて作ったヒノキという巨大な彫刻も)。
ポンピドーセンターとブルス・ドゥ・コメルスは徒歩10分ほどの距離。
パリ在住の方は 春待ちの休日をチャールズ・レイ・デイとするのもいいかもしれない。
そして日本在住の方は、次回近々のパリへの旅にぜひ。
(ア)